さて、今週末の音盤雑記帖は、 Denmark の自治領 Faroe Islands (フェロー諸島) の レーベル Tutl の特集です。 Faroe Islands は、Norway と Great Britain と Iceland の中間くらいにある Denmark から飛行機で2時間ほどの距離の、人口5万弱の島嶼地域です。 (ここに 良い日本語による紹介がありますね。ここは、 北欧のクラッシック音楽のサイトのようです。ほほう。) 大幅な自治権を与えられた自治領ということで、ほとんど独立国状態。 ある意味で、Denmark, Sweden, Norway, Finland, Iceland に続く6番目の北欧諸国、 と言えるかもしれません。 公用語にも、第一言語にフェロー語 (Faroese) が使われてるようです。 綴りだけみると デンマーク語 (Danish) とかなり違って、 むしろ特殊文字とか アイスランド語 (Icelandic) に似てます (ちなみに、Iceland も元 Denmark 領でした)。 ccTLD も、 Denmark の dk ではなく、独自に fo です。 国旗というか域旗は、Norway の国旗の赤白青を入れ替えた感じですね。 独自の紙幣もあります。
Faroe Islands は、Denmark とは別に独自の サッカーのナショナル・チームを 持っています。ちなみに、国内リーグはアマチュアで10チームあるようですね。 小国なのでめちゃくちゃ弱小なんだろうなぁ、と思いきや、 それなりに勝ってる!。 すげー。サッカー関係の検索結果をいろいろ見てると、掲示板や日記のログとかで、 「オーストリアを破って監督を辞任に追い込んだ」とか、 Faroe Islands で観客数300人の国際試合があって 「300人と言ったら少なく見えるけど、人口対比からすると6万人のウルトラスが競技場を埋めているようなものだ」 (ウルトラスというのは、日本のナショナルチームのサポーターのことですね) とか言われていたり。おもしろーい。と、思わず脱線しましたが…。
文化活動とかも盛んのようで、他のヨーロッパの地域と同様 アートや音楽のフェスティヴァルも盛んのようです (そうそう、去年行った Avignon にしても歴史があるとはいえ人口10万の地方都市ですし。 その時に拾った夏のフェスティヴァルの号外を見ても、あちこちの小規模な都市で それなりの規模・内容のフェスティヴァルが開催されていて、感心したものです) 。 で、Faroe Islands と日本の島嶼地域と比較してみると、 人口100万人以上の沖縄県に比べたら遥かに小規模。 対馬が人口4万強、佐渡が人口7万強で、同じくらいの規模でしょうか。 その程度の規模の島嶼地域が、サッカーのナショナル・チームを持ったり、 独立系レーベルを拠点に盛んな音楽活動があって、 フェスティヴァルも開催されていたり、というのが素晴らしいですね。 それに比べて、日本の離島って、 どうしてこんなにぱっとしないように見えるのでしょうか。 これも、Faroe Islands には自治領として大幅な自治権が与えられているからでしょうか。
今回紹介するレーベル Tutl は、 Faroe Islands の音楽シーンの核となっているレーベルです、 というか、ここ以外にレーベルは無いように思われます…。 ほとんどあらゆるジャンルの音楽を扱っていますが、 techno 〜 breakbeats 系の音はさすがにまだ見当たりませんね…。 今年で25周年を迎えるとのことで、そのレコードのリリースタイトル数も100以上あります。 ちなみに、Tutl へは直接メールでコンタクト取ってオーダーしてますが、今のところは対応は早いです。 スタッフも少ないようで、ミュージシャンでもある Kristian Blak 自身が直接対応してます。 そうそう、CDを送ってきた小包の切手が綺麗でしたよ。 日本から手紙を送るとき、宛先の Faroe Islands のところに 国名とわかるように下線を引いておいたんですが、 郵便局の窓口で「国はどこだ?」とか言われてしまいましたよ…。 「Denmark の海外自治領なんですけど…。」と言ったら、納得してくれましたが。 メールや手紙はフェロー語でもデンマーク語でもなくて英語で書きましたよ。 送金にはユーロを使いました。Denmark はEU通貨統合にはまだ参加してないですし、 そもそも Faroe Islands は EU 域外なんですけど…。
と、思わず前振りが長くなりましたが。最初に紹介するのは、 Tutl というか Faroe Islands ならではの音源。 といっても、もちろん、Faroe Islands の民族音楽の伝統的な演奏 (嫌いじゃないですが)、とかそういうものじゃないです。 Faroe Islands の海に面した洞窟での録音、というのが、ならでは、ということで、 Karsten Vogel, Light When Dark (Tutl, HJF73, 2000, CD) のレヴューを。Tutl を主催している Kristian Blak や彼の率いる Yggdrasil の録音を、とも思ったのですが、 音数が少ない方が面白そう、とまずはこれに手をだしてしまいました。 Yggdrasil には、Sweden の bass 奏者 Anders Jormin もほぼレギュラーで参加してますし、 free jazz のベテラン John Tchicai もよく参加しているよう。 やはり Denmark との縁が深いようで、Denmark を拠点に活動する Marilyn Mazur が参加した録音 (Kristian Blak, Antifonale (Tutl, HJD20)) もありますねー。 と、かなり気になるバンド / ミュージシャンではあるんですが。 ま、他にもいろいろ聴きたいものがあるし、これは今後の課題ということで。
