2007年に歴史の塵捨場 (Dustbin Of History)で
レビューした展覧会・ダンス演劇等の公演の中から選んだ10選。
音楽関連 (レコード/ライブ) は別に選んでいます:
Records Top Ten 2007。
第一位
畠山 直哉 (Naoya Hatakeyama),
Draftsman's Pencil (写真展)
神奈川県立近代美術館 鎌倉, 2007/01/06-2007/03/25
画面の幾何的構造の面白さを生かしたくっきり線で描くような写真を集めたせいか、
その典型のような写真よりも、
その中に僅かに非定型なものが入り込んだかのような写真が逆に印象に残った展覧会だった。
さらに、アーティストトークでの
コンセプチャルな作風ならではのメタな話になりがちなところを
実際の撮影に使っている 4×5 のフィールドカメラと三脚を持ち込んで
具体的な話でバランスさせるその絶妙な話の進め方も、とても印象に残った。
第ニ位
Театр Ильхом,
Подражания Корану
(The Ilkhom Theatre, Imitations Of The Koran; 『コーランに倣いて』)
(演劇/ダンス)
パークタワーホール, 2007/03/10
端正な若者を思わせる預言者から婆娑羅な偽預言者、
普通のおばさんから誘惑的なナイトクラブの女まで、
様々な登場人物が演じることにより、さらに、それに映像が加わることにより、
詩やコーランの解釈が多様に時には合い矛盾して提示されていく。
その多声性が、この作品の一番の魅力だ。
それでいて、何でもありの相対主義な感じにならなかったのは、
コーランの詩的な瞬間というのを生かしていたからかもしれない。
さらに、残念なことだが、9月の芸術監督 Mark Weil 殺害事件が
この舞台を忘れ難いものにしてしまった。
第三位
Ernesto Neto 『エルネスト・ネト展』 (美術展)
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館, 2007/07/15-10/08
綿のタイツのような生地を使った有機的な形状の天蓋を吊るし、
床には軟らかいマットを敷き、低反発クッション素材や蕎麦殻、
軟らかいプラッチックボールなどを詰物に使った様々な形状の
クッションや衣装のようなオブジェを床に配している。
それは瞑想的なコクーンというより、幼い子供向けのプレイスペースだ。
ギャラリーや美術館で子供たちがこれほど楽しんでいるのを観たのは初めてだ。
第四位
Les Apostrophés,
Passage Désemboîté
(大道芸/野外パフォーマンス)
in 『三茶 de 大道芸』, 2007/10/20,21
accordeon 弾きに導かれて半ば回遊しながら街のあちこちで寸劇を繰り広げる約1時間半のパフォーマンス。
その魅力は、技というより、雰囲気作りの巧さだ。
奇抜な衣裳や音楽で目を引くわけでも、派手な大技を使うわけでも、
掴みから判り易く滑稽な動きをするというわけでもない。
しかし、技を強く意識させない動きの中に豊かな表情や細かい仕種を積み重ね、
街中を自分達の世界に塗り替えていく。
第五位
タムラサトル 『Point Of Contact 接点』 (美術展)
TSCA Kashiwa, 2007/04/21-05/27
不安定な摺動接点が発する接点火花と
摂動接点が作り出す不安定な電流による白熱灯のゆらめきそのものの面白さが、
TSCA Kashiwa の広さ高さのある空間を得て、
テーブルに載る小さな作品から
2階吹抜けの天井から鉄球を吊す巨大な作品まで、
様々な規模で展開されていた。
第六位
『大辻 清司 の写真 —— 出会いとコラボレーション』 (写真展)
松濤美術館, 2007/06/05-07/16
大辻のようなコンセプチャルな写真家はその表現の文脈を知れば知るほど
味わい深くなるのだということを実感した回顧展だった。
さらに、コンセプチャルな面だけでなく、
私的な写真に対する彼なりのアプローチを垣間見ることができたのが、
とても興味深く感じられた展覧会だった。
第七位
Familia Productions, Khamsoun: Corps Otages
(『囚われの身体たち』) (演劇)
にしすがも創造舎特設劇場, 2007/03/17
若い世代のイスラム主義と親の世代の近代主義的な左翼主義の間の葛藤、
拷問で彩られた独立後チュニジアの抑圧の歴史を描いたものだが、
アラビア語のセリフが判らなくても
身のこなしやメタファー的な小道具が充分に物語っていたように感じた舞台だった。
特に、作品の終り近くでヘジャブを被らず長い髮を現わにした状態で
Amal が踊る旋回舞踊のソロは、重い主題の中、救済のような感動があった。
第八位
John Wood & Paul Harrison (美術展)
森美術館ギャラリー2, 2007/02/28-05/06
単純な動作 (とその反覆) とそれに対する物体の動きを
固定カメラを使いミニマルに撮影することにより、その物理的特徴を表現してみせる。
それ以外にほとんど意味の無い動作と物の動きが生み出す
ナンセンス・ユーモアに限りなく近い面白さだ。
第九位
Sasha Waltz & Guests, Körper (ダンス)
彩の国さいたま芸術劇場大ホール, 2007/07/28
物語的な展開の薄さと即物的な身体の扱いもあってか、
立体作品の中に身体を置くアート的パフォーマンスを少々思わせる。
ダンサーの身体が絵やオブジェのように扱われるシュールさが面白かった。
第十位
内藤 礼 『母型』 (Rei Naito, Matrix) (美術展)
入善町 下山芸術の森 発電所美術館, 2007/10/06-12/16
行った時は限りなく雪に近い雨の降る天気で、
靴下一枚で歩き回っていると、その床はひんやりというにはちょっと冷た過ぎる。
そんなこともあり、足を温めるために途中に休憩を入れたり、
外の展望台に登って気分転換したりもした。
それでも、暗くなるまで1時間余り、
微かな光を追い続けてしまうくらいの面白さはあった。
番外特選
Pipilotti Rist, Karakara (美術展)
原美術館, 2007/11/17-2008/02/11
この回顧展そのものが良かったという程ではないが、
この展覧会をきっかけに、rock を元ネタとしたビデオ作品
"I'm Not The Girl Who Misses Much" (1986) や
"I'm A Victim Of This Song" (1995) を
見直して、その面白さを改めて確認することができた。