2011年に音盤雑記帖 (Cahiers des Disques)
で取り上げた最近2〜3年の新録リリースの中から選んだ10枚+α。
展覧会・ダンス演劇等の公演の10選もあります:
2011年公演・展覧会等 Top 10。
#1
Ricardo Villalobos / Max Loderbauer
Re: ECM
(ECM, ECM 2211/12, 2011, 2CD)
マルチトラックのマスター音源を元に打ち込みのリズムパート等を加えてリミックスしてダンストラックとして再制作するのではなく、
一旦完成した ECM 音源をサンプルとして利用して live-mixing-board-system と modular synthesizer を使って制作されている。
個々のサンプルの音に残る ECM 独特な音処理の痕跡と、そんなECM音源を使った electronics の「演奏」が楽しめた。
(yb music / Núcleo Contemporâneo, YBCD060, 2010, CD)
guitar や metalofones (鉄琴) による最低限の伴奏を背景に、
時に Becker 自身も弾きながら、呟く程ではないが少し力の抜けた艶かしい歌声でゆったりした曲調の歌を聴かせる。
ぼんやり広がるようなリヴァーヴを効かせたり、割れたような歪みを時折僅かに感じさせたりする録音で、音数の少なさもあって、音に自体に艶かしさを感じるようだ。
#3
Moritz von Oswald Trio
Horizontal Structures
(Honest Jons, HJR54, 2011, CD/DL)
Max Loderbauer と Moritz von Oswald が作り出す淡くうねるような電子音のテクスチャ、
そのテクスチャの上に疎に撒かれるような Vladislav Delay の metal percussion の音も相変わらず良い。
さらに、2人の弦楽器のゲストを加えることにより、淡々とした雰囲気ながらも音空間を広げていた。
Vladislav Delay Quartet のライブ [
レビュー] も良かったけれども。
#4
Giovanna Pessi / Susanna Wallumrød
If Grief Could Wait
(ECM, ECM2226, 2011, CD)
baroque harp や viola da gamba の鈍い響きはバロック音楽を思わせるところがあるが、
Susanna はポピュラーソングのカヴァーのように、緩く漂い、呟くように歌う。
Henry Purcell の歌もまるで20世紀のポピュラーソングのようだ。
(!K7, K7291CD, 2011, CD)
硬質な dubstep と minimal techno の間を行き来するようだが、
それほどディープに過ぎず、さらには1990年前後の Detroit techno などを思わせるような時もある。
そのノリの良い勢いのある mix が良い。
#6
Friedman & Liebezeit
Secret Rhythms 4
(Nonplace, NON30, 2011, CD)
新展開があまり感じられなかったのは少々残念だが、
hang drum をはじめとるす浮遊するよう音色が淡々と刻む
複合拍子の旋回するようなリズムが楽しめた。
(Pingipung, 21, 2011, CD)
南ロシアのクラスノダール (Краснодар, RU) はロシアの techno/electronica シーンの主要都市となっている。
そんな街を拠点とする Modul は IDM からよりダンス志向の tech house に作風を変えてきているが、
別名ユニット Wols での新作はより低音で downtempo を指向した dubstep の影響を感じる音作りで、
イギリスやドイツの DJ/producer と比較してもあまり遜色無く洗練されたものになっている。
(Pinkflag, PF18, 2011, CD)
この新作は1980年代の Wire の作品を連想させられるような所も多かった。
けれども、Wire 的な post-punk の現代流再構築だったのではないか、
ファンの贔屓目かもしれないが、そんなことを考えさせる程度に興味深い作品だった。
#9
Orczi Géza - Szabó Zoltán
Tündérek És Boszorkák - Balkáni Dudák És Dobok [Elves & Witches - Balkan Bagpipes & Drums]
(Csörsz Rumen Istován, CsRI006, 2009, CD)
Orczi が tapan (davul) や tarabuka (darbuka) で叩き出すリズムに乗りながら、
Szabó が duda (bugpipe)、zurna 等を甲高く吹くというのが基本的な展開だ。
しかし、半数近い曲で tuba をフィーチャーしており、大きくグルーヴ感を大きく加えている。
#10
Static
Freedom Of Noise
(Karaoke Kalk, CD60, 2011, CD)
jazz/improv のミュージシャンの参加という点でも、この Static の新作は、
Moritz von Oswald Trio [
レビュー]、
Vladislav Delay Quartet [
レビュー] や
Ricardo Villalobos / Max Loderbauer の
Re: ECM
[
レビュー] に非常に近い文脈にある。
こういった一連の音作りの中で歌を扱うことを試みた作品、とも言えるかもしれない。
番外特選1
Paul Frick feat. Emika
I Mean
(Doppelschall, DPS006, 2011, 12″/DL)
minimal techno を生演奏した
Brandt Brauer Frick:
You Make Me Real
[
レビュー] や
The Brandt Brauer Frick Ensemble:
Mr. Machine
良かった。しかし、Emika がコンセプト立案した
Fünf [
レビュー]
を連想させられるトラックに、サラリとクールな呟きでありながらふと見せる抑揚の中に
艶かしさを感じさせる歌声を Emika は載せる。その取り合わせが良かった。
live @ WWW, 渋谷, 2011/05/28
レパートリーの多くは抵抗歌だったが、力強く歌い上げるような歌い方ではなく、
声に決然とした強さを秘めながらも少々たどだどしく感じるように途切れ途切れに歌う。
奇を衒ったようなアレンジも無く淡々と。
その結果、抵抗歌にしては内省的、内なる敵に対峙するように聴こえた。