夢の城

― 登場人物 ―


桜の里(七)
― 5. ―

主要登場人物

藤野(ふじの)美那(みな)
 玉井の市場町に住む少女。十六歳(数え年、他の登場人物も同じ)。事情があって、市場の老舗の葛餅屋「藤野屋」に預けられ、育てられている。徳政(債権放棄令)に名を借りた柿原党の策略から同門の銭屋の元資(もとすけ)を救うために、浅梨治繁の門下の兄弟子の隆文と、銭屋で働く娘さわといっしょに、牧野郷に借銭の取り立てに来ている[何をなすべきか(二)]。二人の仲間とともに牧野郷の米の隠し倉「義倉」を焼いたという嫌疑をかけられている[桜の里(七)4.]。「広沢の美那」とは別人(少なくとも自分ではそう言っている)[桜の里(六)2.]
安総(あんそう)(安総尼)
 川上村の村長木工(もく)国盛(くにもり)の娘。俗名はお(ふさ)。丸顔で目のぱっちりした若い娘。出家して尼になり、川中村の明徳教寺に住む中橋渉江(しょうこう)に仕え、学んでいるらしい。なお、「寄合衆」(大人)はそれぞれの家を代表する男性だけなので、安総は寄合衆には入らない。
中橋渉江(しょうこう)
 川中村に住む儒者。僧侶ではないようだが、明徳教寺の住職役を務め、寺に住みこんでいる。牧野・森沢二郷の人びとの信望が厚く、そのまとめ役を務めている。安総尼(あんそうに)の師匠でもある。現在、義倉焼失事件を受けて開かれている臨時の寄合の議長を担当している[桜の里(七)4.]
村西兵庫助(ひょうごのすけ)
大木戸九兵衛(くへえ)
井田小多右衛門(こだえもん)
 牧野郷川上村の村人で、牧野・森沢二郷には数少ない柿原党の支持者。村の有力者ではあるが、町の銭屋からの借銭が多いため、その取り立てを回避するために町の銭屋とライバル関係にある柿原党と結んだらしい。兵庫助がリーダー格。川上村の人びとに嫌われている「広沢三家」の生活を支えるために力になってくれていたようだが[桜の里(三)5.]、範大の求めに応じて広沢の上の家の(まり)を連れてきたのもこの連中である[桜の里(三)3.]
長野雅一郎(まさいちろう)雅継(まさつぐ)、中原村の地侍(じざむらい)
 中原郷中原村の地侍(零細地主 兼 武士)。郷名主の中原克富(かつとみ)の命をうけ、村西兵庫助らの企てに助力するために、克富の一子範大(のりひろ)とともに派遣されてきた[桜の里(二)上]。村西兵庫助に誘われて柿原党の一員となったらしい。町の銭屋の取り立てを妨害するための工作を進めている。範大に相談しないまま、村西兵庫助と義倉に放火する相談をしていた[桜の里(六)1.]。藤野の美那とは、中原村の川で水を汲む権利をめぐって争ったことがある[春の朝]
(まり)、広沢の上の家の毬
 「広沢三家」のうち上の家に属する女の子。範大に召し出されたあと、いっしょに暮らしている中の家の葛太郎(かつたろう)に救出され、義倉に身を潜めていた[桜の里(三)4.]。義倉に放火されたときに危うく脱出に成功していた[桜の里(六)5.]
鍋屋の隆文(たかふみ)上総掾(かずさのじょう)
 市場の鍋屋で働いている。美那や元資とともに浅梨治繁に剣を習っており、現在の弟子のなかでは一番上である。藤野の美那とは意地を張り合うことが多い。現在は銭屋の使者三人のリーダー格になっている。村に来ていきなり「上総掾」と名のりだした[桜の里(六)3.]
(銭屋の)さわ
 市場の娘。市場の銭屋で働いている。駒鳥屋のあざみ、宿屋のさと、鋳物屋のみやなどと友だち。藤野の美那、鍋屋の隆文といっしょに借銭の取り立てに来た。おとなしくて控えめだと思っていたら、意外とマイペースな性格で、もしかすると凶暴?[桜の里(六)2.]。みみず採りが得意など奇妙な特技もあり[桜の里(四)下]、どことなく謎を残した少女。
柿原の小者たち
 実際には中原村から中原範大と長野雅一郎に従って来た小者(従者)たち。
中原範大(のりひろ)安芸守(あきのかみ)十郎丸(じゅうろうまる)(幼名)、若侍
 中原村の郷名主中原克富(かつとみ)の一人息子。克富は範大がこの名をもらったのが自慢で、その名を強調するためにゆっくりめに(傍から聞くと間延びさせて)発音していた。毬がその名を「のりいひろお」と聞いたのは、その言いかたが範大にもうつっていたからだろう。克富の命で雅一郎とともに牧野郷に派遣されていたが、往路に乗っていた馬から落ちたのをきっかけに自信喪失状態に陥った[桜の里(二)下]。さらに、その夜、夜の相手に村西家で働いていた広沢の下の家のふくを指名したが[桜の里(三)2.]、連れてこられたのが幼い毬だったうえに、眠りこんだすきに毬に逃げられてしまい[桜の里(三)4.]、さらに面目を失った。しかも、その件で怒り狂った範大を鎮めるために長野雅一郎が範大に嫌疑がかかっていると言ったことで、周囲に対して極度に疑り深くなっていたらしい[桜の里(四)上]。前夜、雅一郎が範大に知らせずに村西兵庫助らと何か謀りごとを進めたことに気づき、猜疑心とストレスが限界に達していたようだ[桜の里(七)3.]
川上国盛(くにもり)木工(もく)
 川上村の村長。安総尼の父親でもある。「牧野の乱」(義挙)に参加した[桜の里(四)下]
関所番の男
 川中村で関所番をしていた男で、朗らかそうだががんこな性格をしている[桜の里(五)1.]。名まえはわからない。
森沢荒之助(あらのすけ)
 牧野興治の甥、森沢の郷名主だった森沢為順(ためより)の遺子[系図]。どうやら為順の死以来引き籠もっていたらしく[桜の里(六)5.]、そのとき以来、村の人たちの前から姿を消していたようだ。しかし武芸の腕は確かである。前夜、義倉放火事件のあった時間帯に、町の銭屋の使者三人と会っていた[桜の里(六)5.]

