2012年に歴史の塵捨場 (Dustbin Of History)で
レビューした展覧会やダンス演劇等の公演の中から選んだ10選。
音楽関連 (レコード/ライブ) は別に選んでいます:
Records Top Ten 2012。
Kassel, Deutschland, 2012/06/09-2012/09/16.
ここまでがっつりコンセプチャルにディレクションされた展覧会を観るのは久しぶり。
というか、ここまで仕組まれた展覧会を観たのは初めてかもしれない。
よく読み解けたと言うには程遠いけれども、感じ取るというより読み解くように展覧会を楽しんだ。
もちろん、Janet Cardiff & George Bures Miller のビデオや音響を使ったARインスタレーション、
Tino Sehgal の暗闇の中でのパフォーマンス作品、
Rabih Mroué の現在進行中のシリア内戦を扱ったインスタレーションなど、
興味深い個々の作品にも出会うことができた。
第二位
Fondazione Pontedera Teatro:
Lisboa (野外劇)
沼津中央公園, 2012/04/28.
自転車を使ったダンス的なパフォーマンスや、
パフォーマー自身が accordion や tuba などを演奏し歌う少々哀愁を感じる南欧の民謡のような音楽 (fado ではない)、
黒スーツにソフト帽といういでたちの存在感、といったものを通して、
Fernando Pessoa の住んだ20世紀初頭のリスポン (Lisbon) の街の雰囲気を
沼津中央公園とその界隈に作り出そうかというパフォーマンスだった。
第三位
辰野 登恵子 / 柴田 敏雄 『与えられた形象』 (美術展)
国立新美術館, 2012/08/08-2012/10/22.
単に大学時代に同級生で一緒に活動していたというだけではなく、
抽象の中での形へのこだわりという点で写真と絵画を繋いでいたという点で、この企画は巧く構成されていた。
柴田 敏雄 の写真はそれなりに観てきてるけど、この組合せのおかげで新鮮に観ることができた。
また、辰野 登恵子 の絵画も今までグループ展コレクション展で観たことはあったけれども、
柴田の写真を手掛かりにやっとそのポイントが掴めたような気がした。
東京日仏学院, 2012/05/12.
確かにマジックの技を使ったものもあったものの、
むしろコンテンポラリー・サーカスにマジックの要素も加えたよう。
マジック、ダンス、マイム、ジャグリングにアクロバット、
そして生演奏の伴奏だけでなくコミカルなシャンソンショーのようなものまで。
パフォーマンスによって場を作り替えるような抽象度の高い洗練されたパフォーマンスが楽しめた。
第五位
Frederick Wiseman (dir.): Crazy Horse (映画)
邦題 『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』, France/USA, 2011.
Philippe Decouflé が手掛けたパリの Crazy Horse でのヌード・ショー (risque show) の
制作の様子を70日間密着取材したドキュメンタリー映画。
冒頭の方で出て来た「インテリをあっと言わせてやる」という Decouflé の意気込みはもちろん
世界トップレベルのヌードショーを見せるキャバレーとしてプライドを持ってスタッフも仕事する様子は、
観ていて引き込まれるところがあった。
第六位
The Adventures of Alvin Sputnik - Deep Sea Explorer
(演劇)
静岡県舞台芸術公園 稽古場棟「BOXシアター」, 2012/06/03.
人形劇とアニメーション映像、そして、自身による演技と生演奏も交えたこのパフォーマンスは、
それらの切り替え組み合わせを想像力を喚起させる契機となるように使った作品だった。
手作り感を残しながらスタイリッシュでアイデア溢れた演出で、
作品世界への引き込み方も巧みで最後にはうるっとくるほど感情移入させられた。
第七位
松江 泰治 『世界・表層・時間』 (写真展)
IZU PHOTO MUSEUM, 2012/08/05-2012/12/25.
パンフォーカスでグラフィカルな風景を捉えた写真で知られる 松江 泰治 の個展は、
今まで観てきたものとは少々異なる傾向の作品に興味を引かれた展覧会だった。
特に、アルプスの山裾を撮ったビデオ作品は、
淡い日の陰り具合の変化が雲の灰色の濃淡のむらの変化の反映と気付くと、
風景の写真作品と流れる雨雲のビデオ作品の重ね合わせを観るようで、興味深く感じられた。
第八位
Cie Willi Dorner: Bodies in Urban Spaces (パフォーマンス)
神奈川芸術劇場—横浜中華街—元町—港の見える丘公園, 2012/09/29.
鮮やかな色のフード付きジャージ上下に身を包んだパフォーマーたちが街ののあちこちで日常ではあり得ないポーズを取っていくというパフォーマンスは、
オブジェを使った街中インスタレーションと違い、「そこで何をやっているの?」と思わせるような所がある。
そして、それが、単に街を異化する以上のユーモアを生んでいた。
第九位
Teater Studio Indonesia / Nandang Aradea:
Emergency: The Bionarration of a Disjointed Body
(パフォーマンス)
池袋西口公園, 2012/11/10.
インドネシアのカンパニーによるパフォーマンスは、
竹竿を使った動きを繰り広げつつ、最終的には直径5m近い傘か独楽のような巨大なオブジェを組み上げるというもの。
組み上げられ少しずつ大きくなっていく竹のオブジェ、そして、そのオブジェの変化に従って変化するパフォーマーの動きが面白かった。
第十位
『幻のモダニスト —— 写真家 堀野正雄の世界』 (写真展)
東京都写真美術館 3階展示室, 2012/03/06-2012/05/06.
1920s-30sに活動した新興写真の写真家、堀野 正雄 を200点余の資料を通して全体像を捉えた展覧会。
写真実験から満州での活動まで幅広い活動のどれもが興味深く、
一人の写真家に焦点を当てた展覧会にもかかわらず、 戦間期モダニズムの雰囲気を堪能できた展覧会だった。
次点
『生誕100年 藤牧義夫展 —— モダンとしの光と影』 (美術展)
神奈川県立近代美術館 鎌倉, 2012/01/21-2012/03/15.
同時期に葉山で開催されていた『すべての僕が沸騰する —— 村山知義の世界』もとても興味深く観られた。
しかし、新版画集団 に参加するなど 1930年代前半に活動したこの版画家の展覧会は、
鉄橋やガスタンク、工場などすっかりモダンな景観となった隅田川を近世的な技法の長大な白描絵巻で描いたこんなモダンな絵巻があったのかと、
新版画の界隈についての興味をかきたてられた展覧会だった。