甘い生活苦タイトル画
タイトル画:武川雅寛・白井良明(ムーンライダーズ)

 2003年4・5月 第15回

 春。アオアオ・ポカポカ・ムクムク、と世間一般的には、人生の門出に代表される、何かとポジなイメージだが、個人的には、あのモワーとした温風吹き荒れる嵐が苦手な上に、花粉症とのダブルパンチ。アホアホ・ボカボカ・シクシク、と非常に後ろ向きなネガな3ヶ月なのである。

 当然、仕事はこちらの体調など知ったことかで、容赦などしてくれない。本日は、月一度の大阪に行かなくてはならない日。が、こんな何をするにも真剣になれないときは、アカ抜けた景色が続く阪急より、住居の裏側に線路を引いた様な京阪に限る。

 車窓から見えるその裏側は、洗濯物からその家の家族構成。干された布団の柄から、家人の嗜好までが勝手に読み取れて、面白い。それら混沌とした光景のBGMは、なるべくスケールの大きい、サラ・ブライトマンあたりがいい。洗濯機の上にかかる、鳩よけの「目玉」なんて土着的にポイント高し。何か物干し台から、その家の生活を、覗かせてもらっている様な気がしてくる。「夕御飯」をキィーに、見ず知らずの家に土足で上がり込む、桂ヨネスケ師匠が身近に感じられる一瞬でもある。

 住宅街を過ぎると、景色がひらけた。青い空をバックに、淀川の土手が横一文字、緑の帯を続ける。丁度、車両が弧を描きながら、鉄橋にさしかかるのが見えた。あの鉄橋が崩れ、車両が順番に川へ落下すれば面白いだろうな。まるで、TVのスイッチを消すように、プチッとそんな死に方がいい。鼻炎の薬、セレスタミンが効いてきたのだろう、大胆な発想をしているのに気付く。「カサンドラクロス」、のびのびに間延びした、あの映画の主役は、リチャード・ハリスにソフィア・ローレンだったっけ?この上なく抜き差しならない、バタ臭い組み合わせである。我が国で言えば、小京都殺人シリーズ片平なぎさ・船越栄一郎あたりかな。いや、クオリティーなら、混浴露天風呂殺人シリーズ古谷一行・木の実ナナの方が、一枚上である。ガタン。車両が揺れ、同時に意識が遠退いた。

 窓の向こうには、ひっそりとした遊園地があった。よく見れば、観覧車なんかに人影が見える。さっき、車両事故が起こり、彼岸に着いたのかと思った。薬のせいでウトウト居眠ってしまったのだろう。目を開ければ、マイケル・ジャクソンの庭の様な、異様な景色が展開していたのである。案外、「あの世」なんてこんな所なのかもしれない。人影まばらな遊園地に、妙な説得力を感じてしまった。

 ビル、雑多な商業的な建物が多くなってきた。終点、大阪淀屋橋に近づいているのがわかる。看板のひとつに「ホステスさん急募」、とある。フロアレディーではなくて、あくまでもホステス。しかも、さん付け。一昔前の吉本新喜劇は、目の下にあるこんなピンサロ裏が舞台だった。そこに夜鳴きのうどん屋。いつかは岡八郎の様に、そんな屋台でコップ酒と思っていた。

 途切れたフィルムに映し出されたスクリーンさながら、車窓が暗転した。終点を前に地下へ入ったのである。窓に自身が映し出され、ドキッとした。消極的な毎日だが、そんなにやつれても見えなかった。ヨネスケ、ハリス、ソフィア、片平、船越、古谷、ナナ、マイケル、そして岡八。わずか50分の間に、何の脈絡もないこれらのキャラを連想させる、京阪はやはり捨てがたい。本日、これからの仕事に対し、アオアオ・ムクムク、と気分だけでもリフレッシュして挑んでいきたいと思った。


←古尾谷雅人が自ら散った。正直、そんなに意外性もなかった。ようやく、という感じがした。それは短絡的な行動でしか、自らの存在をアピールする事ができない破滅的なキャラを、一貫して演じきった故に感じるものであると思う。そんな古尾谷も、私の邦画ベストの中でも、いの一番が「ヒポクラテスたち」。彼が話すヘタな京都弁は忘れられない。より感傷深いものとなってしまった。

葛城より:フィリピンの女の子に「シャッチョー」と呼ばれる事はありましたが、この春、正式に「社長」に就任しました。



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※「シネマックスモナムール」(全12回)は、2001年に葛城さんに連載していただいた、熱く濃ゆ〜い、日本映画コラムです。読みたい方は下記バナ−をクリックして、ご覧ください。


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