甘い生活苦タイトル画
タイトル画:武川雅寛・白井良明(ムーンライダーズ)

 2007年9月 第27回「斎場御嶽」

 以前訪れたバリ島で、旅の開放感から、マジックマッシュルームをテイスティングした時の事。ぬるーいホテルの密室。今から思うと「いけない事をしてる」、という強迫観念が、こんな幻影を見させたのかもしれない。

目を閉じると、意識はあるのに夢をみている、あの眠る直前の状態。うっすらとした、闇の世界を、独り漂っていた。足元はるか下方に何か気配を感じ、
目を凝らしてみる。深海の闇とはまた別の黒色をした、巨大な鯨が海底にじっと横たわっていた。

 その鯨にどうのこうのというよりも、無限に拡がる闇の中、巨大なモノとちっぽけな私の対比。
 今までこれといって、何の足跡も残していない自分自身を、あたまから否定されている様で、耐え難い虚無感が襲ってきたのを、いまだによく憶えている。

 その時と似た感じを受けたのが、今回沖縄で訪れた斎場御嶽だった。
 斎場御嶽、さいばおんたけ・・・ではない。せーふぁうたき、と読む。琉球王国時代、最高の聖地であり、数ある拝所の中、シンボライズな三庫理(さんぐーい)は、太古の地殻変動により生じたものであり、巨大な岩山に、ぽっかり三角形の洞穴が開いた状態をみせる。
 その天井高く、鋭利な洞穴を抜けると、エメラルドの太平洋に浮かぶ、久高島を眺める事ができる。この久高島も神が降臨した、という伝説残る離島である。


 とりたてて霊感がある訳でもない。しかしあの巨鯨と、三庫理をだぶらせ、固まっている私の横で歓声あげる、団体客の様には楽しめなかった。やはり虚無感を感じていた。ここはかつて、最高神女の聞得大君(きこえおおきみ)が巡拝された事でも知られる。そんな三庫理に対し、どこか女性的な印象を受ける。
 洞穴も産道と連想できなくもない。併せて、鯨をキーワードに調べてみる。すると、夢にみる鯨は、生命の源、自然であったり、海であったり、母なるものを象徴するものであるらしい。つまり女性と捉えられなくもない、という事。点と点が線につながった瞬間である。

 野坂昭如先生いわく、男と女の間には暗くて深い川がある・・・、らしい。私の場合、巨鯨、三庫理を前にしての動揺は、決して交わり安心する事のない、異性に対して抱く男性特有の、潜在的な不安なのかもしれない。

 レーコより:せーふぁうたき、こんな風に見えてたのかなあ、という写真を見つけました。この場所ってわりと最近まで男子禁制だったそうですよ。なので「女性的」「母性的」というキーワードにたどりついたのはごく自然なことだったのかもです。この原稿をもらう前日、和太鼓ミュージシャンの女性からアボリジニやサモアの原住民が今もそなえている不思議な力についての話を聞いていたので、「こういうのって続くなあ」と思ったのでした。

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※「シネマックスモナムール」(全12回)は、2001年に葛城さんに連載していただいた、熱く濃ゆ〜い、日本映画コラムです。読みたい方は下記バナ−をクリックして、ご覧ください。


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