続いては、Tutl の Faroe Islands に閉じない活動を感じさせてくれる録音、ということで、 Piniartut, Piniartut (Hunters) (Tutl, SHD51, 2001, CD) のレヴューを。 Finland - Faroe Islands - Greenland 混成、というのも面白いです。 ちなみに、リーダー格の Tellu Virkkala (a.k.a. Tellu Paulasto) は、 ex-Hedningarna。 この Hedningarna や Garmarna といったバンドも、それなりに面白いバンドではあります。 去年の夏に NorthSide に大量注文をかけて、 それなりに聴いてますし。こういう folk-influenced な音楽に興味はあるのですが (関連する発言の抜粋)。 現在、中東欧に戦線を拡大中で、 到底北欧に手がまわっていない、というのが実情だったり…。 しかし、Hedningarna や Garmarna は、日本では、 「ラジカル・トラッド」と呼ばれて、 「プログレ」方面に受容されているようですね。 しかし、寡聞ながら海外の英語による紹介記事で "radical traditional" という表現は見たことないです (そもそも「トラッド」は和製英語的な表現で、この手の音楽ジャンルの表現としては "folk" や "roots" が使われることが多いように思います)。 ネーミングも受容のされかたも、ちょっと興味深いです。
さて、今回 (って続きはあるのか!?) 最後に紹介するのは、 Klakki, Lemon River (Tutl, SHD52, 2001, CD)。 音楽性にしてもバンドの拠点にしても、Faroe Islands との関係無いんですが、 今まで聴いた Tutl のリリースの中で一番ハマったかも。 大好きだった Mekons や、 あの Barbara Manning とか連想したりもしましたよ。 ちなみに、Klakki のリーダー格の Hasse Poulsen は、 improv. 方面でよく名前を見る Denmark の guitar 奏者で、 Av-Art レーベルを運営してる人でもあります。最近は、 あの Louis Sclavis の Napoli's Wall でも活躍中です。 Napoli's Wall も あの Ernst Reijseger と一緒にライヴしたりしているようで、聴いてみたいなぁ。 しかし、Denmark や Iceland (歌手の Eliassen の出身地) にだって、 こういう音楽をリリースしそうな alternative な独立系レーベルはあるのに (そして、Faroe Islands のミュージシャンが参加しているわけでもないのに)、 あえて Faroe Islands のレーベル Tutl からCDをリリースしている、 というのも興味深いです。
って、今回紹介したような音が Tutl のレーベルカラーってわけじゃないですし、 Faroe Islands の音楽を代表するものでもなく、かなり偏っているようにも思います。 普段紹介しているような 他の欧州の jazz / improv. や avant-rock/pop や world music と呼ばれるような音楽と 同時代性を感じる試みをしている最近リリースされたものに優先的に手を出していているだけです。 典型的な pop / rock や claasical 、伝統的な folk の演奏のものにはさすがに手を出す余裕はありませんので、 これらについては、そういう音楽に興味のある他の方に任せたいと思います。 って、検索していたら、日本語のサイトで、 Tutl の rock の編集盤を紹介しているページをみつけました。 ここで「ライナーによるとJazzシーンはあったようですが」と書かれていますが、 Kristian Blak の活動を見ていると、そうなんだろうなぁ、とは思います。 ま、Various Artists, Jazz I Foeroym (1977-82) (Tutl, HJF1/2/4/9CD, 2000, 2CD) はたいして面白くなかったですが…。 ちなみに、classical なものについては、 ノルディック広島というショップが 紹介しています。 伝統的な音楽について日本語で紹介をしているサイトは見当たらないですね。 jazz / improv. 寄りの音楽を日本語で紹介したサイトも、残念ながら見当りませんでした…。
ちなみに、北欧で国に準じて扱われている自治領の地域としては、 Faroe Islands の他に、 Aaland (オーランド、Finland の自治領) と Greenland (グリーンランド、Denmark の自治領) があります。 sj という ISO 3166 の alpha-2 country codes (ccTLD で使われてるコード) を割り当てられている Svalbard が挙がってないんで、あれっと思って調べてみたんですが、 自治領ではなくて工業省 (Ministry of Industry) の管理だったのかっ。 をを、Svalbard でもジャズ・フェスティヴァルがある! ちなみに Aaland には ISO 3166 country codes は割り当てられていません。 Greenland は gl で、ccTDL としても http://www.greenland-guide.gl/ とか使われてますね。
ところで、拡張ラテン文字を使うことが出来ない場合に、アクセント記号を省略してしまう方法もありますが、 ドイツ語のウムラウトを ae、oe、ue と書くように、北欧諸語の拡張ラテン文字 「ae のリガチャ」「ストローク付き o」「リング付き a」を ae、oe、aa と書くことも一般的に行なわれています。 たとえば、http://www.koch-schuetz-studer.ch/ の stuetz の "ue" は「u のウムラウト」ですし、 ここでも 「リング付き a」を aa で書き換えています。 同様に、ドイツ語の「エスツェット」を ss と書くのも一般的ですね。 で、フェロー語やアイスランド語に出てくる 「ソーン」や「エズ」って、 どう書くのが一般的なんでしょう? th、dh あたりが一般的、と考えていいんでしょうか…? 北欧諸語に詳しい方がいたら教えて下さい。 ちなみに、ドイツ語や北欧諸語の表記にあたっては、 このサイトでは、plain text の部分もあるので、 拡張ラテン文字のHTML実体参照での表現を用いずに、 基本的にこれらの表記に準じています (乱れることもありますが…)。