話題としてのみ登場する人物

春野定範(さだのり)越後守(えちごのかみ)
 玉井三郡の守護代(守護大名)[系図]。中原克富・範大父子の主君にあたる。「牧野の乱」事件の経緯から牧野・森沢二郷では嫌われている。
葛太郎(かつたろう)、広沢の中の家の葛太郎
 毬といっしょに暮らしてきた。連れ去られた毬を村西兵庫助の屋敷から救出した[桜の里(三)4.]
「おかみさん」
 藤野屋の薫。藤野の美那の養母。美那は自分を養ってくれていることには感謝しているが、薫に「意見」される(=叱られる)のを何よりも恐れているらしい。
治部(じぶ)様、牧野興治(おきはる)、治部大輔(たいゆう)
 牧野郷の郷名主であり、玉井春野家(玉井三郡の守護大名の家)初代の春野正興(まさおき)の三郡平定をたすけたが、春野家の跡継ぎ争いをめぐって「牧野の乱」と呼ばれる反乱事件を起こして捕らえられ、処刑された。牧野郷・森沢郷の人たちにはいまでも慕われている。その館は「牧野の乱」平定後に焼失した(守護代春野定範(さだのり)の命によるとも、村人が広沢の上の家の者たちを恨んで焼き討ちしたともいう)[桜の里(六)4.]。問題の「義倉」はその焼け残った地下に造られていた。
範大の父
 中原克富(かつとみ)。どうやら過剰に尊大ぶる癖があるらしい[桜の里(二)上]。範大を溺愛し、範大が守護代春野定範に元服させてもらったことを自慢にしている。
柿原忠佑(ただすけ)大和守(やまとのかみ)
 守護代春野定範の正妻の父で、「柿原党」の総帥。定範政権の実力者である。
柿原範忠(のりただ)主計頭(かずえのかみ)
 忠佑の息子[系図]
浅梨治繁(はるしげ)左兵衛尉(さひょうえのじょう)
 藤野の美那や隆文の剣術の師匠。
長野雅一郎の妻
 たみという名である[桜の里(二)上][桜の里(七)1.]
判官(はんがん)
 森沢為順(ためより)。荒之助の父、牧野興治の妹の夫[系図]。「牧野の乱」の決起に参加し、すでに亡くなっている[桜の里(六)4.]
勝吉、木美、美那、広沢の上の家の〜
 「広沢の上の家」の一家。「牧野の乱」事件のときに、敵に通じていると疑われて殺され、その後、広沢の美那も行方不明になった[桜の里(六)4.]。広沢の美那は藤野の美那とは別人(と藤野の美那は主張している)。毬は勝吉と木美の娘、広沢の美那の妹[系図]

玉井春野家関係者等の系図

玉井春野家(三郡守護代家)と柿原家

正興─────┬正勝────────┬那世
 民部大輔  │ 民部大輔     │ 姉姫、深雪の方
 玉井春野家 │ 玉井春野家    │
 初代    │ 第二代      ├正稔
       │          │ 民部少輔、幼名:信千代丸
       │          │
       └定範        └美那
         越後守        妹姫
         現在の三郡守護代
         ‖
         ‖
柿原忠佑───┬田山の方
 大和守   │ (定範の正妻)
 竹井郡代官 │
 柿原郷名主 └柿原範忠
 柿原党総帥   主計頭
         竹井代官代

牧野家(牧野郷名主)と森沢家(森沢郷名主)

┌牧野興治─────芹丸
│ 治部大輔
│ 治部様
│ 牧野郷名主

└興治の妹
  ‖───────森沢荒之助
 森沢為順
  判官
  森沢郷名主

桧山家(港の名主)

 桧山興孝─────桃丸(幼名)
  織部正
  港の名主

杉山家(定範政権評定衆)

 杉山信惟─────宣十郎
  左馬允

浅梨家

 浅梨治繁     鍋屋の隆文
  左兵衛尉    藤野の美那
          銭屋の元資
          車屋の丈治 らの剣術の師匠

柴山家(巣山郡代官)

 柴山時豊─────興豊────┬勝豊────────弥勒丸
  兵部大輔     兵部大輔 │ 兵部大輔      勝豊の幼い遺子
  巣山郡代官    巣山郡代官│ 巣山郡代官
                │ 狩猟中に事故死
                │
                └康豊
                  兵部少輔
                  巣山郡代官

中原家(中原郷中原村、中原郷名主家)

 中原吉継────┬茂
  令史     │ 吉継の長女
  中原郷名主  │ ‖────────中原範大
  中原村在住  │中原克富       安芸守
         │ 造酒        幼名:十郎丸
         │ 現在の中原郷名主
         │ 町の酒屋出身
         │
         └宣
           吉継の次女
           ‖────────立岡拓実
          立岡拓実の父     府生

広沢三家(牧野郷川上村)

 広沢勝吉
  広沢の上の家
  ‖──────┬美那
 木美      │ 広沢の美那
         │
         └毬
           広沢の中の家で
           育てられている

 加恵──────┬葛太郎(葛太)
  広沢の中の家 │
         └繭

 祖母…………………ふく
           広沢の下の家
           村西家の美千に仕えている