KimsCinematicKitchen
テキスト&フォト&イラスト by キム・パプコ

第15回3月号  ピアノのおけいこ

 春よ、早よ来〜い、という気持ちも手伝って、木の芽のうずく季節におけいこ事でも始めようかと思っているところですが、これがなかなか決まりません。お絵描き、お習字、と子供の頃は色々習い事をやったものですが、気がつけば長続きしたものってないのよね。中でも習ったと言えないのはピアノ。小学4年の頃、ピアノの先生をしていた叔母に習ったのですが、レッスンのあとに“おやつ”をもらうのがもっぱらの楽しみ。ただ、伯母の飼ってる猫(←その頃は大の苦手だった)がいつも近所の猫たち7〜8匹連れて部屋じゅうウロウロするので、それがめちゃくちゃ怖かったっけ、と、そんなことばかり覚えてるのでした。一体、バイエル終わったんだろうか??

 なんで、こんな話をしたかというと、ピアノにまつわる映画を2本観たとこなのです。1本は、アカデミー賞にノミネートされた『戦場のピアニスト』。この映画って、『海の上のピアニスト』ではないけど、戦場の真っ只中でひたすらピアノを引き続ける人、というイメージを勝手に思い描いていたのですが、ちょっと違いました。私のような誤解を避けるには、邦題を『戦場でもピアニスト?』あるいは『戦場のピアニストでいられたら』とでもしてもらわないといけません。主演のエイドリアン・ブロディは、いかにも繊細な音楽家という雰囲気をかもし出してて、なんにもしなくても「この人は本当はピアノを弾く人である」という趣きがあるんですよねー。不思議。それがキャスティングされた理由なんでしょか?ロマン・ポランスキー監督は自身もゲットー生活を経験した人であるわけなのですが、いや、だからこそ暴力的描写は意外なほどあっさり扱われていきます。ごくごく日常的な背景のよう。観ていて初めはヒヤッとするような残虐性を体感するものの、やがて、酷い、可哀想、などという感情すら通り越してしまうのでした。現実とは、ああいうものなのか…。
 さて、もう一つはフランス映画『ピアニスト』。実はあまりに周囲で不評だったので、気になって観たのです。『戦場の〜』を観たあとだったので、とりあえずピアノを弾く場面がたくさん出てきてホッとしました(笑)。内容は、年の差愛、屈折した愛、究極の愛など、どうとでも言われてるけど、この“愛”の形を理解できる人は確かに少ないでしょーとも。この映画に教訓があるとすれば、ストイックも度が過ぎると美学ではなくなる、ということなのかな。とにかく、ピアノ曲の美しさとは裏腹に、主人公の冷徹な個性が際立って怖かったー。そういう意味では、イザベラ・ユペールという配役は適切だったかも。カンヌで賞を獲得したのも、“最適の配役”という意味ではわかる気がしました。

 というわけで、 今回描いた絵は、"The Pianist"が『戦場のピアニスト』 (↑)で、エイドリアン・ブロディ、"La Pianiste"(←女性名詞ですね)は『ピアニスト』 (↓)で、スカートが先生のイザベラ・ユペール、弾いてるのが生徒のブノワ・マジメルのつもりです。 わかりづらい…?


『戦場のピアニスト』→http://www.pianist-movie.jp/pianist/index.html

『ピアニスト』→http://www.herald.co.jp/movies/pianist/

*『戦場のピアニスト』を味見してみたら・・・パンの耳を一口ずつ噛み締めたら、パン自体の美味しさがわかったみたい。お腹いっぱいにはならないけど、生きててよかった…。

●Kim's 近況

 区の健康診断というのを受けてきました。去年引っ越したばかりなので、こんなとき近所に良い病院を見つけておけば安心よね!と思って、すべての検査が実施できるというクリニックに早速予約を入れました。当日、診療室に入ると、中にはかなりのお年寄りカップルが。ん?すると、白い服を着たおじいちゃんが10cm位ずつ足を進めながら、私の方へ近寄って来るではありませんか。というか、なかなか近寄って来ないではありませんか(?!)…絶句。そう、それが先生、おばあちゃんが看護婦さんなのでした。検査はかなりのスローモーションで行われ、永遠に終わらないかと思いました(泣)。ワルイとこがあったら、きちんと解明されるのであろーか?とさすがに不安。今週、「異常なし」という結果をもらったのですが、なおさらカラダが心配な今日この頃です。


(レーコより)アカデミー賞はいよいよ来週(3月23日)ですが、『戦場のピアニスト』、どうなるでしょうか?『戦場の・・・』のロマン・ポランスキー監督といえば、『ローズマリーの赤ちゃん』と、シャロン・テイト事件を真っ先に思い出します。たぶん、『ローズマリー・・・』、『オーメン』、『キャリー』、『エクソシスト』、『サスペリア』って、私の12歳ぐらいまでの記憶の中の恐ろしい映画トップ5。もちろん、リアルタイムでは見られなくて、高校生ぐらいになってからテレビやビデオ、リバイバル館で見たんだけど、みんな恐かった(涙)。そういえば、私が今までに見たポランスキー作品の主人公たちって、みんな、ある出来事を境に運命が狂っていって、あがいてもあがいてもどうにもならない人たちばかりだった。で、なす術もなく悲惨な運命にのみ込まれていった・・・。キムさんの今月のエッセーを読んで、もしかしたらポランスキーのゲットーでの体験が関係してるのか、なんて思ってしまいました。

 地元の西宮で体験した震災のことを最近よく思い出します。直後は軽度のトラウマがあって、ちょっとした揺れを感じただけで、心臓がバクバクして冷や汗が出てたんだけど、ここ数年、自分ではかなり忘れていたつもりだった。東京の微震も平気になってたし。だけど、911のNYの街に、震災の日の朝の街の風景がフラッシュバックしてから、しょっちゅう思い出すようになった。あの朝、40数秒の間に、私「死ぬ」ていう現実をものすごく近くに感じたんです。私が記憶する限り生まれて初めて、「ああ、私、このまま死ぬんだな」て思った。言葉としてじゃなく、感覚として。
聞いたことのない大きな音が家中に溢れていて、真っ暗な家の中で自分の身体がまるでジェットコースターに乗ってるみたいに揺れてて、目が覚めて、本当に家が揺れてるんだってわかって、こんなに揺れたらあともうちょっとで床が割れるだろうって思って、自分の身体が崩れ落ちてゆくコンクリ−トと一緒に沈んでゆく感触が、もう、本当にすぐそこにあって、それで「死ぬんだ」って。まあ、結果的には助かったんだけど。
『戦場のピアニスト』ってどうなんだろ。見たいような見たくないような・・・。ビデオかな。

Kim's Cinematic Kitchen バックナンバー
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4月号「春一番」 5月号「5月です」 6月号「少林サッカー」
7月号「髪を切る人」 8月号「夏が来た!」 9月号「シネコン大好き」
10月号「秋の夕日に・・・♪」 11月号「厨房にて」 12月号「冬もいよいよ」
2003年1月号
「羊といえば・・・」
2月号
「猟奇的な季節!?」


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