第20回

8月号


『ヴァイブレータ』

 監督廣木隆一 脚本荒井晴彦 主演寺島しのぶ 大森南朋で31才女性の心身症からの回復を描いている。主人公はフリーライター常に耳底から響いてくる不明の声に悩まされつづけている。不眠、過食、拒食、嘔吐、飲酒、喫煙、etc、そんな症状からなんとか逃げ出そうとはしているが、ストレスは溜まるばかりである。そんな折、近くのコンビニで、長距離トラックの運転手を見る。そしてそのトラックに同乗し、新潟へ向う。なぜついて行ったのか、それはその男が、今の日本には貴重な流れ者だったからである。フリーライターとは皮肉な命名である。フリーである訳はない。所属していないだけである。しかし男は定められた時間までに、定められた荷物を運べば、他は自由である。女を乗せたり、ウソを言ったり無線で交信したり、ラブホテルへはいったり、視界がひんぱんに変ったり、それらがはりついた皮膚に魅せられるようにして、フラリと女は運転台に乗った。運転席で男と同じ振動に身をまかせることで、男の無頼のハダをまさぐることで、男の4tを駆る腕につつまれることで、女のそれまでの存在と不可分の耳なりのような音が消えてゆく。女がまとうアンバランスな下着のような、アンバランスなそれまでの生活が消えてゆく。


 寺島しのぶ、大森南朋、トラックの運転台から見える風景、2人の会話、これだけの映画である。ラスト寺島しのぶが、大森南朋のかわりに4tを運転しているように、震動、バイブレーターに身をまかせて、ノイズを追い出した寺島は、これからは、今まで身につけていたアンバランスな下着のような、アンバランスな人生を、生きてゆくことはないであろう。

 公開は今秋、8月22日の湯布院映画祭の上映に先駆けて見た。いつもなら台詞が立つ荒井晴彦のシナリオであるが、等分に役者とともに見ることができた。ストレスを感じることなく生きている人などこの世に存在しない。その意味で現代人必見の映画である。



●市井義久の近況● その20 8月

 3年間続いたライスタウンカンパニーであったが、6月14日(土)初日の『メラニーは行く!』から2ヶ月、ばったりと仕事が来なくなった。6月公開の作品のオファーが他に3本もあったり、今秋公開作品のオファーが2本もあったりはしたのだが、はや2ヶ月ぱったりと仕事がない。7月は24日間私以外は夏休みにした。映画不況ではない。映画界は1960年代をピークに、ただひたすら不況だけを目ざして来た。それが40年も続いているのだから、今さらの不況感は無い。ならば当ライスタウンカンパニーに対する業界不評か。ここまで3年間で20本の映画を手がけて来た。映画は当たっても、当たらなくても、宣伝パブリシティだけの力ではない。しかし20本のうち、当たったのは『es』の単館興収8800万円だけとは、やはり業界内不評か。

 そうでもない。だとすると、今まで何ら営業することもなく、20本を受注したが、2ヶ月のブランクがあると、営業努力も今後は必要なのではないだろうか。立場が逆で、配給会社シネセゾンに在籍していた時は、宣伝会社に作品を委託していた。その基準は、その会社の社長が誰か、であった。とすると、作品が来ない今、悪いのは市井ということになってしまうのだが・・・。

1月1日から6月30日までの半年間、土、日は全部で52日あった。しかし休んだのは14日、なんと1/4である。それでは今年はこのまま休みにして、7月、8月はヨーロッパ並の夏休み2ヶ月の予定である。赤字が初年度のように500万円近く出てしまうが、1年交替の赤、黒、赤である。ということで6月25日 26日、池田敏春『ハサミ男』の撮影現場へと出かけた。映画の現場は、2001年10月、東北沢綿谷邸吉田喜重『鏡の女たち』以来である。池田敏春の現場は1988年『死霊の罠』以来15年ぶりである。池田敏春は、1980年『スケバンマフィア 肉刑 リンチ』でデビューして以来、この作品が23年間で、13本目の映画である。

 映画の現場とは時間を映す場である。それは出口、映画館も同じである。無時間の時間空間、それが現場である。スタート時間は決っていても、いつはてるとも知れぬ撮影、初号を見るまでは、フィルムにひそむ正確な時間を確認することはできない。映画の中の時間にリアリティは無い。他の職業では、時間はすべての仕事の物差しに近く、職務は進行してゆくが、映画の現場では、時間は他の現象によって映し撮られるだけである。他の現象とは、光、メイク、セット、役者、etc。映画の現場では、睡眠、入浴は移動を要するが、他のいっさい、食事、トイレ、おやつ、などすべては映画の現場であり、開始時間は決っていても、終了時間が不明だからではないが、時間が流れているという感覚は、すべてがフィルムに吸い取られてしまったかのようで、無い。無時間性、それが映画の現場の最大の魅力である。『ハサミ男』は来年公開。



市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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