2011年に歴史の塵捨場 (Dustbin Of History)で
レビューした展覧会やダンス演劇等の公演の中から選んだ10選。
音楽関連 (レコード/ライブ) は別に選んでいます:
Records Top Ten 2011。
第一位
Rimini Protokoll:
Black Tie
(演劇)
神奈川芸術劇場 大スタジオ, 2011/02/26.
1977年に韓国に孤児として生まれ養子としてドイツで育てられた女性の人生を舞台化した作品だ。
彼女自身が舞台に立ち、アイデンティティ、養子ビジネス、遺伝子検査ビジネスなどの問題等を
コンピュータを操作しながら関係する写真や書類をプロジェクタに投影しつつ、
感情を排して淡々と語っていく。それがぐっと心を打つ舞台だった。
第二位
畠山 直哉
『Natural Stories』
(写真展)
東京都写真美術館, 2011/10/01-2011/12/04.
今回の展覧会で展示された一連の作品の画面から感じる秩序を感じる線と不定型な形状がせめぎあうような静かな緊張感は、
単なる形式的な問題というだけではなく、人間の営みと自然の接点にある種の緊張感の反映といえるのかもしれない。
そして、津波の被災地というのも、石灰岩採掘場などと同様、そんな緊張が露になった場所ということなのかもしれない。そんな事に気付かされた展覧会だった。
第三位
Sylvie Guillem:
Rearray / Adieu
(バレエ)
Hope Japan (B Programme), 東京文化会館, 2011/10/30.
Rearray は、暗転が多用され区切られていくため、
ストーリー的な流れというものが感じられず、そのシャープな動きの瞬間瞬間を見せ付けられるよう。
一方、Adieu は
主人公の女性が転居で住み慣れた部屋に別れを告げるその様子を演じたかのような物語を想起させるような、
ちょっと感傷的で可愛らしくもある作品だった。
第四位
Christian Marclay: The Clock (美術展)
『ヨコハマトリエンナーレ2011』, 2011/08/06-11/06.
古今東西の映画の中から、画面中に時計を捉えたシーン、もしくは、時刻に言及したシーンを集めて編集した 24時間の長さの映像作品は、
映画における時間表現の類型がうかびあがってくるところだけではななく、
その類型を利用した異なる時代やジャンルの映画を繋ぐシュールさも面白かった。
『ヨコハマトリエンナーレ2011』や『BankART Life III』はいまいちだったけれども、この作品に救われた気がした。
第五位
Sylvie Guillem, Robert Lepage, Russell Maliphant:
Eonnagata
(ダンス・シアター)
ゆうぽうとホール, 2011/11/19.
時として女性として時として男性として生きた性別が不詳の人物 Chevalier d’Eon を描くとこにより性のアイデンテティの問題を俎上に上げるのではなく、
Guillem に主に女性としての d'Eon を、Maliphant に主に男性としての d'Eon を体現させ、
男性と女性の入れ替わりや混在を Lepage らしい照明を効果的に使ったトリッキーな演出でみせる、そんな作品だった。
第六位
Susan Philipsz:
Did I Dream You Dreamed About Me
(美術展)
Mizuma Action, 2011/08/23-2011/08/27.
照明を暗くしたギャラリーに、
無伴奏で This Mortal Coil での Elizabeth Frazer よりは素直な歌声でささやかに歌う “Song To The Siren” と、
vibraphone の疎に漂うような演奏が、繰り返される流される、それだけのインスタレーションだ。
しかし、リアルタイムの1983〜4年にレコードが擦り切れる程この歌を繰り返し聴いた自分にとっては、
虚ろな空間に漂うように歌われるこの歌だけで持っていかれるような所があった。
第七位
Volksbühne am Rosa-Luxemburg-Platz / René Pollesch:
Cinecittà Aperta: Ruhrtrilogie Teil 2
『無防備映画都市 —— ルール地方三部作・第二部』
(演劇)
豊洲公園西側横 野外特設会場, 2011/09/23.
とめどない議論からなるドイツ語のセリフは追いきれなかったし、
散りばめられた映画ネタは判ったものの方が少ないとは思うけれども、
それでも、映画セットのスケールそのままに、
そこで演劇を見せてしまう強引さや不条理さ、表現手法のズレが生むユーモアが充分に楽しめた作品だった。
第八位
『視覚の実験室 モホイ=ナジ/イン・モーション』
(美術展)
神奈川県立近代美術館 葉山, 2011/04/16-07/10.
新鮮という程では無かったが、量も多く、見応えのある展覧会だった。
構成主義的なコンポジションやフォトモンタージュももちろん好きだけれども、
1920s-30sに制作された6本の白黒映画を観ることができたのも収穫だった。
第九位
宮永 愛子
『そらみみのおすそわけ』
(美術展)
CAPSULE, 三宿, 2011/11/03-2011/11/06.
直径20cm程の貫入青磁釉の陶の平茶碗の釉に貫入が入る際に生じる
数分に一回程度の間隔で鳴る微かな音に聞き入りながら、
自分の感覚を静かにピンと研ぎすましていくようだった。
第十位
Compagnie Gwénaël Morin:
Bérénice d'après Bérénice de Racine
『ラシーヌの「ベレニス」による「ベレニス」』
(演劇)
神奈川芸術劇場 ホール, 2011/02/19.
最初のうちこそ少々シリアスだったが、そのうち状況に最も振り回される Antiochus が悲喜劇的に可笑しくなってしまった。現代では三角関係は悲喜劇にしかならない、とでもいうかのような。
舞台を現代に移して翻案しておらず、そのズレも観ているうちにじわじわ効いてくるユーモアを感じた。
次点
杉浦 康平
『脈動する本 デザインの手法と哲学』
(デザイン展)
武蔵野美術大学美術館, 2011/10/21-12/17.
初期から現在に至る様々なデザインの歩みを約1000点もの作品を通して示した、非常に見応えのある展示だった。
本文中の鍵になるテキストや図版を表紙・裏表紙等に使うその一方で、
本文ページの周辺部に表示・裏表紙のデザインが浸食してくるようなデザインをするのだけれども、
そんな表紙から本文への流れを意識しているのは建築的なセンスだという「脈動する本」のコーナーでの指摘には、なるほどと思わされた。