第17回

5月号


『星に願いを。』

 この映画は、男が女に試食される時代の到来を告げたのかもしれない。スタートはのろい。回想満載なのだから、ファーストシーンは2度目の、被害者の過失による交通事故から始めるべきではないか。1本の映画の中でストーリーに密接にからんで交通事故が3回も描かれるのであるから、メリハリをつける意味でも、ファーストシーンからであると思う。富樫森の移動は続く、今回は市電と自転車、接近したり離れたりを乗り物が見せる。交通事故とは、もちろん乗り物が、あるいは乗り物同士が起す事故である。したがって、この3つの事故は密接に物語に関わる。時間軸的に最初の事故は、竹内結子と吉沢悠を出会わせ、2度目の事故で2人を引き離し、3度目で残された竹内結子が1人で生きる決心をする。『ごめん』に引き続き、乗り物が接近と離別を現す、この『星に願いを。』も同様である。


 女が男を試食する・・・。それは竹内と吉沢ではなく別のカップルである。2人は擬似はあっても肉体関係すら無かったのではないか。そのように、2人は生前、互いにマニフェストしないまま、関係が断ち切られてしまった。そこから始まる物語である。そこから吉沢は他人を装い、吉沢本人の心を竹内に発露する。その小道具が、真っ白の点字の日記であり、もどかしい愛の物語の小道具である。映画を見ている人の多くが、このようなもどかしい愛の物語を現実では綴っているのであろう。だからここシャンテ・シネでは涙目に満ちていた。もどかしさは、現実を支配する大きな要素であり、もどかしいことで『黄泉がえり』でも多くの死者が、そこでは時間限定的に本人として黄泉がえった。本人としてか、他人を装うかはともかく、これ以上無念の死(吉沢)、無念の生(竹内)に涙目にならないためにも、試食を。

 同じ日に見た阪本順治『ぼくんち』故相米慎二の新作のように見えてしかたがなかった。それも『光る女』のように見えた。それだけおもしろかった。いわゆる重喜劇。


●市井義久の近況● その17 5月

 4月26日(土)から5月5日(月)まで連続10連休のはずが、26、27、1、2、3と仕事になり3連休と2連休 ゴールデンが取れて普通の連休になってしまった。28から30までの3連休は、無人の実家へ帰り、ただひたすら木を切りまくる。無人なのだから雑草同様のび放題でいいじゃないかと思うが、否。草は種子が他の家へと飛ぶだけだが、木は具体的に他の家の敷地に影を落とし、葉を落とし、野菜、稲作の生育をさまたげる、だからわずか1日ではあったが、ひたすら桜を、柿を梅を切る。杉は残ってしまった。樅の木ではないので夏に切る。北国は寒い、昼は汗だくだくだが、夜はストーブに電気毛布、遠くの山々には雪も残る。

 4月5日(土)、2年間いっしょだった『鏡の女たち』が初日をむかえ、次の日からは、6月14日(土)公開『メラニーは行く!』だけになってしまった。運命の出会いから、はや20年メラニーはこうと決めたらつき進む。行くのではなく、たった1人で進軍する。それは自分自身の幸福のため、いや幸福になるであろうと思った、思いのためである。2年という長丁場ではないが、3月11日の完成披露試写から3ヶ月強、メラニー・カーマイケルという実在しないスクリーンの中しか存在しない女性と進軍である。しかし、映画のパブリシティは木を切るようにはゆかない。相手があって、競争相手がいて、映画はすでに出来上り、相手がその映画をどう思うかが、重要な要素にはなるが、何を切るかはさて置き、木々のように切りまくるか。写真は『メラニーは行く!』6月14日(土)より日劇3他で公開。


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市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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