夢の城

― 登場人物 ―


桜の里(八)
― 1. ―

主要登場人物

藤野(ふじの)美那(みな)
 玉井の市場町に住む少女。十六歳(数え年、他の登場人物も同じ)。事情があって、市場の老舗の葛餅屋「藤野屋」に預けられ、育てられている。徳政(債権放棄令)に名を借りた柿原党の策略から同門の銭屋の元資(もとすけ)を救うために、浅梨治繁の門下の兄弟子の隆文と、銭屋で働く娘さわといっしょに、牧野郷に借銭の取り立てに来ている[何をなすべきか(二)]。「広沢の美那」とは別人(少なくとも自分ではそう言っている)[桜の里(六)2.]。牧野郷に到着したとき、川上村の入り口の祠の前で広沢の(まり)と会った[桜の里(一)]。また、朝の寄合で村人たちが村西一党に襲いかかり、村西兵庫助(ひょうごのすけ)が暴行を受けていたとき、身を挺して兵庫を救おうとした[桜の里(七)5.]
中橋渉江(しょうこう)
 川中村に住む儒者。僧侶ではないようだが、明徳教寺の住職役を務め、寺に住みこんでいる。牧野・森沢二郷の人びとの信望が厚く、そのまとめ役を務めている。安総尼(あんそうに)の師匠でもある。義倉焼失事件を受けて開かれた朝の臨時の寄合の議長を担当していた[桜の里(七)4.]
安総(あんそう)(安総尼)
 川上村の村長木工(もく)国盛(くにもり)の娘。俗名はお(ふさ)。丸顔で目のぱっちりした若い娘。出家して尼になり、川中村の明徳教寺に住む中橋渉江(しょうこう)に仕え、学んでいるらしい。藤野の美那を広沢の美那と思いこんで、広沢の美那の両親の墓に連れて行き[桜の里(五)4.]、そのことを渉江に報告していた[桜の里(六)2.]
鍋屋の隆文(たかふみ)上総掾(かずさのじょう)
 市場の鍋屋で働いている。美那や元資とともに浅梨治繁に剣を習っており、現在の弟子のなかでは一番上である。藤野の美那とは意地を張り合うことが多い。現在は銭屋の使者三人のリーダー格になっている。村に来ていきなり「上総掾」と名のりだした[桜の里(六)3.]。川上村の入り口で毬と会って(ほこら)を素通りしたと言われ、祠に宣和銭を供えた[桜の里(一)]
(銭屋の)さわ
 市場の娘。市場の銭屋で働いている。駒鳥屋のあざみ、宿屋のさと、鋳物屋のみやなどと友だち。藤野の美那、鍋屋の隆文といっしょに借銭の取り立てに来た。おとなしくて控えめだと思っていたら、意外とマイペースな性格で、もしかすると凶暴?[桜の里(六)2.]
村西兵庫助(ひょうごのすけ)
大木戸九兵衛(くへえ)
井田小多右衛門(こだえもん)
 「村西一党」と呼ばれる三人。牧野郷川上村の村人で、牧野・森沢二郷には数少ない柿原党の支持者。村の有力者ではあるが、町の銭屋からの借銭が多いため、その取り立てを回避するために町の銭屋とライバル関係にある柿原党と結んだらしい。兵庫助がリーダー格。義倉放火事件に関わり、朝の寄合の場でそのことが広沢の毬によって暴露された。怒った村人に襲われ、大木戸九兵衛と井田小多右衛門は長野雅一郎といっしょに逃げ出したが、村西兵庫だけは逃げ遅れて村人の暴行を受け、藤野の美那に救われてかろうじて逃げのびた[桜の里(七)5.]
美千(みち)
 村西兵庫助の妻。兵庫助より高い身分の出身らしい。
ふく、広沢の下の家のふく
 美千に仕えている少女。兵庫の屋敷に来る以前から美千に仕えていたらしい。広沢三家の一つ「下の家」の出身。
和生(かしょう)
 川上村の寺の寺男。まだ若い少年僧。
長野雅一郎(まさいちろう)
 中原郷中原村の地侍(零細地主 兼 武士)。郷名主の中原克富(かつとみ)の命をうけ、村西兵庫助らの企てに助力するために、克富の一子範大(のりひろ)とともに派遣されてきた[桜の里(二)上]。村西兵庫助に誘われて柿原党の一員となったらしい。寄合の席で範大が抜刀して広沢の毬を襲撃するのを制止できず、範大は射殺された。同時に、義倉放火事件に関わったことが毬によって暴露され、暴徒と化した村人に襲われたが、範大の遺体を残して逃げてきた[桜の里(七)5.]
小者たち
 中原村から中原範大と長野雅一郎に従って来た小者(従者)たち。中原屋敷から来た小者と、長野雅一郎自身が養っている小者とがいる。

