夢の城

― 登場人物 ―


町に集う人びと(二)
― 5. ―

主要登場人物

鋳物屋のみや
 町の鋳物屋 逸斎(いっさい)の店に住み込みで働いている娘で、藤野の美那、駒鳥屋のあざみ、水鶏屋のさと、銭屋のさわと友だち。市場で木玉(きだま)売りの四助(しすけ)のインチキ商法に引っかかりかけた井澄(いずみ)村の松を助けたことから、松とも仲よくなった[町に集う人びと(一)中]
井澄(いずみ)村の(まつ)
 巣山郷の井澄村に住む娘だったが、急に村の郷名主の養女にという話があり、町に出てきた。村では「つくし」という名だったらしい。慣れない市場で木玉(きだま)売りの四助(しすけ)のインチキ商法に引っかかりかけたところをみやに助けてもらい、仲よくなった[町に集う人びと(一)中]。けっこう食い意地が張っている?
志枝(しえ)
 みやと松がイカを食っている店の女主人らしい。
木玉(きだま)売りの四助(しすけ)
 市場のインチキ商人。安く作った木工製品にありがたそうな由来をつけて高く売ったりしていて、松はその被害に遭いかけた[町に集う人びと(一)中]。そのときのことを松はいまだに怒っているらしい。みややその師匠の逸斎(いっさい)とも知り合いのようだ。ときどき村にも行商に行っているとか、昔は鍛冶屋にいたが自分の家族のことで親方と揉めて追い出されたという話もある[町に集う人びと(一)下]
逸斎(いっさい)、(四助からみやに言う)「あんたの爺さん」
 市場の鋳物屋の老人。がんこ者らしい。みやの雇い主である。四助は「爺さん」と言うが、みやのほんとうの祖父ではないようだ。四助とは知り合いで、四助はこの逸斎の仕事場から鉄屑をもらったりしているらしい[町に集う人びと(一)下]
広沢の(まり)葛太郎(かつたろう)葛太(かつた)(まゆ)
 「広沢三家」という家の子たちである[広沢三家]。牧野郷川上村ではいっしょに暮らしていたが、牧野・森沢両郷が備蓄米を放火事件で失い、町の銭屋からの借銭(しゃくせん)を返せなくなったために、人質として町に連れてこられた。毬が「上の家」、葛太郎と繭の兄妹が「中の家」に属し、毬がいちばん年長である。毬は村で備蓄米放火事件に巻きこまれ、火傷を負っている[桜の里(六)5.]。この日の昼、藤野屋の主人の(かおる)に、藤野屋に滞在するのならば働いてもらうと言われていて、葛太郎はそれをしきりに気にしている[町に集う人びと(二)2.]。広沢三家の者たちは村では下に見られていたので(大木戸九兵衛(くへえ)の「こんな広沢家の家より狭いような部屋に四人も押しこみやがって」という発言がある)、葛太郎は町でも自分たちが辛い仕事を押しつけられると心配しているらしい。
村西兵庫助(ひょうごのすけ)
大木戸九兵衛(くへえ)
井田小多右衛門(こだえもん)
 牧野郷川上村の村人。町の銭屋のライバルである新興金融集団柿原党寄りの村人で、その点で牧野郷では少数派だった。柿原党の利益を図るために郷の備蓄米を焼き払ったが、その現場を広沢の毬に目撃されており、そのために犯行が露見して村を逃げ出してきた[桜の里(七)5.]。行き場を失って中原村乗っ取りを計画し、村西兵庫助を除く二人が、長野雅一郎(まさいちろう)とともに中原村への襲撃を試みた。しかし、郷名主の中原克富(かつとみ)の殺害には成功したものの、中原村の地侍に拒絶されて追い出される。三人は雅一郎とともに柿原屋敷に逃げこんだが、今度は柿原家の長男の範忠(のりただ)に自害するように迫られた[町に集う人びと(二)3.]。懸命に申し開きに努めた結果、ようやくのことで柿原党の下働きとして屋敷内の長屋に落ち着いたらしい[町に集う人びと(二)4.]。ほんの数日前まで、村西兵庫助は牧野郷川上村の最有力の村人で、大木戸九兵衛・井田小多右衛門はその仲間だったことを考えれば、たしかに悪夢のような転落劇で、村西兵庫の言うように「落ちるところまで落ちた」には違いない。この三人のなかではいちおう村西兵庫助がリーダー格らしい。なお、兵庫助が広沢の毬を憎んでいるのは、毬が備蓄米放火事件の目撃者だからというだけではなく、自分たちは広沢三家のためにつくしてやったのにその恩を仇で返されたと思いこんでいるからでもあるようだ。
長野雅一郎(まさいちろう)
 中原村の地侍。柿原党の一員として牧野郷に出向き、郷の備蓄米を焼き払うことを村西ら三人に提案した[桜の里(六)1.]。村西一党とともに牧野郷を脱出し、自分の村を名主から奪取して自分たちのものにしようとしたが失敗して、ともに柿原屋敷に逃げてきた。九兵衛がこの雅一郎に恨み言を並べているのは、備蓄米事件も中原村乗っ取りもこの雅一郎が提案し、両方とも失敗して、自分たちがさらに苦しい立場に陥ったからである。

