夢の城

― 登場人物 ―


町に集う人びと(二)
― 3. ―

主要登場人物

池原弦三郎(げんざぶろう)
 若い武士。若いけれど、玉井三郡の一つ竹井郡の池原郷の名主である。この物語の始まる前の年、村が出水で大きな被害を受けたため、年貢その他の減免などの陳情のために玉井の町に出てきている。町では評定衆筆頭の小森健嘉(たけよし)の世話をうけ、そのかわりに市場や浅梨(あさり)屋敷の内情をに報告することになっている。木村範利(のりとし)から知らされた「柿原忠佑が中原村に新しい寺を造ろうとしている」という噂を小森健嘉に話してしまい、そのことを気にかけて話をしに行ったところ[町に集う人びと(二)1.]、いっしょに昼飯を食いに市場に出かけることになり、市場に渡る早瀬川の橋のところで従弟の当四郎といっしょになった[町に集う人びと(二)1.]
木村範利(のりとし)大炊助(おおいのすけ)
 若い武士で、池原弦三郎の同僚。小森健嘉の屋敷の控えの間に集っている若い武士のボス的存在で、いつも一段高いところに座って本を読みつつ、他の仲間の知らないことを得意げに話している[町に集う人びと(一)上]。弦三郎に案内させて市場に飯を食いに来た。ここで範利がドカ食いしている「サッパの酢漬け」は一般に「ままかり」という。地方によっては素材の魚のほうも「サッパ」ではなく「ママカリ」と呼ぶらしい。
野嶋(のじま)当四郎(とうしろう)
 竹井郡野嶋郷の郷名主の息子で、池原弦三郎の従弟。町に来て博奕(ばくち)打ちとして生計を立てている。弦三郎がいま住んでいる小社裏の家は当四郎の家である。職業がら、市場の噂に詳しい。
宿の女主人、店の者
 当四郎が弦三郎・範利を連れてきた宿の経営者と従業員。宿は飲食店も兼ねているらしい。
柿原範忠(のりただ)主計頭(かずえのかみ)
 柿原忠佑(ただすけ)の長男[春野家・柿原家]。名まえはここまでに何度か出てきたが、本人が登場するのはここが最初である。中原村の名主 中原克富(かつとみ) は、溺愛している息子に「範忠」を名のらせようとしたが、この柿原範忠がいたために許されず、範大(のりひろ) とした[桜の里(七)5.]。また、村西兵庫助は「将来の玉井三郡を支えるのは必ずやこの柿原主計頭様であろう」とまで言ったことがある[桜の里(三)2.]
村西兵庫助(ひょうごのすけ)
大木戸九兵衛(くへえ)
井田小多右衛門(こだえもん)
 牧野郷川上村の村人。牧野郷では少数派の柿原党寄りの村人で、町の銭屋による借銭取り立てを回避するために、柿原党の使者として中原安芸守(あきのかみ)範大(のりひろ)と長野雅一郎(まさいちろう)を引きこんだ。柿原党の要求は、牧野郷から町の銭屋への借銭の返済を阻止することだった。町の銭屋に借銭を一部返済するという決議が通ってしまったため、村西らは借銭返済を阻止するために郷の備蓄米を焼いてしまう。ところが、その事実が寄合の場で暴露され、村の住人たちの暴行を逃れるために家族や財産にもかまわず逃げ出してきた[桜の里(八)1.]。大木戸九兵衛と井田小多右衛門はその後の中原村襲撃事件にも参加している[桜の里(八)4.]
長野雅一郎(まさいちろう)
 中原村の地侍。名主の中原造酒(みき)克富(かつとみ)に、息子の範大の護衛・助言役を言いつかって牧野郷に向かい、牧野郷から町の銭屋への借銭の返済を妨害する工作に従事したが、不首尾に終わった。しかも精神状態が不安定だった範大が暴力事件を起こして殺され、村西一党とともに村を命からがら脱出した。行き場に困って、出身地の中原郷の乗っ取りを計画し、中原村を襲撃して克富を殺害したが、村の地侍たちに受け入れてもらえず、追い出された[桜の里(八)4.]
柿原家の小者
 柿原家に仕える従者。

