夢の城

― 登場人物 ―


桜の里(六)
― 5. ―

主要登場人物

藤野(ふじの)美那(みな)
 玉井の市場町に住む少女。十六歳(数え年、他の登場人物も同じ)。事情があって、市場の老舗の葛餅屋「藤野屋」に預けられ、育てられている。徳政(債権放棄令)に名を借りた柿原党の策略から同門の銭屋の元資(もとすけ)を救うために、浅梨治繁の門下の兄弟子の隆文と、銭屋で働く娘さわといっしょに、牧野郷に借銭の取り立てに来ている[何をなすべきか(二)]。その二人といっしょに、明徳教寺(めいとくきょうじ)の「僧坊」で出会った森沢荒之助に話を聞いている[桜の里(六)3.]。「広沢の美那」とは別人(少なくとも自分ではそう言っている)[桜の里(六)2.]
森沢荒之助(あらのすけ)
 森沢の郷名主の跡継ぎの青年。父は森沢判官(はんがん)為順(ためより)で、もう亡くなっている[桜の里(六)4.]。藤野の美那たちが泊まっている明徳教寺のお堂「僧坊」の中央の間になぜか一人でこもっていた。本人は「囚われている」などとうそぶき、部屋に入ってきた隆文を射殺そうとしたが、しだいに打ち解けてきている[桜の里(六)3.]
鍋屋の隆文(たかふみ)上総掾(かずさのじょう)
 市場の鍋屋で働いている。美那や元資とともに浅梨治繁に剣を習っており、現在の弟子のなかでは一番上である。藤野の美那とは意地を張り合うことが多い。現在は銭屋の使者三人のリーダー格になっている。この場に来ていきなり「上総掾」などと名のりだした[桜の里(六)3.]
(銭屋の)さわ
 市場の娘。市場の銭屋で働いている。駒鳥屋のあざみ、宿屋のさと、鋳物屋のみやなどと友だち。藤野の美那、鍋屋の隆文といっしょに借銭の取り立てに来た。意外とマイペースな性格で、もしかすると凶暴?[桜の里(六)2.]
(まり)、広沢の上の家の〜
 「広沢三家」の一つ「上の家」の女の子。「広沢の中の家」の葛太郎(かつたろう)(まゆ)と同居している。現在、牧野家の屋敷跡の「義倉」に身を隠していて、牧野興治(おきはる)の夢を見て目が覚めたばかりだ[桜の里(六)3.]。藤野の美那と同名の美那という実姉(広沢の美那)がいたらしいが詳しいことは知らないようだ。
安総(あんそう)(安総尼)
 川上村の村長木工(もく)国盛(くにもり)の娘。出家して尼になり、川中村の明徳教寺に住む中橋渉江(しょうこう)に仕えている。丸顔で目のぱっちりした若い娘。
義倉(ぎそう)に放火した犯人たち
 ここでは名まえが出てこないが、この少しまえ、そんな計画を相談していた人たちがいた[桜の里(六)1.]