話題としてのみ登場する人物

藤野(ふじの)美那(みな)
 玉井の市場町に住む少女。十六歳(数え年、他の登場人物も同じ)。事情があって、市場の老舗の葛餅屋「藤野屋」に預けられ、育てられている。浅梨治繁(はるしげ)の門下で唯一の女弟子でもある。牧野郷に借銭の取り立てに行っていて[桜の里(一)]、広沢家の(まり)葛太郎(かつたろう)(まゆ)を連れて帰ってきたところである[町に集う人びと(二)2.]。いちおう主人公のはずだが、ここのところ、出番が少なめである。
水鶏(くいな)屋のさと
銭屋のさわ
駒鳥屋のあざみ
 みやの友だち。松はこれ以前にさととあざみとは会ったことがある。さととさわは従姉妹どうしで、ともに巣山郡の出身らしい[町に集う人びと(二)4.]。あざみは藤野屋の隣の織物店 駒鳥屋の娘である。
(松の)旦那様、奥様
 巣山郡井澄(いずみ)村の郷名主 豊路(とよじ)某 とその夫人。松を慌ただしく養女に迎えた。屋敷町に住んでいるらしい。
(葛太郎の)「母ちゃん」
 広沢の中の家の加恵[広沢三家]。この三人の育ての母である。最近、情緒が不安定気味で、子どもたちに暴力をふるうことが増えていたようだ[桜の里(四)上]
(鍋屋の)隆文(たかふみ)
 隆文は藤野の美那の剣術の兄弟子にあたる。この隆文と銭屋のさわ(前出)と藤野の美那の三人で牧野郷に借銭(しゃくせん)の取り立てに行き、広沢家の子どもたちを人質に取ることを決定した[桜の里(九)]
村西兵庫助(ひょうごのすけ)の家族など
 妻の美千(みち)と、屋敷に奉公している娘 ふく 。ふくは広沢三家のうち「下の家」の出身である[広沢三家]。村西兵庫らが村を脱出したとき、村に取り残された[桜の里(八)1.]
山賊
 城館や屋敷町・市場町がある玉井郡と巣山郡を隔てる白麦(しらむぎ)峠には山賊が住みついているという。
(牧野郷の)村の連中、森沢の連中
 村西兵庫助らは牧野郷の川上村の村人だったが、牧野郷(川上村と川中村の二つの村がある)と隣の森沢郷の村人たちは、村西一党が備蓄米を焼き払ったことを知って暴徒と化して村西ら一党に襲いかかり、兵庫助はこのとき負傷した[桜の里(七)5.]
町の銭貸しども、中原村の地侍(じざむらい)ども
 町の銭屋の使者(藤野の美那、鍋屋の隆文、銭屋のさわ)が来なければ、自分たちは村を追い出されずにすんだのにと村西兵庫助は思っているのだろう。中原村の地侍についても、自分たちが悪い名主を討っていいことをしてやったのに自分たちを追い出したということのようだ。このへんの村西兵庫の発言はどうも大逆恨み大会っぽい。
「柿原の若造」
 柿原主計頭(かずえのかみ)範忠(のりただ)のこと。守護代(この地域の最高権力者)の母方の従弟にあたり(年齢はだいぶ離れているようだが)、金融集団「柿原党」の総帥の息子である。つまり、長野雅一郎や村西一党の主人の長男にあたり、いま四人がいるのもこの柿原屋敷の中である。だが、この日の昼、範忠は、この四人が起こした牧野郷備蓄米放火事件と中原村郷名主殺害事件を柿原党の名をけがすものとして激怒し、四人に自害を申しつけようとした[町に集う人びと(二)3.]。郷名主不在の川上村で第一の有力な村人だった村西兵庫には、この柿原範忠にしてももとは竹井郡の郷名主の家の息子に過ぎないではないかという思いがあったのかも知れない。
大民部(だいみんぶ)、桧山織部(おりべ)、杉山左馬(さま)、浅梨左兵衛(さひょうえ)、森沢判官(はんがん)、牧野治部(じぶ)
 「大民部」は玉井春野家の祖で、現在の守護代 春野定範(さだのり) の父にあたる春野正興(まさおき)。荘園領主として京都にいたが、この地域が乱れて年貢収入が入らなくなったので、荘園を寄進して自ら玉井に移住し、自ら地方経営に乗り出した。それを助けたのが、桧山織部正(おりべのしょう(かみ))興孝(おきたか)[桧山家]、牧野治部大輔(じぶのたいゆう)興治(おきはる)[牧野家・森沢家]、杉山左馬允(さまのじょう)信惟(のぶただ)[杉山家]、浅梨左兵衛尉(さひょうえのじょう)治繁(はるしげ)[浅梨家]、森沢判官為順(ためより)[牧野家・森沢家]の五人だったという。桧山興孝と牧野興治は定範の守護代継承に反対して決起し、敗れて殺された。森沢為順は決起軍に参加していたが、その後、森沢郷に帰り、そこで亡くなった[桜の里(六)4.]。浅梨治繁も決起に参加していたが、隠退して現在は町人や浪人に剣術を教えている。杉山信惟のみ、決起に参加せず、現在の定範政権の評定衆(家老)に加わっている。