話題としてのみ登場する人物

銭屋の使者
 藤野の美那、鍋屋の隆文、銭屋のさわの三人で、弦三郎はこのうち美那と隆文とは知り合い、残りのさわは弦三郎が気にかけている娘 水鶏(くいな)屋のさとや美那の知り合いなのだが、弦三郎はそのことはまったく知らない。銭の取り立てのことは[桜の里(一)]から[桜の里(九)]までに出てくる。人質はじつは「広沢三家」の子どもたち三人だけで、それに巨大な尾ひれがついてここに出てくるような話に広がった[町に集う人びと(二)2.]
柴山康豊(やすとよ)兵部少輔(ひょうぶのしょうゆう)
 山の向こうの巣山郡を支配する郡代官。まだ若い。春野家がこの地にやって来る以前からの地元有力者の家柄で、兄が不慮の事故で亡くなった後に代官になった。現在の守護代(守護大名)春野越後守(えちごのかみ)定範(さだのり)に対して牧野郷の郷名主 牧野興治(おきはる) が反乱を起こし、反乱軍が定範を包囲したとき、定範側の援軍として介入し、反乱軍を打ち負かした。反乱軍側から見た乱の背景や経過については[桜の里(六)4.]
小森健嘉(たけよし)式部大夫(しきぶだゆう)
 春野定範の下で評定衆(家老に相当する)筆頭を務める。自分の屋敷に有力者の若い武士を集めている[町に集う人びと(一)中]。弦三郎と範利はこの小森屋敷から中食(昼食)を食いに出て来た。徳政(債権放棄令)を求める一揆を起こさせ、それに応じて徳政を実施するというシナリオを描いて工作中で、その情報漏洩に神経をとがらせているが、弦三郎は「近く徳政がある」という市場の噂をつかみながらも健嘉に伝えず、その件でねちねちと小言を言われた[町に集う人びと(二)1.]
越後守(えちごのかみ)
 春野定範(さだのり)。玉井・竹井・巣山三郡の守護代、要するに守護大名[春野家]。池原弦三郎や木村範利らにとっては主君にあたる。
柿原忠佑(ただすけ)大和守(やまとのかみ)
 柿原主計頭(かずえのかみ)範忠(のりただ)の父。春野定範の正妻の父にあたり[春野家・柿原家]、竹井郡に本拠地を置き手広く農村金融を手がける金融集団「柿原党」の総帥でもある。
(弦三郎が気にしている)「あの娘」
 水鶏屋のさと。世親寺での夕方のデート[町に集う人びと(一)下]以来、何か気になるらしい……。
(牧野郷の)証人の小娘
中原村の娘
 「証人の小娘」は広沢の(まり)[桜の里(七)5.]。ただし、毬を殺そうとしたのは、範忠のいう「忠臣」の柿原範大(のりひろ)であり、この四人の犯行ではない。ちなみに、毬はこのとき市場町の藤野屋にいる[町に集う人びと(二)2.]。中原村の娘は坂口のはる。「名主」は中原造酒(みき)克富(かつとみ)で、実際には長野雅一郎・大木戸九兵衛・井田小多右衛門の三人は克富がはるを追い回しているところにたまたま遭遇し、そのこととは関係なくかねてからの計画どおりに克富を殺したのだが、中原村の地侍たちは「長野らは克富とはるの取り合いをして克富を殺した」と解釈してしまった[桜の里(八)4.]
(牧野郷の)広沢家
 巣山郡広沢郷の出身者で、牧野郷で開拓事業が行われたときに移住してきたが、軽視・蔑視されているらしい[桜の里(四)下]。人質として町に来た(まり)葛太郎(かつたろう)(まゆ)のほか、葛太郎と繭の母、村西家の使用人のふく、ふくの祖母、さらに行方不明の「美那」という娘(毬の実姉)もいる[広沢三家]
中原村の名主・地侍
 名主の中原克富(かつとみ)はこのときすでに長野雅一郎・大木戸九兵衛・井田小多右衛門に殺されている。「地侍」は立岡(たつおか)府生(ふしょう)拓実(ひろざね)、坂口古左兵衛(こさへえ)、村尾右門(うもん)らのことを指すか[桜の里(八)4.]
中原克富(かつとみ)造酒(みき)、酒屋の克四(かつし)
中原吉継(よしつぐ)令史(りょうじ)
(しげ)
 克富は中原村の名主。もとは「酒屋の克四」といい、市場で酒の行商人をやっていた。話術に優れ、人気者だったが、女癖が悪かったらしい[町に集う人びと(二)1.]。中原村の前名主の中原吉継の娘 茂 と結婚し、吉継に男子がなかったため、その名主の地位を継いだ[中原家・立岡家]。名主としては、無能で態度が尊大で、さらに女癖の悪さが治らず、評判はあまりよくなかった[桜の里(八)3.]。長野雅一郎らに殺された[桜の里(八)4.]。柿原党から銭を借りるなど、柿原家と関係が深かったらしい。
中原範大(のりひろ)安芸守()
 中原克富の一人息子。父に溺愛され、守護代(守護大名) 春野定範 に元服させてもらって、そのことを自慢にしていた。牧野郷川中村で広沢の毬を殺そうとして襲いかかり、森沢荒之助(あらのすけ)に弓矢で射殺された[桜の里(七)5.]
吉山箕四郎(みのしろう)
 何者かまだよくわからない。