話題としてのみ登場する人物

森沢為順(ためより)判官(はんがん)、荒之助の父
 森沢郷の郷名主だった人物で、荒之助の父である。牧野治部大輔(じぶのたいゆう)興治(おきはる)の妹を妻にしていた。「牧野の乱」に参加し、重傷を負って亡くなったが、外部には後に病死したと発表している[桜の里(六)4.]
春野正稔(まさとし)民部少輔(みんぶのしょうゆう)
 幼名は信千代丸(のぶちよまる)。春野正勝(まさかつ)の息子で、現守護代の定範の甥にあたる。正勝が亡くなった後、元服してその地位を継ぎ、攻め寄せた柴山康豊軍を村井峠の戦いで撃退したが、その後、定範に捕らえられて島流しにされ、守護代の地位を奪われた。島で亡くなったと伝えられている。
深雪(みゆき)の方、那世(なよ)
 春野正勝の長女で、正稔の姉。結婚していたが、正稔といっしょに捕らえられて島流しにされ、同じように亡くなったと伝えられている。
美那姫、(春野家の)妹姫
 春野正勝の次女で、那世(深雪の方)と正稔の妹。正稔が捕らえられた後、城館に軟禁されていたが、井戸に落ち、亡くなったと言われる。毬が「井戸に落ちて死んだ姫君」の話として思い出しているのはこの事件のことである。
牧野興治(おきはる)治部大輔(じぶのたいゆう)、「治部様」
 牧野郷の郷名主だった人物。玉井春野家の初代正興(まさおき)のころからの臣下である。定範が正稔を捕らえて島流しにし、三郡守護代の地位を奪ったのに抗して挙兵し(「牧野の乱」または「義挙」)、定範を追いつめたが、巣山から来た柴山勢に敗れて処刑された。牧野郷の村人たちには現在でも慕われている。その妹が森沢為順の妻で、荒之助の母である。したがって荒之助からは母方の伯父にあたる。豪放で荒々しい人物だったらしい[桜の里(四)下]
牧野芹丸(せりまる)
 牧野治部大輔(じぶのたいゆう)興治(おきはる)の息子で、「牧野の乱」で処刑された。
勝吉(かつよし)木美(きみ)、広沢の上の家の〜
 広沢の上の家の美那・毬の両親[桜の里(六)1.]。柴山氏が支配する巣山郡出身だったため、「義挙」の後に村人に柴山のスパイだと疑われて殺されたらしい[桜の里(六)4.]
広沢の(上の家の)美那
 以前、牧野郷にいた少女。現在は行方不明で、死んだとも言われる。勝吉と木美の娘。広沢の上の家の(まり)の実姉だが、少なくとも毬が物心ついてからはいっしょに暮らしてはいなかったらしい[桜の里(六)1.]
柿原党
 ここでは柿原党の一員として村に来た中原範大(のりひろ)と長野雅一郎(まさいちろう)のこと。柿原党は、守護代(守護大名)春野定範(さだのり)の正妻の父 柿原大和守(やまとのかみ)忠佑(ただすけ) の率いる金融集団で、町の銭屋とはライバル関係にある[何をなすべきか(一)上]。なお、柿原氏の本拠地は、牧野郷から川(人工の分水)をさかのぼったさらに上の竹井(たけい)郡にある。
中橋渉江(しょうこう)
 川中村に住む儒者。僧侶ではないようだが、明徳教寺の住職役を務め、寺に住みこんでいる。牧野・森沢二郷の人びとの信望が厚く、街の銭屋に借銭を返すかどうかを議論する合同の寄合で司会を務めていた[桜の里(五)1.]。安総尼の師匠。
美千(みち)
 川上村の村人 村西兵庫助(ひょうごのすけ)の妻。夫の兵庫助より高い身分の出身だともいう。
ふく、広沢の下の家の〜、「おふく姉さん」
 広沢三家の一つの出身で、上の家の毬とも知り合いのようだ[桜の里(六)1.]。現在は美千に仕えている。
村西兵庫助(ひょうごのすけ)、兵庫
 川上村の村人。町の銭屋の取り立てを逃れるため、柿原党の中原範大(のりひろ)と長野雅一郎(まさいちろう)を引きこんだ(というより、柿原党とあらかじめ連絡があり、この二人を柿原党に引きこんだのもこのひと)。範大の求めに応じて(まり)を範大のもとに連れて行ったが[桜の里(三)2.]、もともと広沢三家には親切だったらしい[桜の里(三)5.]
大木戸九兵衛(くへえ)
井田小多右衛門(こだえもん)
 村西兵庫助の仲間。このうち大木戸九兵衛は毬を範大のところに連れて行った張本人である。しかし、兵庫助と同じで、以前は広沢三家に親切に接していたらしい。
越後守(えちごかみ)、春野定範(さだのり)
 現在の玉井三郡守護代(守護大名)。兄の正勝の死後、正稔(信千代丸)を捕らえ、追放して守護代の地位を奪った。これに反対して「牧野の乱」が勃発した。
葛太(かつた)、広沢の中の家の葛太郎(かつたろう)
 広沢の中の家の男の子で、小さいころから毬と同居していた。毬を救出してこの穴蔵(義倉(ぎそう))に連れてきた。 [桜の里(三)4.]