第9回

『たそがれ清兵衛』


 描かれている時代が現代ではない事で、この映画は、極めてはかなげである。一般的な負の要素がいくつもいくつもつみ重ねられてゆく。病死、水死、ぼけ、弊衣破帽、帽ではなく月代。しかし、そのいずれもが、江戸時代末期を描くことで、すべて納得できる。江戸時代から明治へと変わろうとする時代に、わずか50石取りの下級武士が、幸福である訳はなく、いつか祖母が死に、娘を売り、禄を失いと、前もって重ねられる負の描写は、今だ見ぬ次の負を予感させて、危うい。それがこの映画の醍醐味であり、宮沢りえの登場をみるも、見る我らのスイッチが正へと切り換ることは無い。

 この映画の中の人々は、映画の結末と関わり無く、淡々と淡々と不幸になってゆく、そう思って見続ける。それは幕末という極めて不安定な時代の船に乗り合わせた、その頃の日本人すべての宿命なのであり、だからこそ幕末と言われ、世紀末と言われたのであろう。それらの時代の現象は、今の時代にも通底することで、私はこの映画を凝視する。11月2日全国丸の内ピカデリー1系にて公開。


●市井義久の近況● その9 9月

 8月22日木よう日午前8時55分発ANA191便にて大分へ、私にとっては25回目の湯布院映画祭である。10時25分大分空港着ここからはバスで別府へ行くか、ジェットフォイルで大分まで行って、そこからバスか電車、25年間変わらないルートである。県庁へ投書したこともあったが、採算が取れないということで今だ空港、湯布院のシャトルバスは開設できないでいる。羽田から博多、博多から湯布院までバスというルートもあるが、私はやまなみハイウェーをエッチらオッチら旧式のバスで山を越えないことには、湯布院まで来たという実感がわかない。なにせ1週間くらい滞在すると20万円くらいは、かかるのである。
そのためには別府からの山越えがふさわしい、博多から高速道路では、はるばる感が薄れる。


 なぜ湯布院なのか、先月号で触れた通り映画と温泉と食べ物と友人、25年も来ているのだから、知り合いの1人や2人いるのは当然であるが、8月下旬に訪れると映画祭が開催されている、それは今年で27回目、全部の映画を見ていると、食事がゆっくりとできないので、映画は半分くらいにして、友人と食事をしたり温泉に入ったりしている。しかしそれも映画を肴にしないことには、旨くない。だから同じ湯布院でも私でなくてもこの季節に限って訪れる人は多い。あたりまえの生活をしていると思う、過不足ない人生と思う。それが25年も毎年1週間くらい湯布院に私を訪れさせるのだから(それも東京から)湯布院を構成する人々の力は、おそるべし。それも毎年続けて必ず訪れる人が、リピーターと呼ばれる人が、私1人ではなく、必ずそのリピーターが口コミで他の人を同行するのである。まるでTDL(東京ディズニーランド)のような戦略である。

 上映作品17本のうち8本を見た。その中でのベストワンは富樫森監督作品『ごめん』。小学校6年生と中学校2年生の共業、共同作業の話である。夢精という個を代表する行為から性という共同作業へと向う、途上のお話である。明白な個あるいは孤がくっきりと描写されていることで、第2部ラストシーンから始まる性へと向う延岡篇?への期待も高まる。しかし富樫森の前作『非・バランス』、助監督としてついた相米慎二、平山秀幸、ともに性はスクリーン上では代置される。『台風クラブ』のプールでの水しぶきのように。10月テアトル新宿にて公開。写真(↓)は主役の2人。

http://www.ytv.co.jp/cinema/gomen/gomen_main.html


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

2001年
3月24日『火垂』
6月16日『天国からきた男たち』
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』


ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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