2009年に歴史の塵捨場 (Dustbin Of History)で
レビューした展覧会・ダンス演劇等の公演の中から選んだ10選。
音楽関連 (レコード/ライブ) は別に選んでいます:
Records Top Ten 2009。
第一位
Stefan Kaegi, Jörg Karrenbauer (Rimini Protokoll):
Cargo Tokyo-Yokohama:
Eine brasilianische LKW-Fahrt durch Japan
(演劇/パフォーマンス)
品川埠頭〜横浜新港埠頭, 2009/12/18.
品川埠頭から横浜新港埠頭へ運ばれた冬晴れの夕方約3時間は、
物流の社会科見学のようであり、工場ランドスケープ観光ツアーのようであり、
しかし、そんなことを異化するかのように道化的な女性も登場する所も演劇的。
そんな体験が楽しめた作品だった。
ドキュメンタリー的要素を取り入れた演劇/パフォーマンスとしては、
Chris Kondek:
Dead Cat Bounce
(にしすがも創造舎) [
レビュー] や
Port B 『個室都市 東京』 (池袋西口公園)
[
レビュー]
も良かったが、これには及ばなかった。
第二位
内藤 礼 『すべて動物は、世界の内にちょうど水の中に水があるように存在している』
(Naito Rei: Tout animal est dans le monde comme de l'eau à l'intérieur de l'eau.)
(美術展)
神奈川県立近代美術館 鎌倉, 2009/11/14-2010/01/24.
観客の感覚を研ぎ澄まさせ、視線を誘導し、その空間にあるささやかな光を気付かせるような、
非常に繊細で微かなものを使ったインスタレーションは相変わらずだったが、
宝探しに近いような微かさは後退。
むしろ、内と外、明と暗といった関係の対比が印象に残った。
第三位
『ヴィデオを待ちながら —— 映像、60年代から今日へ』
(Waiting for Video: Works From the 1960s To Today)
(美術展)
東京国立近代美術館, 2009/03/31-06/07.
特に1960-70年代のコンセプチャルなヴィデオアートの系譜を追えた勉強的な展覧会。
単に時代を感じたというだけではなく、
アナログ・ヴィデオの編集のし辛さとコンセプチャル・アートの親和性に気付かされた。
第四位
『‘文化’資源としての<炭鉱>展』 (美術・デザイン・写真展)
目黒区美術館, 2009/11/04-12/27.
主に1950年代を中心として炭鉱を主題とした
日本の炭鉱を捉えた絵画や絵画、ポスター等のグラフィックスなどを集めた展覧会。
最近のバブル的に増えているコミュニティ・アート・ブロジェクトに対する
アンチテーゼにも感じられた。
しかし、山本 作兵衛 を知ることができたのが、この展覧会の一番の収穫だった。
第五位
『ロシアの夢 1917-1937』
(Мечты: Русского Авангарда 1917-1937 /
Dreams Of Russia: Russian Avant-Garde 1917-1937)
(美術・デザイン展)
埼玉県立近代美術館, 2009/10/10-12/06.
ロシア・アヴァンギャルドの展覧会は1990年代からそれなりにフォローしていることもあり、
この展覧会でその展開について認識を新たにしたという程ではなかった。
しかし、デザイン、建築、舞台芸術を横断して文化的な潮流を追う展示は、
今回初めて目にしたものもあり、充分に楽しめた。
第六位
La Machine:
Les Mécaniques Savants (パフォーマンス)
横浜 みなとみらい 新港地区界隈, 2009/4/17-19.
以前からインターネット、DVD や本を通して興味を持っていた
フランスの巨大人形劇カンパニー Royal de Luxe の演劇機械を担当してきたカンパニーを
やっと生で観ることができた。
新港埠頭での水、炎や煙を使った判りやすく派手なパフォーマンスも悪くはなかったが、
やはり、道路標識や信号機をかわしつつ20世紀前半の建築が多く残る日本大通りへ向かう所が最も楽しめた。
第七位
大友 良英 + 青山 泰和 + 伊藤 隆之 / YCAM InterLab + α 『Without Records』 (美術展)
VACANT, 2009/07/04-08/09.
『休符だらけの音楽装置』 (旧千代田区立練成中学校屋上)
[
レビュー]
の屋上でちょっとした出来事が起きそれで人々が緩く集散する様子を観ているのも面白かったが、
プラスチック素材のミッドセンチュリー風のデザインのプレーヤーが暗い白熱球で浮かび上がる様子の
ノスタルジックな印象が忘れがたかった。
第八位
Juliette Binoche & Akram Khan: in-i (ダンス)
Bunkamura シアターコクーン, 2009/03/13.
Sacred Monsters (東京文化会館)
[
レビュー]
での Sylvie Guillem のユーモラスな寸劇に意外な面を楽しんだのも確かだが、
この Binoche との舞台では、演じられていたうまくいかない恋愛が
ヨーロッパにおけるイスラム系移民の微妙な立場のメタファーとなる瞬間を観ることができた。
第九位
『第1回 所沢ビエンナーレ美術展 引込線』 (美術展)
西武鉄道旧所沢車両工場, 2009/08/28-09/23.
会場、運営、ディレクションなど、作家の手作り感たっぷりの緩いアートイベントだったが、
最近のアート・フェアやそこに出るような企画画廊にも無い、
自分が画廊巡りをよくしていた1990年代半ばの作家の顔が見える展覧会を思い出させられた。
それは、テーマをあえて設けないことにも意味を感じる程だった。
群馬県中之条町内, 2009/08/22-09/23.
確かに、越後妻有トリエンナーレ など他の国際アートイベントで観たことがある作品の
素朴なヴァリエーションと感じてしまうような作品もあったし、
社会的に当たり障りの無いテーマの作品がほとんどだった点も物足りなかった。
しかし、都内のアートフェアを回るよりも、このようなイベントに足を延ばした方が、
興味深い若い作家に出会えるのかもしれない。そんなことに気付いたことが収穫だった。
次点
Pipilotti Rist (dir.): Pepperminta (映画)
Schweiz & Österreich, 2009
スイスの現代美術作家 Pipilotti Rist が初めて作った長編映画は、
映像作品 “Ever Is Over All” (1997) に登場する女性像をさらに展開し、
色彩溢れる映像センスはそのままに2000年代以降に顕著になったキッチュでシュールなセンスも加え、
80分間の少々コミカルな物語に仕上げられていた。