第24回

2月号

  近況に第25回ヨコハマ映画祭を書いたので、そのパンフレット用に書いた原稿を転用させていただく。

 『ヴァイブレータ』
荒井晴彦 天使のシナリオ


 『ヴァイブレータ』の原作者、赤坂真理は寺島しのぶの起用を「都市伝説」と呼んだが『ヴァイブレータ』と私も奇妙な関係が続く。私が26年間通い続けている湯布院映画祭で、去年の8月この映画は上映された。そして私が20年以上審査員をしているヨコハマ映画祭で2月1日に上映される。まして脚本は荒井晴彦である。記憶は定かではない。その当時「月刊シナリオ」の編集者であった高嶋弘さんにたのんで、新宿中村屋の2Fで会ったのが最初であったと思う。1977年『新宿乱れ街 いくまで待って』を見て、その台詞と構成に感心して話を聞いてみたいと思った。そのシナリオはまるでやくざ映画のように起承転結の世界であり、そのシナリオの中には、今でもおぼえている台詞もある。その後荒井さんの映画を見続けるとともに、96年、1年間だけ彼が編集長を務める「映画芸術」の副編集長として4冊発行した。『ヴァイブレータ』との関わりは、荒井さんのすすめで、この映画のプロデューサーである森重晃さんと配給の李鳳宇さんに会いに行ったところからスタートする。

  この映画の魅力は大森南朋演じる岡部希寿という人間をつくり出したのが、成功の一因である。いわば存在の早川玲に対して、不在の岡部、貴種流離譚として2人はトラックに同乗し、岡部は貴種として又流離する。本来不在なはずの岡部希寿をスクリーンに存在させたこと、それはこの映画に関わった最後のスタッフとも言える観客を含め、全ての人の想像の力である。台詞が立つ訳でもない、起承転結が骨格のように気になる訳でもない。出会いと別れの間の、無線の声と、ラブホテルと食堂、その3つが互いの心の距離を縮め、早川玲のように見る者もいいものになった気がする。誰かではなく1つ1つに、1人1人に、評価を与えたい。だから第25回ヨコハマ映画祭5部門独占である。そこまでの域に荒井晴彦が到達した。カメラがいいが、決して作品の評価ではないように、『ヴァイブレータ』は多くの人が映画として評価している。

 この映画からは思いがけないことが起る。結婚、暴露本?相愛?受賞。結婚以外は、この映画が、観客に向けて送り出す以前は決まっていなかったことである。それが、まるで悪魔いや天使のシナリオのように、虚実いりまじって報道されている。それが荒井晴彦のシナリオがもたらした相乗作用であるとしたら、やけに味なシナリオではないか。


●市井義久の近況● その24 2月

  私にとっての映画祭は、湯布院映画祭とともにヨコハマ映画祭である。今年は25回、昨年宣伝した『ヴァイブレータ』が作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、助演男優賞の5部門受賞に輝いた。開催日は2月1日。会場は最初の頃は京浜映画劇場(当然今はもう存在しない映画館である)次は、桜木町の神奈川県民ホールそして最近は関内の関内ホールに落ち着いている。最初の頃は客として、1984年の第6回目、池田敏春監督作品『人魚伝説』のシンポジウムの司会を担当したのをきっかけにその後は20年近くベストテンの選者として参加しつづけている。『人魚伝説』、この映画は1979年曽根中生監督作品『天使のはらわた 赤い教室』とともに、大げさに言えば、私の運命を変えた映画である。ちなみに『天使〜』は第1回ヨコハマ映画祭ベストスリー、『人魚伝説』は第6回のベストフォーである。私の好きな映画を同じように評価する“ヨコハマ”は嬉しかった。だから1984年のその日は、そのままヨコハマグランドホテル(その頃は旧館しか存在しない)に1人で泊まり、翌朝、窓から海を見ながら、陽水の「たそがれハーバーライト」を歌っていた。同時に“はるかなはるかな水平線の向うへ行く時は船の旅がいい”なと思った。根岸の奇珍へ行ったのも山手のリキシャルームへ行ったのも東神奈川のベイサイドクラブへ行ったのも、すべてヨコハマ映画祭の帰りである。毎年、暮れから正月にかけて、種々の媒体のベストテン、各賞が発表されるが、ヨコハマ映画祭のそれが、私にとっては最も近い。だから私のもう1つの映画祭はヨコハマ映画祭である。湯布院とともに共通するのは、何人かの主催者の、開催しつづける気概が伝わる。だから私にとっての映画祭は湯布院とヨコハマ、その両方で『ヴァイブレータ』が上映された。

  『天使のはらわた 赤い教室』私はこの映画で男と女の永遠に交わることのない思いを見た。そして『人魚伝説』私はこの映画で女性は信じるに足ると確信した。



市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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