夢の城

― 登場人物 ―


桜の里(八)
― 2. ―

主要登場人物

藤野(ふじの)美那(みな)
 玉井の市場町に住む少女。十六歳(数え年、他の登場人物も同じ)。事情があって、市場の老舗の葛餅屋「藤野屋」に預けられ、育てられている。徳政(債権放棄令)に名を借りた柿原党の策略から同門の銭屋の元資(もとすけ)を救うために、浅梨治繁の門下の兄弟子の隆文と、銭屋で働く娘さわといっしょに、牧野郷に借銭の取り立てに来ている[何をなすべきか(二)][→浅梨家]。借銭については、牧野・森沢二郷の合同寄合でいったん一部返済という話がまとまったが[桜の里(六)1.]、その後の義倉放火・焼失事件で再び返済のあてがなくなってしまった。
鍋屋の隆文(たかふみ)上総掾(かずさのじょう)
 市場の鍋屋で働いている。美那や元資とともに浅梨治繁に剣を習っており、現在の弟子のなかでは一番上である[→浅梨家]。藤野の美那とは意地を張り合うことが多い。現在は銭屋の使者三人のリーダー格になっている。村に来ていきなり「上総掾」と名のりだした[桜の里(六)3.]
(銭屋の)さわ
 市場の娘。市場の銭屋で働いている。駒鳥屋のあざみ、宿屋のさと、鋳物屋のみやなどと友だち。藤野の美那、鍋屋の隆文といっしょに借銭の取り立てに来た。おとなしくて控えめだと思っていたら、意外とマイペースな性格で、もしかすると凶暴?[桜の里(六)2.]
立岡(たつおか)拓実(ひろざね)府生(ふしょう)
 中原郷中原村の有力地侍。父親が隠退し、家を継いだばかりの若者。中原郷の郷名主 中原克富(かつとみ) の甥にあたる[→中原家の系図][桜の里(七)1.]に少しだけ登場した。
山端(やまばた)次郎、左近(さこん)
池渕(いけぶち)五郎、外記(げき)
 中原郷中原村の比較的年上の有力地侍でまとめ役的な地位にいる。この二人の中では池渕五郎のほうが歳が上である。なお、「左近」・「外記」が肩書きなのか名まえの一部なのかはよくわからない。
村尾右門(うもん)
 中原村の比較的若い地侍。
坂口古左兵衛(こさへえ)
 中原村の比較的若い地侍で、街道口の家に住んでいる。この章や[桜の里(七)1.]に話題としてだけ登場する「坂口のはる」の兄。
広沢の中の家の葛太郎(かつたろう)、「葛ちゃん」
 牧野郷で一段低く見られている「広沢三家」のうち「中の家」の男の子。牧野郷川上村に母親の加恵(かえ)と妹の(まゆ)、「上の家」の(まり)といっしょに暮らしている[→広沢三家の系図]
広沢の中の家の(まゆ)
 葛太郎の妹。