玉井春野家関係者等の系図

玉井春野家(三郡守護代家)と柿原家

正興─────┬正勝────────┬那世
 民部大輔  │ 民部大輔     │ 姉姫、深雪の方
 玉井春野家 │ 玉井春野家    │
 初代    │ 第二代      ├正稔
       │          │ 民部少輔、幼名:信千代丸
       │          │
       └定範        └美那
         越後守        妹姫
         現在の三郡守護代
         ‖
         ‖
柿原忠佑───┬田山の方
 大和守   │ (定範の正妻)
 竹井郡代官 │
 柿原郷名主 └柿原範忠
 柿原党総帥   主計頭
         竹井代官代

牧野家(牧野郷名主)と森沢家(森沢郷名主)

┌牧野興治─────芹丸
│ 治部大輔
│ 治部様
│ 牧野郷名主

└興治の妹
  ‖───────森沢荒之助
 森沢為順
  判官
  森沢郷名主

桧山家(港の名主)

 桧山興孝─────桃丸(幼名)
  織部正
  港の名主

杉山家(定範政権評定衆)

 杉山信惟─────宣十郎
  左馬允

浅梨家

 浅梨治繁     鍋屋の隆文
  左兵衛尉    藤野の美那
          銭屋の元資
          車屋の丈治 らの剣術の師匠

柴山家(巣山郡代官)

 柴山時豊─────興豊────┬勝豊────────弥勒丸
  兵部大輔     兵部大輔 │ 兵部大輔      勝豊の幼い遺子
  巣山郡代官    巣山郡代官│ 巣山郡代官
                │ 狩猟中に事故死
                │
                └康豊
                  兵部少輔
                  巣山郡代官

中原家(中原郷中原村、中原郷名主家)・立岡家

 中原吉継────┬茂
  令史     │ 吉継の長女
  中原郷名主  │ ‖────────中原範大
  中原村在住  │中原克富       安芸守
         │ 造酒        幼名:十郎丸
         │ 現在の中原郷名主
         │ 町の酒屋出身
         │
         └宣
           吉継の次女
           ‖────────立岡拓実
          立岡拓実の父     府生

広沢三家(牧野郷川上村)

 広沢勝吉
  広沢の上の家
  ‖──────┬美那
 木美      │ 広沢の美那
         │
         └毬
           広沢の中の家で
           育てられている

 加恵──────┬葛太郎(葛太)
  広沢の中の家 │
         └繭

 祖母…………………ふく
           広沢の下の家
           村西家の美千に仕えている