夢の城

― 登場人物 ―


仕事の話(二)
― 上 ―

主要登場人物

藤野(ふじの)美那(みな)
 玉井の市場町に住む少女。十六歳(数え年、他の登場人物も同じ)。事情があって、市場の老舗の葛餅屋「藤野屋」に預けられ、育てられている。浅梨治繁(はるしげ)の門下で唯一の女弟子でもある。牧野郷に借銭の取り立てに行っていて[桜の里(一)]、借銭の返済が遅れる間の人質という形式で、広沢家の(まり)葛太郎(かつたろう)(まゆ)を連れて帰ってきた[町に集う人びと(二)2.]。毎日、店で使う水を町の上流まで行って汲んでくるのを仕事としていて、それをめぐって中原村の地侍 長野雅一郎(まさいちろう) とトラブルを起こしたことがある[春の朝]。大松六郎彰立(あきたつ)が「春先の中原村の件だって、町娘と地侍の喧嘩だけならよかったのに、そこに榎谷の魚売りが絡んできたってだけで大騒動になって……」と言っているのはこの件である。この日の朝、葛太郎を水汲みの仕事に連れて行き[仕事の話(一)上]、その後は銭屋の寄合に出ていた[仕事の話(一)中]
笹丞(ささのじょう)
 町の銭屋の一人で、自分の倉を持っていない零細業者。この日開かれた銭屋の寄合に出ていたが[仕事の話(一)中]、積極的に発言しようとしなかった[仕事の話(一)下]
利穂(りほ)
 笹丞の妻。この章ではじめて登場する。
広沢の(まり)葛太郎(かつたろう)
 牧野郷から、借銭の返済を待ってもらうための人質として市場に連れてこられた子どもたちである[広沢三家]。葛太郎の妹の(まゆ)も含めて藤野屋に預けられている。この三人の受け入れのときに、藤野屋の主人の薫が葛太郎に「毬さんと葛太郎さんには働いていただきますよ。もう大人なんですから」と発言したことから[町に集う人びと(二)2.]、葛太郎が「仕事をする」ことを異様に気にするようになっていて、ついに店の使用人頭の橿助(かしすけ)に強引に「働かせてくれ」と申し入れてトラブルを起こした[仕事の話(二)下]。ここでは毬を交えてその収拾策を話し合っている。なお、毬の傷は、牧野郷で、隠れていた備蓄米倉庫に放火され、脱出する際に負ったものである[桜の里(六)5.]
藤野屋の(かおる)、「おかみさん」
 藤野屋の主人で、美那の養親。夫やその跡継ぎ(「敏さん」)に先立たれ、その後、店を一人で守っている。この薫が葛太郎に「働いていただきます」と言った[町に集う人びと(二)2.]ことが、葛太郎と橿助の間のトラブルの一つのきっかけになっている。
大松彰立(あきたつ)、六郎
 この章が初登場。柿原家の家臣である。甥の大松十四郎は既出[町に集う人びと(一)上]
元塚衛友(もりとも)、九郎
 この章が初登場。守護代(守護大名)の評定衆(家老)を務めているらしい。
(柿原屋敷の)小者
 彰立の部下。

