●市井義久の近況 その8 8月●

 近況という、取り立ててのものがある訳では無いが、8月は今年で25年間連続して 湯布院で過ごしている。1週間も居ると20万円くらいかかるし、それなりの人生を送って来たのに、 25年間も欠かさず湯布院というのにも、今さらながらおどろいている。 あのパリでさえスリに会って気分を害して5年連続でやめてしまった。

 なぜ25年間なのか。映画、温泉、食べ物、知り合い、この4つの要素である。この4つがそろう地域など、そうざらにある訳では無い。だから夏休みは湯布院 25年間、私の人生の半分である。映画と温泉と食べ物と友人につられて、今年も8/22から8/26までは湯布院にいる。


シネマファシスト 連載第8回8月号

『刑務所の中』

 刑務所を舞台にした映画が描くのは出入りである。塀の外から内へ、内から外へ、入る事、あるいは出る事。これが刑務所映画で描かれる話の内容である。刑務所の中では、自分の意志が100%通用する事は少ない、多くは期間限定の監視された仮の世界である。金銭も感情も関与できる世界では無いので、塀の中でドラマを成立させることは困難である。『穴』にしろ『脱獄広島殺人囚』にしろ『網走番外地』にしろ、私が最近宣伝した作品では、同じく山崎努の『天国から来た男たち』、『シックス・エンジェルズ』『es』とすべては塀の内外の出入りが中心のドラマである。

 崔洋一『刑務所の中』は、タイトル通り、同じ出入りであっても、塀の内外ではなく、塀の中の出入り、大きいのや小さいのや、各種のドアーを通しての出入りが中心である。したがって、そこでは、ドラマ性が極めて希薄である。同性とは言え何人かの集団生活があり、期間限定とは言え、何年間かの生活があるのだから、ドラマが生起してもよさそうなものだが、やはり仮住まいであるから、波風立てずできるだけ時間を、なるべく速くやり過ごすことのみに皆の関心は集中している。そのためには日々の食事など、皆と共同の繰り返される日々の日常に、深く強く関心を示すことが必要であり、そのための正月料理の描写であり、陰毛の話題であり、薬袋の作り方である。

 塀の内外ではなく、塀の中を会場として、大小のドアーを通過する出入りを描いて出色な、斬新な刑務所映画である。

 お正月、渋谷パルコパート3 8F、シネクイントにて公開というのも出色である。今年は刑務所風おせち料理が流行とか。

↑松重豊、山崎努、田口トモロヲ、香川照之、村松利史
紹介ページ:http://www.bewild.co.jp/keimusyo.htm


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

2001年
3月24日『火垂』
6月16日『天国からきた男たち』
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』


ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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