玉井春野家関係者等の系図

玉井春野家(三郡守護代家)と柿原家

正興─────┬正勝────────┬那世
 民部大輔  │ 民部大輔     │ 姉姫、深雪の方
 玉井春野家 │ 玉井春野家    │
 初代    │ 第二代      ├正稔
 大民部   │ 小民部      │ 民部少輔、幼名:信千代丸
       │          │
       └定範        └美那
         越後守        妹姫
         現在の三郡守護代
         ‖
         ‖
柿原忠佑───┬田山の方(千草姫)
 大和守   │ (定範の正妻)
 竹井郡代官 │
 柿原郷名主 └柿原範忠
 柿原党総帥   主計頭
         竹井代官代

牧野家(牧野郷名主)と森沢家(森沢郷名主)

┌牧野興治─────芹丸
│ 治部大輔
│ 治部様
│ 牧野郷名主

└興治の妹
  ‖───────森沢荒之助
 森沢為順
  判官
  森沢郷名主

桧山家(港の名主)

 桧山興孝─────桃丸(幼名)
  織部正
  港の名主

杉山家(定範政権評定衆)

 杉山信惟─────宣十郎
  左馬允

浅梨家

 浅梨治繁     鍋屋の隆文
  左兵衛尉    藤野の美那
          銭屋の元資
          車屋の丈治 らの剣術の師匠

柴山家(巣山郡代官)

 柴山時豊─────興豊────┬勝豊────────弥勒丸
  兵部大輔     兵部大輔 │ 兵部大輔      勝豊の幼い遺子
  巣山郡代官    巣山郡代官│ 巣山郡代官
                │ 狩猟中に事故死
                │
                └康豊
                  兵部少輔
                  巣山郡代官

中原家(中原郷中原村、中原郷名主家)・立岡家

 中原吉継────┬茂
  令史     │ 吉継の長女
  中原郷名主  │ ‖────────中原範大
  中原村在住  │中原克富       安芸守
         │ 造酒        幼名:十郎丸
         │ 現在の中原郷名主
         │ 町の酒屋出身
         │
         └宣
           吉継の次女
           ‖────────立岡拓実
          立岡拓実の父     府生

広沢三家(牧野郷川上村)

 広沢勝吉
  広沢の上の家
  ‖──────┬美那
 木美      │ 広沢の美那
         │
         └毬
           広沢の中の家で
           育てられている

 加恵──────┬葛太郎(葛太)
  広沢の中の家 │
         └繭

 祖母…………………ふく
           広沢の下の家
           村西家の美千に仕えている