KimsCinematicKitchen
テキスト&フォト&イラスト by キム・パプコ

第22回10月号  秋の山形〜女囚たちの映画ざんまい



 さてさて、2年ぶりに山形の地を踏んできました。ご承知のとおり、目的は「山形国際ドキュメンタリー映画祭」です。ややのんびりめの3泊4日。なのに今回は、到着するなり温泉へ直行!と、かなり勢いづいてました。とはいえ、なぜかスーパー銭湯“テルメ”を“テルサ”と思い込んだ運転手さんにタクシー降ろされたり、次のタクシーに乗り込めば今度は“テルメ”よりお勧めという運転手さん行きつけの温泉(“八百坊”)へ連れてかれたり、とボヘミアンな成り行き。これが地元の人しか来ないよーな、なんとも雰囲気のよい岩風呂の温泉だったんですけどね。日も暮れぬうちからポカポカに温まった体を抱えて宿に帰ると、旅館のひなびた六畳部屋に分厚い蒲団をずらりと並べ、女囚の群れ(注:下記「レーコより」参照)は、まずは昼寝を決め込んだのでした。まったくもって先が思いやられる旅の始まり…。ただし、その後しっかり映画も観ましたよ。その証拠に、私が観た9本の映画の中から特に印象的だった作品を紹介します!



『ラジオ体操の時間』
(2003、日本、D/能瀬大助)

映画祭期間中、ミューズという劇場で初回上映前に流された短編作品。スクリーンでは、とある公園へと人々がそぞろ集まり…そう、“あた〜らし〜いあ〜さがきた♪”という「ラジオ体操の歌」から始まりフルコースで、映像に映る彼らと一緒にラジオ体操ができるのです。ベンチで一人へんな首の回し方するおじちゃんにつられて、大間違いの体操しそーになっちゃったり、撮影もイイとこ狙ってます。劇場入り口ではスタンプカードまで配られ、 隠れラジオ体操ファンの私としてはこたえられまっせんでした!DVD化されたら(されるか?)、絶対買う!


『純粋なるもの』"Purity"
(2002、イスラエル、D/アナット・ズリア)

ユダヤ人女性である監督は自らの姿も撮影しつつ、切っても切れないユダヤ教の戒律と、その厳しさゆえに現代人の生活と相容れなくなった矛盾を明らかにする作品。ユダヤ教では、夫婦であってもお互い手に触れ合ってもいけない期間があり、女性はミクヴェと呼ばれる浴槽で身を清めなければなりません。一方で、その戒律のために子供を授かることができない夫婦や、伝統的なシステムに耐えきれず離婚する女性が存在する事実。カメラの前の女性たちが、その葛藤を率直に語る潔さに拍手したくなってきます。ベニファー夫妻にも、ぜひ見せてあげたい一品。
*インターナショナル・コンペティション・特別賞および市民賞受賞


『雑菜記』"Hard Good Life"
(2003、台湾、D/許彗如=シュウ・ホイルー)

女子大生である監督は、一人暮らしの実父の日常風景を撮影することにより、父と娘の微妙な距離感を容赦なく映し出します。カメラの前では、まるで娘など存在しないかのように、一人、料理を作り、足の爪を切り、ひたすら寡黙な父。ナレーションも何もないプリミティブな作りには少々とまどいを覚えるのですが、父の飼う犬と、娘の飼う犬がじゃれあって遊びに夢中になる様子に、ほのかに家族の形が見えてきたりして。なにかと無頓着な父の足元に、無邪気にまとわりつく子犬たちの必死ぶりが可笑しく、結果的になぜか犬たちに癒されてしまった映画。
*アジア千波万波・奨励賞授賞


『スティーヴィ』"Stevie"
(2002、米、D/スティーブ・ジェイムス)

大学時代のボランティア活動で、スティーヴィという問題児を“お兄さん”として世話した経験がある監督は、大人になったスティーヴィに再会を試み、彼の周囲の人々も撮影することに。しかし、その撮影を進めるうち、スティーヴィは重罪に問われることになり、事態は深刻化。せっかく引き寄せたかに見えた家族の絆もほつれたり、からまったり。スティーブン・キング似の“スティーヴィ”は、一見人なつっこい青年に見えるので、監督の手のとどかないところで問題を引き起こしていく過程がなんともやるせない。それに引き換え、スティーヴィのガールフレンドのひたむきさがすばらしー!なぜだ?柳下毅一郎氏や三留まゆみ女史も山形まで観に来ていた、必見の問題作!?
*インターナショナル・コンペティション山形市長賞(最優秀賞)受賞




