夢の城

― 登場人物 ―


桜の里(九)

主要登場人物

藤野(ふじの)美那(みな)
 玉井の市場町に住む少女。十六歳(数え年、他の登場人物も同じ)。事情があって、市場の老舗の葛餅屋「藤野屋」に預けられ、育てられている。徳政(債権放棄令)に名を借りた柿原党の策略から同門の銭屋の元資(もとすけ)を救うために、浅梨治繁の門下の兄弟子の隆文と、銭屋で働く娘さわといっしょに、牧野郷に借銭の取り立てに来ていた[何をなすべきか(二)]。「広沢の美那」=広沢の毬の実姉とは別人(少なくとも自分ではそう言っている)[桜の里(六)2.]
中橋渉江(しょうこう)
 川中村に住む儒者。僧侶ではないようだが、明徳教寺の住職役を務め、寺に住みこんでいる。牧野・森沢二郷の人びとの信望が厚く、そのまとめ役を務めている。安総尼(あんそうに)の師匠でもある。
安総(あんそう)(安総尼)
 川上村の村長木工(もく)国盛(くにもり)の娘。俗名はお(ふさ)。丸顔で目のぱっちりした若い娘。出家して尼になり、川中村の明徳教寺に住む中橋渉江(しょうこう)に仕え、学んでいるらしい。
川上国盛(くにもり)木工(もく)
 川上村の村長。安総尼の父親でもある。
森沢荒之助(あらのすけ)
 牧野興治の甥、森沢の郷名主だった森沢為順(ためより)の遺子[牧野家・森沢家]。どうやら為順の死以来引き籠もっていたらしく[桜の里(六)5.]、そのとき以来、村の人たちの前から姿を消していたようだ。しかし武芸の腕は確かである。いまでは牧野家・森沢家を嗣ぐのは荒之助一人ということで、リーダー意識に目覚めてきている[桜の里(八)3.]
和生(かしょう)(かず)
 住職のいない川上村の寺で、寺の管理人として住みこんでいる少年。国盛や安総と親しいらしい。物語の舞台が川中村に移ってしまったので、けっきょくあんまり出番がなかった。
関所番の男
 川中村で関所番をしていた男で、朗らかそうだががんこな性格をしている[桜の里(五)1.]。出番はそこそこ多いのだが、けっきょく名まえは明らかにされなかった。
(まり)、広沢の上の家の毬
 牧野郷で一段低く見られている「広沢三家」の女の子[広沢三家]。前の前の夜、身を潜めていた米の隠し倉に放火されて命からがら脱出し、そのときに火傷やすり傷を負った[桜の里(六)5.]。その次の朝、寄合で放火犯について証言し、中原範大(のりひろ)のみだらな行いについても証言したところを、逆上した範大に殺されそうになった[桜の里(七)5.]。広沢の中の家で育てられているが、生まれは「上の家」であり、葛太郎・繭とは両親が異なる。なお、毬が牧野治部大輔(じぶのたいゆう)興治(おきはる)の夢を見る話は[桜の里(六)3.]
葛太郎(かつたろう)葛太(かつた))、広沢の中の家の葛太郎
 広沢の中の家の男の子[広沢三家]
(まゆ)、広沢の中の家の繭
 葛太郎の妹[広沢三家]
鍋屋の隆文(たかふみ)上総掾(かずさのじょう)
 市場の鍋屋で働いている。美那や元資とともに浅梨治繁に剣を習っており、現在の弟子のなかでは一番上である。藤野の美那とは意地を張り合うことが多い。現在は銭屋の使者三人のリーダー格になっている。村に来ていきなり「上総掾」と名のりだした[桜の里(六)3.]
(銭屋の)さわ
 巣山郡出身の市場の娘。市場の銭屋で働いている。駒鳥屋のあざみ、宿屋のさと、鋳物屋のみやなどと友だちで、藤野の美那、鍋屋の隆文といっしょに借銭の取り立てに来た。おとなしくて控えめだと思っていたら、意外とマイペースな性格で、もしかすると凶暴?[桜の里(六)2.] みみず採りが得意など奇妙な特技もあり[桜の里(四)下]、どことなく謎を残した少女である。桜に愛着があるらしい[桜の里(一)]

