2007年に音盤雑記帖 (Cahiers des Disques)
で取り上げた最近2〜3年の新録リリースの中から選んだ10枚。
展覧会・ダンス演劇等の公演の10選もあります:
2007年公演・展覧会等 Top 10。
#1
John Hollenbeck & Jazz Bigband Graz featuring Theo Bleckmann
Joys & Desire
(Intuition, INT3386-2, 2005, CD)
The Claudia Quintet でも聴かれる John Hollenbeck の
IDM (intelligent dance music) 以降ならではのビート感覚が、
jazz big band と巧く融合してした一枚。
多層的なビート感が巧みに管楽器の音の重層へと翻訳された brass band 的な音だ。
(Cryptogramophone, CG134, 2007, CD)
1990年代前半の Myra Melford Trio の復活を思わせる、
強力なリズム隊を従えての強く華やかな音色での打楽器的な演奏と
メロディアスな演奏が共存する free な jazz piano trio が楽しめる。
#3
Villalobos
Fizheuer Zieheuer
(Playhouse, PLAYCD021, 2006, CD)
Fabric 36 (Fabric, FABRIC71, 2007, CD)
も捨て難いが (
レビュー)、
2006年のリリースとなるが、
brass の柔らかい音のテクスチャで micro house 的な感覚を作り出したこのシングルを。
techno/house/breakbeats のビートの上に brass の演奏を乗せたものではなく、
tuba が奏でる軟らかい和音と hand drum の硬質な音による短いフレーズを反復させ、
ビートを作り出している。
#4
Feryal Öney
Bulutlar Geçer
(Kalan, CD390, 2006, CD)
Kardeş Türküler の女性歌手のソロ名義のアルバムは、
Kardeş Türküler 同様アコースティックな音作りを基調しつつ、
electric な guitar や saz のディストーションや
electronica 以降を感じさせる sound effect を大胆に導入している。
確かに、音数を抑えて楽器音のテクスチャを強調しつつ
音の隙間を生かし立体的・多層的に音を配置する自由度の高い音空間の中で、
Öney は旋律やリズムに縛られずに自由に歌っている。
#5
Root 70
Heaps Dub: Plays the Music of Burnt Friedman & The Nu Dub Players and Flanger
(Nonplace, NON20, 2006, CD)
Hayden Chisholm のまるで clarinet のようなソフトな reeds の音色は
Nils Wogram のユーモラスな trombone ととても相性が良く、
それだけでも魅力的だ。
さらに、そんな 4tet が、Burnt Friedman と Flanger による
jazz イデオムの強い electronica の文脈の曲を演奏することにより、
人力IDMのようなビートの反覆感が加わり、より魅力的なものになっている。
#6
Lucas Niggli Big Zoom
Celebrate Diversity
(Intakt, CD118, 2006, CD)
この 5tet の Nils Wogram & Claudio Puntin は、
Root 70 での Nils Wogram & Hayden Chisholm を思わせる所もあるが、
Puntin のフレーズはもっと技巧的で、そのアクロバティックな2管の絡みも、
室内楽的な柔らかい音の落ち着きも楽しめる作品になっている。
#7
Khaled AlJaramani / Serge Teyssot-Gay
Interzone Deuxième Jour
(Barclay / Universal (France), 984485-6, 2006, CD)
Teyssot-Gay の歪んで鈍い重めの音色の electric guitar と
AlJaramani のアコースティックな oud をかき鳴らし合うジャム・セッションだ。
Teyssot-Gay はオリエンタルな旋法に歩み寄ることなく、
Noir Désir で聴かせていたような alt rock っぽい少し愁いを感じるようなフレーズを弾いている。
学究肌でもなければ "world music" 的な受け狙いも無いそっけなさが、
逆にこのアルバムの魅力になっている。
#8
Cesare Dell'Anna e TarantaVirus
Lu_Ragno Impoverito
(11/8, 11/8-005, 2006, CD)
tarantella を思わせる frame drum のカシャカシャ高い音刻む細かいビート、
hand drum の乾いた音が刻むビートと、重めのベースライン、
そして、Dell'Anna の細かいタンギングは戦闘的ながら浮遊するような trumpet のソロや、
深くエコーをかけられて漂う詠唱などが、
少々 dubwize とも感じる多層的な音空間を作り出している。
Opa Cupa 率いる Cesare Dell'Anna の幅広い活動の成果だ。
#9
Аукцыон (Auktyon)
Девушки Поют (Girls Sing)
(Геометрия (Geometry), GEO 012 CD, 2007, CD)
ソ連時代から活動する
Аукцыон (Auktyon, アウクツィオン) が
ダウンタウン (down town) 〜 ブルックリン (Brooklyn) のシーンで活躍するミュージシャンらをゲストに迎えて制作した新作は、
良い録音とテンション高い演奏で、今まで中でも出色の出来だ。
東欧的な旋律も感じるギクシャク気味のリズムを持った avant/alt rock をベースに、
brass band 的な要素を合わせ、 Fedorov が少々演劇的でシャガレた歌声で歌う。
それはロシアの Tom Waits とでもいう音世界だ。
#10
Michel Godard - Gavino Murgia
Deep
(Intuition, INT3415-2, 2007, CD)
Murgia の倍音成分の多い低音の throat singing、
サルデーニャのテノール節 (cantos a tenore) の下声 (bassu) のパートを
ソロにしたような歌声が、
Godard による serpent の少しくぐもった低音金管楽器のゆったりした響きの間を、
自由に飛び回っている。
(Elec-Trip, no cat. no., 2003, CD)
カフカース (Кавказ / Caucasus) から
シベリア (Сибирь / Siberia) に至る
中央ユーラシア各地の伝統的な音楽と sampling や loop を組み合わせたものだが、
ダンスフロアを意識したような曲は多く無ければ、
ポップなキャッチのあるトラックも無い。
その生演奏とテクスチャを生かした音作りは、
Tied & Tickled Trio や Four Tet が
中央ユーラシアの伝統的な音楽をやっているような感すらする。
番外特選
Tenores di Bitti "Mialinu Pira", Officina Zoè, Riccardo Tesi & Banditaliana
live @ イタリア文化会館 東京, 2007/06/01,08,15
「地中海の夕べ」シリーズの一連のコンサートは
イタリアの folk/roots 寄りの音楽の多様さを充分に楽しむことができるものだった。
さらに、コンサート後の立食パーティ料理の美味しさが
その楽しさをより大きなものにしてくれた。