毎回友人たちに登場してもらい、エッセイを書いてもらうコーナーです。 今年のお題は「影響をうけたモノ」。

第11回の執筆者はヨシミさんです。

●●ヨシミ自己紹介●●

 レーコちゃんとは、大学の授業の合間に(さぼって?)一緒に映画を見に行ってからの長―いおつきあいになります。現在3歳と1歳の怪獣達と格闘中。

第11回

 去年の2月9日、彫刻家、舟越保武さんのお葬式に私は参列した。聖イグナチオ教会。初めて訪れる教会でのお葬式だった。舟越保武さんは、日本を代表する彫刻家で、あの長崎の日本二十六聖人像を制作された方である。そして私の大好きな彫刻家、舟越桂さんのお父様である。ミサの後、告別式で友人の言葉に続き桂さんが家族を代表してお話しされた。お父様の死に際の様子、最後に家族ひとりひとりがかけられた言葉、それらを克明に追体験するかのようだった。息がひとつ、ひとつ小さくなっていくお父様に桂さんは「大丈夫、怖くないよ」と囁いた。−−−。その言葉を聞いた瞬間どっと私の中で何かが解けていくような不思議な感動に包まれ、涙がこぼれおちた。あの感動は何だったんだろう。あれからずっと考えていた。

 私は幼稚園の頃から死ぬのが怖くて怖くてたまらなかった。どうしてそんな小さな頃から「死」にとりつかれていたのか未だに解らないのだけれど。いずれ自分は死んでしまう、それは必ず来るんだって事を知った時から寝ても覚めても「死」が頭から離れなかった。お風呂に入っている途中に怖くなって母にしがみついたり、夜中に怖くなって父をたたき起こしたり。みんな子供の考えることじゃないよって笑っていたけれど、当時の私には真剣な悩みであったのだ。

 12年前、留学先のNYで、そこで出会った人達、そしてアートに衝撃をうけて日本に帰れなくなってしまった。すごいエネルギーだった。生まれて始めて無我身中で勉強し、自分と必死で向き合う羽目になった。そうでなければ弾き飛ばされそうな、そんな街だった。ゾクゾクするほど毎日楽しかった。そしてある日ふと気が付いた。そういえば、もうあの死の恐怖に襲われなくなったなあ。不思議だった。同じアパートの住人が強盗に襲われたり、ワンブロック先のゴミ箱でバラバラの死体が発見されたりと、それこそいつ自分の身に起こるか分からないほど「死」が身近にあるというのに。親元を離れ一人になって、ちゃんと生きることの大切さを、とーっても遠回りしながら、痛い授業料も払いながら少しづつ分かりかけてきた時だったんだと思う。死ぬのがずっと怖かったけれど、生きることを疎かにすることのほうがもっと怖くなっていたのだ。がーん!そんなあたりまえの事にやっと辿り着いたNYでの体験だった。

 そして日本に帰って、舟越桂さんの彫刻と出会った。桂さんの彫刻作品は人間がモチーフである。楠で彫られた半身で、きれいな色の大理石の目。どれも遠くを見ているような少し斜視になっている。とっても惹かれた。初めて作品を目にした時、なんだかほっとした。あったかかったから。と同時に緊張した。モデルになった人達はきっとまっとうに自分を見つめ、向き合って生きている人。そういう存在感があり、そういう人間に対する作家のやさしい眼差しがあった。私は「『人』という存在を肯定したい」っていう桂さんの心に、打たれ、またそれは私に緊張感をもたらした。元来なまけものの私は、だらっとした気持ちでいる時は恥ずかしくて舟越さんの作品を見づらいような、そんなパワーを感じる。婚約指輪を買う代わりに舟越桂さんの木版画を選んだ。その時はどうしてそうしたのか考えたわけではなく、なんだか一番婚約の記念にふさわしい気がしたのだったけれど、今思うと、これからの結婚生活で自分を見失わないで、きちんと自分にも、相手にも向き合っていこうという気持ちの現れだった気がする。(いまだに喧嘩が絶えないけど、まっ、それはおいといて・・)

 桂さんの「怖くないよ」という言葉で、多分わたしはちゃんと生きることへの勇気を全身で感じたんだと思う。そうすれば、怖くないんだよって。舟越保武さんは日本二十六聖人が長崎で殉教した日と同じ2月5日に天に召されました。もしかしたら神様ってほんとうにいるのかな。


(第12回の執筆者はかんばさんです。お楽しみに〜)


聖イグナチオ教会のステンドグラス

★前回執筆者もんちさんへのメッセージ★

うーん、とっても共感します!自分の中の大切な「とき」はその後の生活を勇気づけてくれますよね。マウントレーニア、行ってみたくなりました。

★ヨシミさんお薦めのサイト★

●現代彫刻美術館
http://www.museum-of-sculpture.org/
●アンドーギャラリー
http://www.interzone.or.jp/~aginc/
●西村画廊
http://members.aol.com/nishig1/
(レーコより) ヨシミ、子育て大奮闘の忙しい中、執筆本当にありがとうございました!え〜、ここでヨシミと舟越桂さんとのエピソードがあるので私が披露させてもらいます。舟越桂さんの作品の大ファンだったヨシミが、婚約指輪の代わりに彼の作品を購入するつもりであることを美術関係の仕事をしている友人に話したところ、共通の友人を介してこの話が舟越桂さん自身に伝わり、嬉しく思った舟越さんからオリジナルの婚約祝いを(買った作品とは別に)プレゼントされたのです。それがきっかけで作家とファンを越えたおつき合いが始まったのでは???そうでしたよね?間違ってたらごめんな。
ヨシミがNYで奮闘している頃、一度だけ遊びに行ったことがあります。「1年で戻るから」と親の許しをもらって旅立ってからすでに2年が過ぎ、ちゃっかり大学院への入学を果たしていたヨシミ。京都での学生時代、の〜んびりした性格で、
まわりから「大ボケヨシミちゃん」とからかわれていた彼女が、グリニッチヴィレッジのアパートでNYでの一人暮らしを謳歌してました(で、5年暮らしてたよね)。NYのヨシミは、何もかもさーっとてきぱきこなし、歩き方も話し方もスピードアップ!ほんま、びっくりでした。そして、「NYってどんなとこなん?」と聞いた私に、「NYは最もアメリカ的ではない街。だけど、NYのないアメリカはアメリカじゃない。そこが魅力。」と答えてくれました。NY、すごい好きなんやなって思いました
帰国して、バリバリ仕事して、結婚そして出産を経験した後も、いつも大好きなアートの世界とマイペースで付き合い続けているヨシミ。いいよなあ。今も変わらずNYを熱く語ってくれる様子を見てると、ママのヨシミがNYに再会する日は、そう遠くない気がするよ!

→「読本 十人十色」バックナンバー
1「筒井康隆礼賛」by よねお
2「デス・スターの溝」by KITT
3「恋い焦がれる」by マサコ
4「おれがすき。」by こばやし
5「奥の奥の感覚」by トヨダ
6「こちらヒューストン」by テラケン
7「ドラッグのすすめ」by イロミ
8「Hello Kitty」by イザベル
9「BLUES SESSION の入り口」by けーこ
10「じかんのかんかく」 by もんち
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