2009年に音盤雑記帖 (Cahiers des Disques)
で取り上げた最近2〜3年の新録リリースの中から選んだ10枚。
展覧会・ダンス演劇等の公演の10選もあります:
2009年公演・展覧会等 Top 10。
(Perlon, PERL76CD, 2009, CD)
ジャケットデザインが Skull Disco のグロテスクなイラストから
Perlon のシンプルなグラフィックへと変化したように、
click へ近づいた淡々とした音作りになったが、
hand drum (特に tabla) や frame drum (tambourine)、xylophone
風の音の使い方も相変わらず。その音色も良いアクセントの dubstep だ。
#2
Steve Lehman Octet
Travail, Transformation, And Flow
(Pi Recordings, PI30, 2009, CD)
ニューヨークの jazz/improv の saxophone 奏者の新作は、
低音寄りの管楽器が加わった事により音の奥行きは広がったが、
5tet から 8tet へ編成が拡大しても小回り感を失わない
切れ味の良いIDM的な変則リズムでの演奏だ。
#3
Moritz von Oswald Trio
Vertical Ascent
(Honest Jon's, HJRCD45, 2009, CD)
techno の文脈で活動してきた3人が即興的な生演奏に取り組んだ作品。
free improv のようなビート感のほとんど無いものではなく、
von Oswald らしい淡々と刻まれるリズムもモノクロームな印象を与える音世界だ。
#4
Taylor Ho Bynum Sextet
Asphalt Flowers Forking Paths
(hatOLOGY, 675, 2008, CD)
ニューヨークの jazz/improv の saxophone 奏者の6tetによる2作目。
軽快かつアクロバティックに飛躍のあるフレーズが絡みあうような展開から、
轟音の中から始まる室内楽的な展開まで、緊張感高い多彩な演奏だ。
#5
Андрей Котов / Сергей Старостин / Владимир Волков / Леонид Фёдоров (Andrei Kotov / Sergei Starostin / Vladimir Volkov / Leonid Fedorov)
Душеполезные Песни На Каждый День (Dushepoleznye Songs Every Day)
(Улитка (Ulitka), U011, 2008, CD)
rock 的な Farlanders から jazz 的な Moscow Art Trio まで幅広く活動する
ロシアの folk/roots の歌手 Сергей Старостин (Sergei Starostin) の参加した4人組での作品。
колёсная лира (hurdy gurdy) や калюка (kalyuka; Russian overtone flute) のような
アコースティックな楽器の音色を生かしたシンプルながら味わい深い作品だ。
(Tectonic, TECCD006, 2009, CD)
オランダの dubstep のDJ/producer の新作は、さらに techno に接近した音作り。
時に minimal に、時に複雑なビートもIDM的に感じる音を聴かせる。
その dubstep に留まらない音世界が良い。
#7
Mercan Erzincan
Mihman
(Güvercin Müzik, no cat. no., 2008, CD)
トルコの女性歌手 / bağlama 奏者の2008年作は、
アナトリア地方の民謡を bağlama のアンサンブルやコーラスを使い現代的に解釈したもの。
そのオープニングを飾る曲 “Levh-i Kalem” のミュージック・ビデオ
[
YouTube]
は、そんな Mercan Erzincan の音楽の特徴をうまく捉えたものになっている。
#8
Jewels & Binoculars
Ships With Tattooed Sails
(Upshot, no cat. no., 2007, CD)
jazz/improv の文脈で活動する3人による Bob Dylan 曲集プロジェクトの3作目。
reeds、bass、drums の三者が伴奏に徹することなく
それぞれ Dylan を歌うという面白さは相変わらず。
ゲストとして参加した Bill Frisell も、このプロジェクトにぴったりはまっている。
#9
John Hollenbeck Large Ensemble
Eternal Interlude
(Sunnyside, SSC1220, 2009, CD)
Refuge Trio:
Refuge Trio (Winter & Winter, 910 149-2, 2008, CD)
[
レビュー]
の音数を抑えたソフトながら緊張感のある音世界も捨てがたいし、
Jazz Bigband Graz との Joys & Desire (Intuition, 2005) 程には劇的な展開や IDM 的な時間の並走感は無いけれども、
minimal music 的な要素を巧く取り入れたコンテンポラリーな jazz big band が楽しめた。
#10
Jay Clayton
The Peace Of Wild Things
(Sunnyside, SSC1198, 2008, CD)
1960年代から活動する女性歌手の久々の抽象的なヴォイシングを中心としたソロ・アルバムは、
electronics 使いも含め相変わらず。
新展開を感じるわけではないが、衰えを感じさせない、澄んだ声からなる音空間だ。
次点
Houria Aïchi et L'Hijâz Car
Les Cavaliers De L'Aurès
(Accords Croisés, AC126, 2008, CD)
アルジェリアのベルベル系シャウイ人の女性歌手によるこの作品は、
アコースティックながら管楽器や弦楽器のソロに jazz が現代的に感じられる。
特に、ベースラインを取るような bass clarinet と歌声の絡みが印象に残った。
番外特選
Michiyo Yagi Trio with Hugues Vincent & Nori Tanaka
『弦動力!』
live @ Pit Inn, 新宿, 2009/09/05
free jazz/improv のセッションを重ねる箏奏者の新グループのライブは、
手数音量勝負ではなく、爪弾く 箏 の華やか音色も生かされていたし、
ツインドラムの叩きだす立体感のあるドライブするビートも格好良かった。