KimsCinematicKitchen
テキスト&フォト&イラスト by キム・パプコ

第18回6月号  雨の日に六月の蛇を見たか?

 夏までが長く感じる季節。近所の垣根に顔を出したアジサイに、梅雨の近づきを感じます。ところで、カタツムリって最近見ないですよねー。一体どこにいるんだろ?毎月こんなこと書いてると、突然そんなこと気になってくるんですけど。だって、目に見える季節感って大切にしたいじゃないですか。こうして四季折々きちんと感じることが出来る時代も、21世紀が最後かも知れないし(まじで!)。

 そんなこと考えてたせいなのか、六月を目前にした大雨の日、こんな日にはコレ観なくちゃ!ってことで『六月の蛇』を観るために家を出ました(最近始めたアクアフィットネスも雨にめげてサボったクセに…)。その日私は、家にあった一番大きな傘をもって出かけたのですが、駅に向かう途中、なぜか頭や顔、傘を持つ手の甲にまでツツーと雨水がしたたっていることに気が付きました。いくら大雨とはいっても、はて?と思って見上げると、どうやら布製の傘の中心部あたりで防水量オーバーになったらしいんですよね(まあ古い傘ではあったのですが)。ザァザァ降りの真っ最中だったので、もう悲惨(泣)。髪も頬にぺったりと張り付いて、手も肘まで濡れていました。そういうわけで、私としては『六月の蛇』を観るにはなんとも理想的な状態で、劇場に着くことができたわけですね(負け惜しみ…)。いずれにしろ、そんな状況すらかなわないほどの雨が、この映画の中では降っているのですが。これでもかというほど痛烈に、自虐的に…というか、むしろすがすがしいくらいに。

 一見ごく平凡に見える一組の夫婦。でも、どこか不安定な関係。ぼんやり見え隠れする、そのわずかな二人の隙間につけいる一人の男。登場するのは、この3人。男性なら妻を演じる黒沢あすかの足に目がクギ付けでしょうが、私は神足裕司演じる潔癖症の夫から目が離せません。とりわけ、その額に跳ねる水滴から!そして、謎の男を演じる塚本晋也監督は、いつものゆで卵のように柔らかい表情はどこへやら、異様な負のエネルギーが発散され、ぞっとさせてくれます。うう、こわい。

 もしも晴れの日に観ていたら、気が滅入るような陰鬱さを必要以上に感じていたかも。でも少なくとも雨の日には、映画の外も中も同じ天気、ってだけで共有感のようなものが生まれてました。結局のところ現実と非現実、日常と非日常の境目なんて無いようなもので、登場人物と自分との距離などさしてなく、彼らの喪失感や行き場のない想いも無理なく感じとれる気がしたのです(かなりアブナイことですけど!)。やはり、大雨でなくてはいけなかったかも知れません。家を出たくないような、うっかりしてると雨水と一緒に自分も流されてしまいそうな日にこそ、観賞したい気がします。

 *『六月の蛇』を味見してみたら・・・感触は、どろりとした透明度皆無のベトナム・コーヒー。知らないで口にすれば苦味ばかりが舌にまとわりつき、なにげなく掻き回せば頭痛がしそうに濃厚な甘味が押し寄せます。最初は嫌悪感を感じても、その異質な刺激に、きっとまた飲みたくなってくるはず。

六月の蛇
http://www.asnakeofjune.com/

●Kim's 近況

 今月いっぱいで、いよいよ我が愛しの“渋谷東急文化会館”が閉館!物心ついたときに「目の前にあった」って言えるほど、物理的にも近い距離で育ったので寂しいですぅー。大体、地下の東急ストアで、ほぼ毎日母親と夕食の買い物してたんですから。五島プラネタリウムには、小学校の課外授業で行ったり、家族で行ったりしました。1Fのバターの匂いをぷんぷんさせてるユーハイムや、西村フルーツパーラーでデザート食べるのも楽しみだったなー。高校時代、3Fの資生堂ビューティーサルーンに(髪を切りに)通ったこともあります。屋上のフリーマーケットに、友人たちと参加したこともあったし。そして当然ながら、4つの映画館ではたくさんの映画を観ました。こうしてみると、よくぞお世話になったものです。ひたすら感謝、感謝…。

*渋谷東急文化会館・閉館イベント
http://www.tokyu-rec.co.jp/heikan/index.html

※なお、7月1日から渋谷エルミタージュがパンテオン系劇場となり、7月半ばからは渋谷クロスタワー(旧・東邦生命ビル)2Fにあるクロスタワーホールが“渋谷東急”となるそうです。劇場になりかわり、よろしくお願いいたしますー。


Kim's Cinematic Kitchen バックナンバー
1月号 2月号 3月号
4月号「春一番」 5月号「5月です」 6月号「少林サッカー」
7月号「髪を切る人」 8月号「夏が来た!」 9月号「シネコン大好き」
10月号「秋の夕日に・・・♪」 11月号「厨房にて」 12月号「冬もいよいよ」
2003年1月号
「羊といえば・・・」
2月号
「猟奇的な季節!?」
3月号
「ピアノのおけいこ」
4月号
「できれば僕をつかまえて」
5月号
「いつかあなたも六本人」


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