話題としてのみ登場する人物

杉山信惟(のぶただ)左馬允(さまのじょう)
 守護代(守護大名) 春野定範(さだのり)の下で評定衆を務める。玉井春野家初代の春野正興(まさおき)が玉井三郡に来たとき、牧野郷の牧野治部大輔(じぶのたいゆう)興治(おきはる)や藤野の美那・隆文などの剣術の師匠浅梨(あさり)左兵衛尉(さひょうえのじょう)治繁(はるしげ)とともに正興をたすけて三郡統一をなし遂げた。牧野郷とは関係が深く、藤野の美那の「水盗人」疑惑の解消[桜の里(五)2.]に協力し、また、以前には、森沢荒之助(あらのすけ)の父為順(ためより)の死を秘匿(ひとく)するのにも協力したらしい[桜の里(五)4.]
中原範大(のりひろ)安芸守(あきのかみ)
 中原村の郷名主中原克富(かつとみ)の一人息子。柿原党の一員として牧野郷に来ていたが、朝の大寄合で(まり)を殺そうとし、森沢荒之助(あらのすけ)に射殺された[桜の里(七)5.]
柿原忠佑(ただすけ)大和守(やまとのかみ)
 守護代春野定範の正妻の父で、「柿原党」の総帥。定範政権の実力者である。
治部(じぶ)様、牧野興治(おきはる)、治部大輔(たいゆう)
 牧野郷の郷名主であり、玉井春野家(玉井三郡の守護大名の家)初代の春野正興(まさおき)の三郡平定をたすけたが、春野家の跡継ぎ争いをめぐって「牧野の乱」と呼ばれる反乱事件を起こして捕らえられ、処刑された。牧野郷・森沢郷の人たちにはいまでも慕われている。
広沢の美那
 牧野郷にいた少女。広沢の上の家の娘で、(まり)の実姉。「牧野の乱」の敗北後、牧野家の館にいた両親が村人の疑いを受けて殺され、その後、村から姿を消した。藤野の美那とは別人だと藤野の美那は言っている。
柿原党の方がた
 中原範大と長野雅一郎。
(まり)、広沢の上の家の毬
 「広沢三家」のうち上の家に属する女の子。義倉に放火されたときに危うく脱出に成功し[桜の里(六)5.]、朝の寄合で義倉放火事件について決定的証言をして中原範大に殺されかけた[桜の里(七)5.]。、
広沢の上の家の勝吉
 広沢の美那と毬の父親。巣山郡出身。牧野興治に仕えていたが、「牧野の乱」敗北後、巣山の柴山康豊(やすとよ)に通じていると疑われ、村人に襲撃されて殺された。
越後守(えちごのかみ)、春野定範(さだのり)
 玉井三郡の守護代(守護大名)[系図]。中原克富・範大父子の主君にあたる。「牧野の乱」事件の経緯から牧野・森沢二郷では嫌われている。玉井の町の城館に住んでいる。

玉井春野家関係者等の系図

玉井春野家(三郡守護代家)と柿原家

正興─────┬正勝────────┬那世
 民部大輔  │ 民部大輔     │ 姉姫、深雪の方
 玉井春野家 │ 玉井春野家    │
 初代    │ 第二代      ├正稔
       │          │ 民部少輔、幼名:信千代丸
       │          │
       └定範        └美那
         越後守        妹姫
         現在の三郡守護代
         ‖
         ‖
柿原忠佑───┬田山の方
 大和守   │ (定範の正妻)
 竹井郡代官 │
 柿原郷名主 └柿原範忠
 柿原党総帥   主計頭
         竹井代官代

牧野家(牧野郷名主)と森沢家(森沢郷名主)

┌牧野興治─────芹丸
│ 治部大輔
│ 治部様
│ 牧野郷名主

└興治の妹
  ‖───────森沢荒之助
 森沢為順
  判官
  森沢郷名主

桧山家(港の名主)

 桧山興孝─────桃丸(幼名)
  織部正
  港の名主

杉山家(定範政権評定衆)

 杉山信惟─────宣十郎
  左馬允

浅梨家

 浅梨治繁     鍋屋の隆文
  左兵衛尉    藤野の美那
          銭屋の元資
          車屋の丈治 らの剣術の師匠

柴山家(巣山郡代官)

 柴山時豊─────興豊────┬勝豊────────弥勒丸
  兵部大輔     兵部大輔 │ 兵部大輔      勝豊の幼い遺子
  巣山郡代官    巣山郡代官│ 巣山郡代官
                │ 狩猟中に事故死
                │
                └康豊
                  兵部少輔
                  巣山郡代官

中原家(中原郷中原村、中原郷名主家)

 中原吉継────┬茂
  令史     │ 吉継の長女
  中原郷名主  │ ‖────────中原範大
  中原村在住  │中原克富       安芸守
         │ 造酒        幼名:十郎丸
         │ 現在の中原郷名主
         │ 町の酒屋出身
         │
         └宣
           吉継の次女
           ‖────────立岡拓実
          立岡拓実の父     府生

広沢三家(牧野郷川上村)

 広沢勝吉
  広沢の上の家
  ‖──────┬美那
 木美      │ 広沢の美那
         │
         └毬
           広沢の中の家で
           育てられている

 加恵──────┬葛太郎(葛太)
  広沢の中の家 │
         └繭

 祖母…………………ふく
           広沢の下の家
           村西家の美千に仕えている