第15回

3月号


『黄泉がえり』

 近況で死者に触れるからではないが『黄泉がえり』を見た。人に愛されて生きなさいという極めて教訓的な映画である。映画の中で多くの死者が黄泉がえる。もちろん映画で描かれるのはその何人かである。死者が突然、何年後かに死亡時のまま成長することもなく、キャラクターが変化する訳でもなく黄泉がえるのに、周囲の誰一人として、不信に思うこともなく、あたりまえのように、その上時間限定的に黄泉がえった死者とあたりまえのように生活する。ごく少数は黄泉がえった死者に対して、違和感を表明する人はいても、それは異端であって、多くの人は喜んで何の違和感もなく、生き返った人たちの生が継続していたかのように、溶けこんで生活しはじめる。映画を見る私は不思議である。しかし、それは、周囲の人が生き返って欲しいと思い、生き返って欲しい人だけが、生き返って欲しいフォルムで、生き返って欲しい人の側で黄泉がえることで、すべては予定調和である。かえって短期間黄泉がえったことで、悲しみが重層的になるのではないかという不安は、2度目の死が周到に用意されているので、映画を見る者にも違和感はない。


 映画が欲望の鏡とはよくぞ言ったものである。旧来は、ヒーローとか、白馬の王子様とか、ありきたりの欲望を映しつづけてきたスクリーンが、死者の招喚という夢を写す。私には黄泉がえって欲しい人はいないが、死者を招喚したい人にとっては、この映画はここちよい春の夢であり、黄泉がえった人の二度目の生が、限定三週間なので、三週間限定興行のはずが、今もロングランとは、生者を愛せない今の世相を反映していると思うのは、うがちすぎか。



●市井義久の近況● その15 3月

 またしても死者の話である。3月3日桃の節句、Yという人が亡くなった。44歳、はやすぎる死である。著名な人ではない。彼も仕事が映画であったので、昔から顔だけは知っていて、三池崇史の『天国からきた男たち』の製作宣伝をしていた時、私は一ヶ月、彼も一週間フィリッピンに滞在していて一緒に仕事をした。映画は永遠なのに、彼はもうすでに死者である。
 また、私がかって通学していた学校は、大学を除いてすべて建て替わってしまった。私がかって通った映画館は、名前はまだ残っているものもあるが、すべてなくなってしまった。父も亡く、生家も無人、人生も半ばをすぎれば、それはあたりまえのことである。
 温かくなった。春は一年前に体験した季節であるが、今年も体験できることが嬉しい。
 失なった多くのこととともに、新たに体験できた多くの事もある。私の周囲に新たに誕生する多くの生者が満ちることはなくとも、これからますます増えるであろう死者の一人一人を契機に、私はどうするのかを死者とともに考えてゆきたい。
 前にも書いたが、4月5日から公開する『鏡の女たち』は、生者ではなく死者、あるいは亡なわれたものたちに導かれて物語が進行する。生よりは死 私に残された数十年、映画のように、さけられない自他の死によって、生を導いてゆきたいと思う。桜の木の下には今でも死体が埋っているのか。(写真↓は『鏡の女たち』)



市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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