話題としてのみ登場する人物

小琴(おごと)小綾(こあや)
 町の銭屋。姉妹で銭貸しをしている。笹丞と同じように自分の倉を持っていない零細業者である。
牧野からの人質
 牧野郷とその隣の森沢郷が借銭を返済できなくなったので、そのかわりに連れてこられた人質の三人の子どもたち。広沢の(まり)葛太郎(かつたろう)(まゆ)。毬と葛太郎は「主要登場人物」の項、繭はこの項の別項目に出てくる。
本寺(もとでらの)元資(もとすけ)(つかさ)屋の匡修(まさなが)甲子(かっし)屋の史晋(ふみみち)
 いずれも自分の倉を持っている銭貸したち。市場町の銭屋仲間では有力者である。
広沢の(まゆ)
駒鳥屋のあざみ、水鶏(くいな)屋のさと
 繭は広沢の葛太郎の妹。駒鳥屋のあざみと水鶏屋のさとはどちらも美那の友だち。藤野屋で三人の子どもたちを預かった日、さとは繭とお手玉で遊んでいた[町に集う人びと(二)4.]
葛太郎(かつたろう)の父
 葛太郎の父親の話が出るのはここが最初である(そのはずです……)。葛太郎は、(まり)(まゆ)といっしょに、葛太郎・繭の母親 加恵(かえ) の家で暮らしていた。
広沢の美那、広沢の美那の両親、下の家のふく、村西家
 広沢の美那は毬の実姉(藤野の美那とは別人。少なくとも本人はそう主張している)。両親(父は勝吉(かつよし)、母は木美(きみ)というらしい)は、かつて牧野郷の郷名主の屋敷に仕えていたらしい。この広沢の美那と毬が「広沢の上の家」、葛太郎と繭が「広沢の中の家」に属している。牧野郷川上村の「広沢三家」には、もう一つ、「広沢の下の家」があり、そこの娘 ふく は、村の有力者(現在は村外に脱出して柿原屋敷に身を寄せている)の村西兵庫助(ひょうごのすけ)の妻 美千(みち) に仕えてその屋敷で働いている[広沢三家]
(葛太郎のいう)「じいさん」
 藤野屋の使用人頭の橿助(かしすけ)。味覚の衰えを理由に引退を決意している[桜の里(三)4.]。葛太郎が仕事をしたいとうるさくつきまとったため、鍋が煮立つのに気がつかず、そのため葛太郎と毬をひどく叱りつけた[仕事の話(一)下]
柿原忠佑(ただすけ)大和守(やまとのかみ)、「大殿」
柿原範忠(のりただ)主計頭(かずえのかみ)、「若殿」
 大松彰立(あきたつ)が仕えている柿原屋敷の主人たち。忠佑は三郡守護代(守護大名) 春野越後守(えちごのかみ)定範(さだのり) の正妻の父で、新興金融集団「柿原党」の総帥である。範忠はその息子[春野家・柿原家]
越後守(えちごのかみ)、春野定範(さだのり)
 この物語の舞台になっている玉井三郡の守護代(守護大名)、つまりこの地域の最高権力者である[春野家・柿原家]。守護代に就任した際に、白麦山を越えた巣山を支配する柴山家の助力を得たため、その見返りに「歳幣」という金品を毎年贈与している[町に集う人びと(二)3.]。それにしても、たまに話題として出てくるだけで、とんと出番がない……。
大松十四郎(じゅうしろう)
大松彰茂(あきしげ)、五郎
 十四郎は守護代 春野定範 の「近習」になっていて、いつも評定衆(家老に相当)筆頭の小森式部大夫(しきぶだゆう)健嘉(たけよし)の屋敷にいる[町に集う人びと(一)上]。彰茂はその父で、彰立の兄である。彰茂はまだ登場していない。
小森健嘉(たけよし)式部大夫(しきぶだゆう)
 春野家の評定衆筆頭。定範の「近習」となっている若い武士たちのパトロンでもあるらしい[町に集う人びと(一)上]。玉井三郡の一つ竹井郡でわざと一揆を起こさせ、それに応えて徳政(強制的債権放棄政策)を実行しようという計画を進めている。
黒羽(くろばね)長久(ながひさ)右京亮(うきょうのすけ)
 話題としてはこの章が初出(未登場)。春野家の家臣で、山賊がいる白麦(しらむぎ)山の麓の「井川の上砦」を守っている。
白麦(しらむぎ)山の賊
 玉井郡の北、巣山郡との境界にそびえる白麦山には山賊がいるらしい。
榎谷(えのきだに)の娘、魚売り
 三郡の鎮守社である安濃(あのう)社に仕えている娘たちで、魚売りを生業にしている者がいる。藤野の美那が水汲みの権利をめぐって中原村の地侍 長野雅一郎(まさいちろう) とトラブルになったとき、美那を救った榎谷の志穂はその一人である[春の朝]
坂丞(さかのじょう)
 「笹丞」の聞き間違いらしい。

玉井春野家関係者等の系図

玉井春野家(三郡守護代家)と柿原家

正興─────┬正勝────────┬那世
 民部大輔  │ 民部大輔     │ 姉姫、深雪の方
 玉井春野家 │ 玉井春野家    │
 初代    │ 第二代      ├正稔
 大民部   │ 小民部      │ 民部少輔、幼名:信千代丸
       │          │
       └定範        └美那
         越後守        妹姫
         現在の三郡守護代
         ‖
         ‖
柿原忠佑───┬田山の方(千草姫)
 大和守   │ (定範の正妻)
 竹井郡代官 │
 柿原郷名主 └柿原範忠
 柿原党総帥   主計頭
         竹井代官代

牧野家(牧野郷名主)と森沢家(森沢郷名主)

┌牧野興治─────芹丸
│ 治部大輔
│ 治部様
│ 牧野郷名主

└興治の妹
  ‖───────森沢荒之助
 森沢為順
  判官
  森沢郷名主

桧山家(港の名主)

 桧山興孝─────桃丸(幼名)
  織部正
  港の名主

杉山家(定範政権評定衆)

 杉山信惟─────宣十郎
  左馬允

浅梨家

 浅梨治繁     鍋屋の隆文
  左兵衛尉    藤野の美那
          銭屋の元資
          車屋の丈治 らの剣術の師匠

柴山家(巣山郡代官)

 柴山時豊─────興豊────┬勝豊────────弥勒丸
  兵部大輔     兵部大輔 │ 兵部大輔      勝豊の幼い遺子
  巣山郡代官    巣山郡代官│ 巣山郡代官
                │ 狩猟中に事故死
                │
                └康豊
                  兵部少輔
                  巣山郡代官

中原家(中原郷中原村、中原郷名主家)・立岡家

 中原吉継────┬茂
  令史     │ 吉継の長女
  中原郷名主  │ ‖────────中原範大
  中原村在住  │中原克富       安芸守
         │ 造酒        幼名:十郎丸
         │ 現在の中原郷名主
         │ 町の酒屋出身
         │
         └宣
           吉継の次女
           ‖────────立岡拓実
          立岡拓実の父     府生

広沢三家(牧野郷川上村)

 広沢勝吉
  広沢の上の家
  ‖──────┬美那
 木美      │ 広沢の美那
         │
         └毬
           広沢の中の家で
           育てられている

 加恵──────┬葛太郎(葛太)
  広沢の中の家 │
         └繭

 祖母…………………ふく
           広沢の下の家
           村西家の美千に仕えている