話題としてのみ登場する人物

加恵(かえ)、広沢の中の家の加恵
 葛太郎と繭の母で、毬の養い親でもある[広沢三家]。ここのところストレスがたまっているらしく、子どもたちに暴力をふるうことが多くなっていたらしい[桜の里(八)2.]
ふく、広沢の下の家のふく
 ふくは広沢の下の家出身の少女[広沢三家]。川上村の有力者 村西兵庫助(ひょうごのすけ)の屋敷で兵庫助の妻 美千(みち)に仕えている。兵庫助が米の隠し倉「義倉(ぎそう)」放火事件にかかわったことが毬によって暴露され、美千を置き去りにして逃亡したことにたいへんショックを受け、取り乱していた[桜の里(八)1.]
ふくの祖母
 広沢の下の家に属する。村西屋敷には住んでいない。毬の見舞いのために加恵といっしょに川中村に来ていた[桜の里(八)2.]
美千(みち)
 川上村の有力者で、現在は逃亡中の村西兵庫助(ひょうごのすけ)の妻。兵庫助より高い身分の出身だともいう[桜の里(三)2.]
藤野の美那を育てたお方=藤野屋の(かおる)
駒鳥屋さんのおかみさん=およし
あざみ
さわの友だち
 藤野の美那を取り巻く市場町の人びと。薫は市場の葛餅屋を一人で経営する女の人で、美那をもらい受けて育てた養母、駒鳥屋は藤野屋の隣家の織物屋で、およしは主人の妻(主人は年の大半を買いつけに出ていてほとんど店にいない)。あざみは美那やさわの友だち。さわの友だちには他にさと、みやなどがいる。藤野の美那はこういう人たちがいるところにこれから毬・葛太郎・繭を連れて帰っていくのだ。
浅梨治繁(はるしげ)左兵衛尉(さひょうえのじょう)
 藤野の美那や隆文の剣術の師匠。「牧野の乱」事件で牧野治部大輔(じぶのたいゆう)興治(おきはる)とともに戦った春野家の重臣であったが、現在は隠退している。
柿原
柿原党の男
 森沢荒之助が射殺した「柿原党の男」とは中原安芸守(あきのかみ)範大(のりひろ)のこと[桜の里(七)5.]。荒之助のいう「柿原」は、三郡守護代(この地方一帯の守護大名)春野越後守(えちごのかみ)定範(さだのり)の正妻の父 柿原大和守(やまとのかみ)忠佑(ただすけ)とともに、忠佑をリーダーとする新興金融集団「柿原党」を指す。
治部(じぶ)様、牧野興治(おきはる)、治部大輔(たいゆう)
 牧野郷の郷名主だった人物[牧野家]。玉井春野家(玉井三郡の守護大名の家)初代の春野正興(まさおき)の三郡平定をたすけたが、春野家の跡継ぎ争いをめぐって「牧野の乱」と呼ばれる反乱事件を起こして捕らえられ、処刑された。牧野郷・森沢郷の人たちにはいまでも慕われている。その館は「牧野の乱」平定後に焼失した。その跡地に「義倉」が造られていて、毬はそこで一夜を明かし、興治の夢を見た[桜の里(六)3.]
春野正稔(まさとし)
春野家の姉姫=那世(なよ)、妹姫=美那(みな)
牧野芹丸(せりまる)
桧山(ひやま)織部正(おりべのしょう(かみ))興孝(おきたか)
荒之助の父=森沢判官(はんがん)為順(ためより)
広沢の上の家の勝吉(かつよし)木美(きみ)、広沢の美那
 いずれも「牧野の乱」事件やその後の動乱で殺されたり行方不明になったりした人たちである。春野家で守護代(この一隊の守護大名)の後継者とされていた少年正稔は捉えられ、姉の那世とともに島流しにされて、そこで事件に巻きこまれて命をおとしたとされる。妹の美那姫は城館に軟禁されていたが、井戸に落ちて事故死したとされる[春野家]。芹丸は牧野興治の年若い息子[牧野家]で荒之助とはいとこどうし、桧山興孝は港の名主(桧山桃丸の父)[桧山家]で、二人とも「牧野の乱」事件で敵に捕らえられ、処刑された。荒之助の父 為順もこの乱で受けた傷がもとで亡くなった。広沢の上の家の勝吉とその妻 木美は「牧野の乱」後の混乱のなかで殺され、娘の美那(広沢の美那、毬の実姉)は、それ以来、行方不明になった[広沢三家]。荒之助は「自分がこのひとたちを救うことができなかった」という後悔の念を抱いている。

玉井春野家関係者等の系図

玉井春野家(三郡守護代家)と柿原家

正興─────┬正勝────────┬那世
 民部大輔  │ 民部大輔     │ 姉姫、深雪の方
 玉井春野家 │ 玉井春野家    │
 初代    │ 第二代      ├正稔
       │          │ 民部少輔、幼名:信千代丸
       │          │
       └定範        └美那
         越後守        妹姫
         現在の三郡守護代
         ‖
         ‖
柿原忠佑───┬田山の方
 大和守   │ (定範の正妻)
 竹井郡代官 │
 柿原郷名主 └柿原範忠
 柿原党総帥   主計頭
         竹井代官代

牧野家(牧野郷名主)と森沢家(森沢郷名主)

┌牧野興治─────芹丸
│ 治部大輔
│ 治部様
│ 牧野郷名主

└興治の妹
  ‖───────森沢荒之助
 森沢為順
  判官
  森沢郷名主

桧山家(港の名主)

 桧山興孝─────桃丸(幼名)
  織部正
  港の名主

杉山家(定範政権評定衆)

 杉山信惟─────宣十郎
  左馬允

浅梨家

 浅梨治繁     鍋屋の隆文
  左兵衛尉    藤野の美那
          銭屋の元資
          車屋の丈治 らの剣術の師匠

柴山家(巣山郡代官)

 柴山時豊─────興豊────┬勝豊────────弥勒丸
  兵部大輔     兵部大輔 │ 兵部大輔      勝豊の幼い遺子
  巣山郡代官    巣山郡代官│ 巣山郡代官
                │ 狩猟中に事故死
                │
                └康豊
                  兵部少輔
                  巣山郡代官

中原家(中原郷中原村、中原郷名主家)・立岡家

 中原吉継────┬茂
  令史     │ 吉継の長女
  中原郷名主  │ ‖────────中原範大
  中原村在住  │中原克富       安芸守
         │ 造酒        幼名:十郎丸
         │ 現在の中原郷名主
         │ 町の酒屋出身
         │
         └宣
           吉継の次女
           ‖────────立岡拓実
          立岡拓実の父     府生

広沢三家(牧野郷川上村)

 広沢勝吉
  広沢の上の家
  ‖──────┬美那
 木美      │ 広沢の美那
         │
         └毬
           広沢の中の家で
           育てられている

 加恵──────┬葛太郎(葛太)
  広沢の中の家 │
         └繭

 祖母…………………ふく
           広沢の下の家
           村西家の美千に仕えている