大城美佐子・島唄ライブ

今回の映画祭の目玉、沖縄特集の関連企画。このライブは、 ホッとするよーな息ぬきの場を作ってくれました。 タクシーのおじさんに間違えられた“山形テルサ”とは、 ライブ会場となったホールのある建物。 温泉じゃないですー。 欲をいえば小さなライブハウスで聴きたかった気もしましたが… (無いものねだり)。大城美佐子さんの唄声は南国の風を伝えて心地よく、 おじいちゃんも子供も踊り出す山形の夜でありました。


 山形市って、実は人口25万人に18館も映画館があるそうで、映画の町なんですよねー。映画祭も回を重ねるごとに好評を得て、第8回となる今年は902本もの作品が集まったそうです。その中から厳選されたドキュメンタリー作品を観ることが出来たわけで、なるほどけしてマニアックに片寄ることがないはずですね。私が初めて映画祭に行ったのは4年前。3回目の参加となると街の風景も見慣れたもので、中心街への道も鼻歌まじり♪に歩けてしまうのが、なんか嬉しい。そんな町があるっていいですねー。

八百坊温泉→http://www.kawadayakkyoku.com/onsen/index2.htm


●レーコより●

「女囚たち」の説明をいたします。
山形へは、私ももちろん行きましたよ!最終日に、急性胃炎で山形の病院に駆け込み、点滴打ちながら半日唸ってたのを除けば、映画観て、温泉入って、ライブで盛り上がって、さらに友達と映画の話で盛り上がって、おいしいご飯食べて、誕生日も祝ってもらって・・・という楽しいことばかりの旅でした。あ、女囚ね、女囚。この言葉の名付け親は、「読本十人十色」の第7回「ドラッグのすすめ」を書いていただいたイロミさん。名付けられたのは、キムさん、私を含む山形旅行参加女性4人(女囚たち)。大阪から山形映画祭に参加し、市内のウィークリーマンションで優雅に映画三昧の日々を過ごすイロミさんに対し、東京から参加してる私たち4人組は、民宿の六畳間。4人分の布団を敷くと、そこに荷物を置くスペースはもはやない、というギュウギュウ状態。山形でばったり会ったイロミさん(彼女と私はいつもばったり会うのです)に私たちの部屋の話をしたところ、イロミさん、大笑いした後「これからあなた達を『女囚』と呼ばせてもらいますっ!」と一言。おかげで、映画祭中、イロミさんからの携帯メールのタイトルは「女囚たちへ。●●は観ますか??」「女囚たちへ。●●の追加上映決定!」などになっておりました・・・・。次回(2005年)は、どうなるかなあ?なんて、すでに再来年が待ち遠しいのでした。
1999年、2001年の映画祭レポートはこちら!


Kim's Cinematic Kitchen バックナンバー
1月号 2月号 3月号
4月号「春一番」 5月号「5月です」 6月号「少林サッカー」
7月号「髪を切る人」 8月号「夏が来た!」 9月号「シネコン大好き」
10月号「秋の夕日に・・・♪」 11月号「厨房にて」 12月号「冬もいよいよ」
2003年1月号
「羊といえば・・・」
2月号
「猟奇的な季節!?」
3月号
「ピアノのおけいこ」
4月号
「できれば僕をつかまえて」
5月号
「いつかあなたも六本人」
6月号
「雨の日に六月の蛇を見たか?」
7月号
「CANDYアイ・ラブ・ユー」
8月号
「8月の風に吹かれたい!」
9月号
「762平方キロメートルのギャラリー」



TOP&LINKS | 甘い生活苦 | Kim's Cinematic Kitchen | シネマ ファシスト | wann tongue | 読本 十人十色 | 映画館ウロウロ話 | 映画館イロイロ話 | GO!GO!映画館 | CAFE | BBS | ABOUT ME