Serge Teyssot-Gay は1980年代後半に活動を始めたフランス (France) の rock グループ Noir Désir の guitar 奏者だ (関連レビュー 1, 2, 3)。 Interzone は Teyssot-Gay とシリア (Syria) の oud 奏者 Khaled AlJaramani のプロジェクトだ。 AlJaramani はこのプロジェクトで初めて聴いたが、 Damascus Conservatory (ダマスカス音楽学校) の教師でもあるという。 2005年に1作目をリリースし、今年に入って新作をリリースした。 どちらも佳作なので、2作併せて紹介する。
Interzone は、 Teyssot-Gay の歪んで鈍い重めの音色の electric guitar と AlJaramani のアコースティックな oud を かき鳴らし合うジャム・セッション的な内容だ。 Teyssot-Gay はオリエンタルな旋法とかにあまり歩み寄ることなく、 抽象的なフレーズを弾くというよりも、 Noir Désir で聴かせていたような alt rock っぽい少し愁いを感じるようなフレーズを弾いている。 歌は無く唸るような声のハミングやコーラスのみだ。
これで electronica 的な打ち込みリズムや音処理が加われば DuOud (レビュー 1, 2) のようだと思うのだが、そんな邪気も感じさせない質実剛健な音作りだ。 メジャー (Universal) からのリリースだが、まるで独立系からのリリースのような音だ。 しかし、その荒削り (Teyssot-Gay の音色はまさにそれを想起させる) な 飾り気の無さが、この作品の魅力になっているように思う。 (これとは別に、Smadj あたりの remix も聴いてみたいとは思うが。)
Interzone で最も気に入っているのは、 Noir Désir の曲かと思うようなフレーズ (そうかと思って聴き直してみたが、該当する曲を見付けられたかった) に、 oud や詠唱が絡む "On The Road" だ。 "Vitalité" や "Indian Raga" の ゆったりしたノリやドライヴ感を作り出していくあたりは、 1990年前後の The Feelies や Pell Mell (レビュー 1, 2, 3) のようなインストゥルメンタルの US indie rock を連想させられるところもある。
続く第2作 Interzone Deuxième Jour では ゲストミュージシャンを迎えているが、 基本的に1作目とあまり大きく変わらない、荒削り感のあるセッションだ。 しかし、若干音が良くなり、 重層的な弦楽器が織り成すテクスチャも楽しめるようにも思う。 擦弦楽器 (kamantché) が加わったことも大きいだろうか。 特にアップテンポの "L'Effroi" は音の分厚さもカッコよく、最も気に入ったトラックだ。 "Cana" も duo とは思えない厚さで迫って来る。 一方、打楽器奏者が入った曲が4曲あるが、それほど打楽器の存在感は無い。 疾走感やリズムを作り出しているのは、guitar や oud のような撥弦楽器だ。
一方で、オープニングの "Sounounou" も、音は1stのように簡素ながら、 Teyssot-Gay の electric guitar のソロが Noir Désir を思い出させ、 かっこいい。 これにソプラノのような詠唱が入るのだが、 これが Bertrand Cantat (Noir Désir の歌手) の雄叫びだったら、 と思ったりもした。
ゲストの Bijan Chémirani は jazz/improv や world music の文脈で幅広く活動する 在仏イラン (Iran) 系の打楽器奏者だ (レビュー 1, 2, 3, 4, 5)。 Gaguik Mouradian も jazz/improv の文脈でも活動する在仏アルメニア (Armenia) 系だ (談話室の関連発言)。 Gilles Andrieux はフランスのミュージシャンだが、 Senem Diyici (関連レビュー) や Nadim Nalbantoglu (関連レビュー) などトルコ (Turkey) のミュージシャンと共演が多い。 残りの3人はこの作品で初めて知ったが、Tari Akhbari はイランの、 Noma Omran と Mohamed Osman はシリアのミュージシャンだ。 Teyssot-Gay がこういったミュージシャン達と以前から交流があったわけはなく、 クレジットされていないがプロデューサ的な役割の人物に負う所が大きかったようだ。
Noir Désir の魅力の多くは Bertrand Cantat の歌声に負っていると思っていたが、 プロジェクト Interzone を聴いて、 Teyssot-Gay の electric guitar に負う所も大きかったと気付かされたようにも思う。
ちなみに、Teyssot-Gay の MySpace で Interzone の試聴はもちろん、AlJaramani との duo のライブ映像を2本観ることができる。 特にこれといった演出のないものだが、それがミニマルなセッションという感じで良いように思う。
RFI Musique は1作目のリリースの際の記事 "New musical horizons for Serge Teyssot-Gay" (2005/06/27) で、Teyssot-Gay の言葉を交えつつ、このプロジェクトが生まれた経緯を紹介している。 これによると、Teyssot-Gat と AlJaramani は出会ったのは、 2002年の中東ツアー中にシリアの首都ダマスカス (Damascus) を訪れた際、 Centre Culturel Français de Damas (ダマスカス・フランス文化センター) 館長の 私的な歓迎会でのこと。AlJaramani の方から一緒に演奏しようと誘ってくれたとのことだ。 このときに、コラボレーションの約束をしたが、 互いの都合もあって再開は2003年10月にダマスカスで、そして、 2004年1月にはパリ (Paris, FR) 郊外 Saint Ouen でのコンサート開催となった。 音楽的なコンセプトがあって始めたのではなく、個人的な関係から始まったプロジェクトという感じだ。 また、Noir Désir の活動停止は2004年なので、その件とこのプロジェクト開始は特に関係無さそうだ。
新作に合わせての Teyssot-Gay へのインタビュー記事 "Interzone Deuxième Jour: Teyssot-Gay and Aljaramani do a rerun" (RFI Musique, 2007/02/19) によると、2作目への多くのミュージシャンのゲスト参加は、 Fondation de l'Abbaye de Royaumont (ロワイヨーモン修道院財団) の Frédéric Deval の寄与が大きいようだ。 しかし、このインタビュー記事で最も興味を惹いたのは Interzone での音楽経験が guitar の演奏をどう変えたかという質問への回答。 これはこれでロマンチックだとは思うが、 学究肌でもなければ、"world music" 的な受け狙いも無い感じが、面白かった。 以下回答を引用 (引用者訳)。
Khaled から多くのことを学んでる。けど、ルールとかスケールとかは知りたくもない。 そんなことは気にしてないし、これからも学ぶつもりはないよ! ロックを演ってたときも、ブルース・スケールもコード・チャートも学ばなかった。 自分自身のスタイルを創り出すため、人に要求しないようにするため、 そして、自由な感覚を保ち続ける方法として、そういったことを拒否していつもやってきたんだ。 Khaled と一緒に演奏していると、時々、彼はこんなことを言うんだ、 「知ってるかい、今我々が使っているスケールは古代ギリシャのこれこれの時代で使われていたものの一つだよ」って。 そんなものさ。けど、気付いたことが本当に興味深いことだと思っても、気にしないよ。 学んだことについてより深めて行くつもりはない。 消化した後は、後に吐き捨てるだけだ。閉じ込められるのが恐いからね。 Khaled といて、自分で引き開くことも終わらせることもできる 強い構造を持った宇宙の構築の仕方を学んだ。 けど、それ以上のことは知りたくない。 物事を計画しそれを実行するようなことは好きじゃない。 そういったことは嘘をついているような気分にさせるんだ。
最後の質問はやはり、いつの日か Noir Désir 活動再開させたいか、というもの。 もちろん、そうしたいと回答している。