話題としてのみ登場する人物

中橋渉江(しょうこう)
 川中村に住む儒者。僧侶ではないようだが、明徳教寺の住職役を務め、寺に住みこんでいる。牧野・森沢二郷の人びとの信望が厚く、そのまとめ役を務めている。安総尼(あんそうに)の師匠でもある。義倉焼失事件を受けて開かれた朝の臨時の寄合の議長を担当していたが[桜の里(七)4.]、そのときすでに義倉に放火した犯人を知っていたらしい[桜の里(八)1.]
安総(あんそう)(安総尼)
 川上村の村長木工(もく)国盛(くにもり)の娘。俗名はお(ふさ)。丸顔で目のぱっちりした若い娘。出家して尼になり、川中村の明徳教寺に住む中橋渉江(しょうこう)に仕え、学んでいるらしい。
広沢の下の家のふく
 村西兵庫助(ひょうごのすけ)の妻 美千に仕えている少女。兵庫助の屋敷に来る以前から美千に仕えていたらしい。広沢三家の一つ「下の家」の出身。
ふくの祖母
 川上村に住んでいるらしいが、村西兵庫助の屋敷には住んでいないようだ。
広沢の中の家の加恵(かえ)、(葛太郎、繭の)「母ちゃん」
 葛太郎と繭の母。牧野郷川上村に住んでいる[→広沢三家の系図]。この二人に上の家の毬を加えた三人を育てた。いつのころからか子どもたちに暴力をふるうようになった[桜の里(四)上]
中原克富(かつとみ)造酒(みき)、「名主様」、「(かつ)のやつ」
 中原郷中原村に住む中原郷の郷名主。女性関係に関してとくにふしだらな人物らしい[桜の里(七)1.]。なお、溺愛していた息子の範大(のりひろ)が牧野郷川中村で横死したことは知らない[→中原家]
柿原忠佑(ただすけ)大和守(やまとのかみ)、入道
 三郡守護代(この地方の守護大名) 春野定範(さだのり) の正妻の父[→春野家・柿原家]として絶大な権勢を誇る。新興金融集団「柿原党」の総帥でもある。
評定衆(ひょうじょうしゅう)
 守護代の下で重要な決定を下す最高合議メンバー。「家老」などに相当する。これまでに評定衆筆頭の小森式部大夫(しきぶだゆう)健嘉(たけよし)[何をなすべきか(一)上]と杉山左馬允(さまのじょう)信惟(のぶただ)[安濃詣で(三)]が登場している。
春野定範(さだのり)越後守(えちごのかみ)
 玉井・竹井・巣山三郡守護代。この地方の守護大名[→春野家・柿原家]。つまりこの地方の最高権力者なのだが、久しく出番がないばかりか、「話題」として登場することもめっきり少なくなっている。
牧野、港の桧山、浅梨(あさり)、杉山左馬允(さまのじょう)
 牧野治部大輔(じぶのたいゆう)興治(おきはる)は牧野郷の以前の名主[→牧野家]。桧山織部正(おりべのしょう(かみ))は港の名主だった。桧山桃丸はその息子である[→桧山家]。この二人は、定範が政権を奪取したときにそれに反対して反乱(支持者は「義挙」と呼ぶ)を起こして処刑された。浅梨左兵衛尉(さひょうえのじょう)治繁(はるしげ)もこの反乱で行動を共にし、現在は隠退して市場町のはずれで弟子たちを教えている。藤野の美那や鍋屋の(上総(じょう)?)隆文はその弟子である[→浅梨家]。杉山左馬允(さまのじょう)信惟(のぶただ)は反乱に同調せず、現在も定範の下で評定衆を務めている[→杉山家]。この四人に森沢判官(はんがん)為順(ためより)荒之助(あらのすけ)の父)[→牧野家・森沢家]を加えた五人は、玉井春野家が守護代の地位を固めたときから春野家の重臣であり、たがいに心を許しあった盟友だった。ここで山端左近次郎が言っているのは、定範の評定衆は、これほど春野家と強い絆で結ばれ、また領内に強固な基盤を持つ重臣をほとんど欠いているということである。
(まさ)
 長野雅一郎(まさいちろう)のこと。中原郷中原村の地侍で、中原克富の命をうけ、克富の一子範大(のりひろ)とともに牧野郷に派遣されていた[桜の里(二)上]が、範大が騒ぎを起こして射殺されるのを止められなかった[桜の里(七)5.]。現在、いっしょに牧野郷から逃げてきた村西兵庫助(ひょうごのすけ)らと謀議中である[桜の里(八)1.]。「安濃(あのう)社の本宮(ほんみや)でもらった酒」や「公田(こうでん)」の労役については[桜の里(二)上]
(雅一郎と揉めた)町娘、榎谷(えのきだに)の娘
 町娘は藤野の美那のこと、榎谷の娘は志穂のこと[春の朝]。このうち藤野の美那と長野雅一郎とは牧野郷で再会しているのだが、もちろんここで協議中の中原村の地侍たちはそんなことは知らない。

玉井春野家関係者等の系図

玉井春野家(三郡守護代家)と柿原家

正興─────┬正勝────────┬那世
 民部大輔  │ 民部大輔     │ 姉姫、深雪の方
 玉井春野家 │ 玉井春野家    │
 初代    │ 第二代      ├正稔
       │          │ 民部少輔、幼名:信千代丸
       │          │
       └定範        └美那
         越後守        妹姫
         現在の三郡守護代
         ‖
         ‖
柿原忠佑───┬田山の方
 大和守   │ (定範の正妻)
 竹井郡代官 │
 柿原郷名主 └柿原範忠
 柿原党総帥   主計頭
         竹井代官代

牧野家(牧野郷名主)と森沢家(森沢郷名主)

┌牧野興治─────芹丸
│ 治部大輔
│ 治部様
│ 牧野郷名主

└興治の妹
  ‖───────森沢荒之助
 森沢為順
  判官
  森沢郷名主

桧山家(港の名主)

 桧山興孝─────桃丸(幼名)
  織部正
  港の名主

杉山家(定範政権評定衆)

 杉山信惟─────宣十郎
  左馬允

浅梨家

 浅梨治繁     鍋屋の隆文
  左兵衛尉    藤野の美那
          銭屋の元資
          車屋の丈治 らの剣術の師匠

柴山家(巣山郡代官)

 柴山時豊─────興豊────┬勝豊────────弥勒丸
  兵部大輔     兵部大輔 │ 兵部大輔      勝豊の幼い遺子
  巣山郡代官    巣山郡代官│ 巣山郡代官
                │ 狩猟中に事故死
                │
                └康豊
                  兵部少輔
                  巣山郡代官

中原家(中原郷中原村、中原郷名主家)・立岡家

 中原吉継────┬茂
  令史     │ 吉継の長女
  中原郷名主  │ ‖────────中原範大
  中原村在住  │中原克富       安芸守
         │ 造酒        幼名:十郎丸
         │ 現在の中原郷名主
         │ 町の酒屋出身
         │
         └宣
           吉継の次女
           ‖────────立岡拓実
          立岡拓実の父     府生

広沢三家(牧野郷川上村)

 広沢勝吉
  広沢の上の家
  ‖──────┬美那
 木美      │ 広沢の美那
         │
         └毬
           広沢の中の家で
           育てられている

 加恵──────┬葛太郎(葛太)
  広沢の中の家 │
         └繭

 祖母…………………ふく
           広沢の下の家
           村西家の美千に仕えている