2012年に音盤雑記帖 (Cahiers des Disques)
で取り上げた最近2〜3年の新録リリースの中から選んだ10枚+α。
展覧会・ダンス演劇等の公演の10選もあります:
2012年公演・展覧会等 Top 10。
#1
Burnt Friedman
Bokoboko
(Nonplace, NON33, 2012, CD)
Jaki Liebezeit との duo ではないが、
製パーカッション等のアコースティックな音と複合拍子のポリリズミックなビートが楽しめた。
冒頭をはじめ各所に入る緩んだ弦のようなサワリ入りの音や、
時折ソロのようにかき鳴らされるように連続的に鳴らされる鈍い弦の音など、
軽く緩い音色も良かった。
#2
Ricardo Villalobos
Dependent And Happy
(Perlon, PERL92CD, 2012, CD)
Re: ECM に比べるとグルーヴがあるが、執拗な反復と比べて展開はトリッキー。
彷徨うような electric piano のフレーズ、控えめな tabla 様の音など、 反復から外れて複雑さを生むような音も耳を捉えた。
グルーヴ感とのバランスも絶妙なアルバムだった。
#3
Cecilia Zabala
Presente Infinito
(not on label, 2011, CD)
英語歌詞もあってフォーキーな indie rock を思わせるような音になったが、
明るい歌声ながら変則的なリズムが良い緊張感を生み出している。
歌声と絡む軽快な音色の管楽器 (clarinet や soprano sax、flute) も、
異なるイデオムを持ち込むようで、そこも良かった。
(Electronica [Russia], EDG011, 2012-04-20, DL)
2000年代半ば頃までロシアのアンダーグラウンドな EDM (electronic dance music) シーンは
IDM (intelligent dance music) のスタイルが支配的だったのだが、
2000年代末から minimal / dub techno が目立つようになっている。
そんな中でも、Unbroken Dub は最注目株だ。
Rain EP 雨音のテクスチャも繊細なディープな dub techno だ。
#5
Στέλιος Πετράκης [Stelios Petrakis] / Efrén López / Bijan Chemirani
Μαύρα Φρούδια [Black Eyebrows]
(Μελωδικό Καράβι, ΜΚ3325, 2011, CD)
東はアフガニスタンから西はプロバンスまで、地中海を核に広く曲を採ってくるのは相変わらず。
しかし、歌手をフィーチャーせずに、編成をコアの3人に絞り、個々の演奏をより際立たせている。
少人数のインストゥルメンタルの編成ならでは。切れ味良い演奏を楽しむことができた。
(Text, TEXT018, 2012, DL)
木琴類の乾いた軽やかな音や繊細なハーブの音などの軽やかで色鮮やかなサンプリングも健在だが、
前作 There Is Love In You で特徴的だった歌声のサンプリングは少なめ、
淡々とダンスフロア指向を強めたかのよう。
曲順も単なるシングルの曲を並べたという以上の展開を感じさせ、
前作にも劣らないアルバムになっている。
#7
Nils Wogram Septet
Complete Soul
(NWOG, 004, 2012, CD)
このほぼ管楽器の7人編成の織りなすテクスチャも良いが、
まるで trombone/guitar/drums tiro かと思うような小回りの効いた演奏で
変化の富んだ曲を聴かせるところが、楽しいアルバムだ。
#8
Moritz von Oswald Trio
Fetch
(Honest Jon's, HJRCD67, CD, 2012)
しかし、今までの作品以上にそのテクスチャの上に疎に撒かれるような音
— 例えば金属オブジェをガシャーンと鳴らすような音 — が大きく唐突になっており、
その音が音空間の立体感を強めている。 その一方で、その音が反復感を異化してしまうので、ノリは控えめ。
フィーチャーされた管楽器の扱いもソロを乗せるのではなく、他の物音とほとんど同じようだった。
(World Village, 450018, 2011, CD)
Bojan Z の内部奏法などを駆使した演奏での伴奏のような曲が少なかったのは少々物足りなかったけれども、
Amira の blues 的とも感じる (彼女はそれを Sevdah と呼んでいる) 歌い方は
jazz 的なニュアンスもある演奏に自然に馴染んでいた。
#10
Filiz İlkay Balta
Vişne
(Colchis Müzik, no cat. no., 2011, CD)
女性の tulum 奏者によるトルコ黒海地方の民謡の演奏だが、アコースティックながら現代的なプロダクション。
小編成の彼女の歌声と tulum の音を生かしたさっぱりしたアレンジに、ちょっと細く感じる彼女の歌声も可憐に感じられた。
次点
Michel Aumont
Le Grand Orchestre ArmorigènE
(Innacor, INNA11214, 2012, CD)
ブルターニュの clarinet 奏者による新作は、
clarinet、tuba、vielle を含んだ編成で jazz/improv 色濃い演奏を聴かせてくれた。
このアルバムで vielle を弾いている Valentin Clastrier による
1990年代半ばの Silex レーベル界隈での試みを、甦らせているようでもあった。
番外特選
The Music Of Salvatore Sciarrino
concert @ 東京オペラシティ コンサートホール:タケミツ メモリアル, 初台, 2012/01/17
flute と saxophone 合わせて200人が舞台に乗る様子は予想したよりはみっしり感は無かったけれども、その音は期待以上に面白かった。
音量をかせぐために人数を動員しているというより、
ぱたぱたいうバッドの音やかすれたような微かな音、弾くようなタンギング音など、
本来での演奏ではノイズの部分になるような音 (多くの場合は微かな音) を100本分集めて、
独特な音響にしていた。