甘い生活苦タイトル画
タイトル画:武川雅寛・白井良明(ムーンライダーズ)

 2002年11月 第11回

 なんとなくクリスタルな、リンゴの香り漂う長野を経由して、群馬草津温泉に行ってきた。

 浴衣で散歩するのに丁度心地よい、こじんまりとした温泉街は、湯が絶えず噴出す広場、湯畑(ゆはた)を中心に宿・飲食店が軒を連ねる。建物のカンジから、私がイメージする、古き良き昭和の雰囲気をどこか残している様に思う。

 草津温泉といえば、60度以上の源泉に、水を混ぜ適温にすると効能が薄れる為、6尺の板で湯をかき混ぜ冷ます「湯もみ」が有名。その時のBGMは、「草津よいとこ〜」でなければならない。

 その日の夜、湯畑周辺を散策してみる。
「お食事処・田舎っぺ」・・・・うーん、ノーコメント。
「噴火ラーメン」 大辛みそラーメンのこと。まんまのネーミング。
「洋風居酒屋 ピカソ」 子羊のロースト青の時代風ソースがけ、てな一品がありそう、いやあるに違いない。
「小恋路」と書いて「オレンジ」と読む。このノリでいけば「時計仕掛之小恋路」となるのか?


 突然、「兄さあん、どこいくの?」とおねえちゃんに、声をかけられる。今夜はのべ何人に呼び止められるのか、数えてみる余裕があるのがわかる。「おーい。湯もみもみもみさせてちょうだい!」 そのおねえちゃんに対し、宿の窓から酔いどれオヤジのダミ声がとぶ。

 すっかり体も冷えきってしまい、外湯に直行してみる。草津温泉の歴史とも言える、その外湯は一坪足らずの木風呂があるだけの、実に質素なものだった。洗い場もないこの風呂に、先客がすでに3,4人、満員の状態。先客の面々は、いかにも皮膚に疾患のある男。あきらかにヤクザ風の男。過去に訳ありを背中で語る男等、このまま煮込んでしまえば、いいダシがとれそうな野郎ばかり。何も言わずその中へ入り、肩までつからせてもらう。今思えば、少なくともこの一坪の世界には、差別や偏見、敵対、憎悪は存在しなかった様に思う。白濁と化した湯につかり、熱さに耐える事だけが現実だった。日本も北朝鮮もアメリカもイラクも、この草津の湯にどっぷりまるごと、つかってしまえばいいのに。熱さの為、意識が朦朧とし始める。露天風呂で、倍賞美津子のデカパイをもむ、義父役の三国連太郎。邦画史上こってり度はダントツ。こんなキツイ場面を撮ったのは、エロの確信犯・今村昌平だったっけ?額から汗が流れ落ちる。きっとノーメイクだったのだろう、「OUT」で魅せた皺だらけの倍美津(イメージ的には倍蜜)もカッコよかった事を想い出す。

 次の日、長野へ戻る途中、雪化粧した浅間山の中腹から裾野へと、黄金色したカラマツ林が拡がっていた。カラマツと倍蜜。彼女の様に、こんな晩秋な老けかたをしてみたい。目に焼きつく黄葉を眺めながら、20年後の自分について考えてみた。

←やってしもた、というカンジです。
このイラストを描き上げるにあたって参考にしたのは今村昌平『復讐するは我にあり』そのものではなく、ビデオで持っている『ケンタッキーフライドムービー』の一シーンでした。だから実際は倍賞美津子、ここまで大きくないかも・・・ね?

葛城より:今月はお休みです。(レーコ)そのかわり、というのもなんですが、葛城さんプロデュース「含羞の人」にも執筆していただいた「wann recordings」の新譜『夜よりほかに聴くものもなし』(↓)の宣伝ページにコメント書いてもらいました。ほんまに、ありがとうございます。京都でもレーベルの宣伝よろしく〜!


(レーコより)京都から草津温泉、ってずいぶん遠くまで来たんやねー。最初、滋賀の草津かと思った(笑)。けど、あそこは温泉ないもんね。私は(どっちも)行ったことがないなあ。「温泉」に行くなら1年ぐらい山奥にある温泉街に逗留して何も考えず毎日ぼーっと温泉に入ってみて、自分がどうなるのか実験してみたいです。海外だと、大富豪とか貴族が療養目的で、さくっと2、3年温泉のあるリゾートに行っちゃう話、映画にあるよねえ。日本だと、病気がちの小説家、逃避行中の不倫男女(女はなぜか着物姿)が人目を逃れてやってくるイメージ。じゃあ、女ひとりが長期滞在なら、「あの女の人、何なんやろか」「自殺でもせえへんやろか」「どこぞのこれ(と小指を立てて)とちゃうか」「そのわりには歳くっとるで」なんて宿の仲居の噂になったりするのかしら・・・。憧れちゃうな〜、そういうの。
・・・なーんて願望やら想像は結局それだけで。現実は、やはり温泉と食い気。来月、女4人で行く一泊二日の食事つき日光温泉の旅、今から「チーズケーキが美味しい店、あるみたい」「きゃ〜、そこ行こう!」て盛り上がってる、ていうのが私の身の丈に合ってるんだろうな〜。ちぇ。

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※「シネマックスモナムール」(全12回)は、2001年に葛城さんに連載していただいた、熱く濃ゆ〜い、日本映画コラムです。読みたい方は下記バナ−をクリックして、ご覧ください。


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