甘い生活苦タイトル画
タイトル画:武川雅寛・白井良明(ムーンライダーズ)

 2009年1月 第31回 「そのひと」&第32回「走る男」

第31回「そのひと」

少し混み合った車内。吊革に掴まる私の前には、20代の女性が座っていた。そのひとは、若さ特有の美しさの中に、意志の強さをはっ きりと感じさせる。
車窓から風景を眺めていると、思いついたようにバッグの中をまさぐりだす姿が目に入る。そしておもむろに、白濁色のドロドロがはいったビ ニールパックを、取り出した。

インパクトにおいて他を圧倒、それまで私の中で燦然と輝く車内飲食のチャンピオンは、蓬莱の豚饅をかぶりつく年配の女性だった。豚饅臭を 漂わせ、むさぼりつくその姿は、「本能」という二文字がピッタリあてはまった。
が、しかし、最高記録は破られるためにある。それ以上不可解な光景が今、目の前で繰り広げられようとしている。

ビニール上部を切り開き、付属の醤油をドロドロに数滴たらす。プラスチックのスプーンでかき混ぜひとくちめ、そのひとが口へ運ぶ。終始リンとした態度は、崩さない。
見た目にドロドロの正体が、まったく分からないため、パックのラベルを凝視してみた。
「つ・ま・み・あ・げ・湯葉」。……。???。
何故?どうして?この歳になって、ものの道理は大概わかったつもりでいたが、まだまだ青いと思い知らされる。
そのひとは、醤油では物足りないのか、これも付属のわさびをドロドロの上にしぼり出す。
???でオーバーヒートしそうなアタマに、脳内ラジエーターがムリヤリ答をだしてくれる。

湯葉好きなのはわかるが、なぜつまみあげ湯葉?
*これだけ食の好みも多様化してくると、見た目・噛み応え・喉ごしにおいて、離乳食のあのカンジがやっぱり一番!という人がでてきても何 ら不思議ではない。おとなの離乳食ってことで思い浮かんだのが、このつまみあげ湯葉。

じゃなぜわざわざ車内で食べる必要が?
*インパクトを優先に、車内で食べる事によりつまみあげを認知させる。もちろんモデルは、湯葉を愛していることが必須条件。湯葉組合の、ゲリラかつ草の根的なPR企画。

気が付くと、まわりの乗客も皆注目していた。
愛は盲目とはよく言ったもんで、湯葉を愛するそのひとは、まわりの目はまったく見ず、最後のひとくちまで我が道を歩んでいた。


第32回「走る男」

スタートを5分後に控え、その時の曲は何にしようか考えていた。
やはり、走りながら聴いてるとドーパミンと絡まり、地球を何とかせねばと、とてつもなく気持ちが大きくなる、アース・ウィンド&ファイヤー「黙示録」だろうか。プレイを押すと力強いイントロが始まる。否応なくそのグルーブに、気分が高揚してくるのがわかる。
右足ひざのテーピングを締め直す。
ここ沖縄南城市のハーフマラソンは、歴史はそう長くはないものの、市を挙げての取組みから今では、県を代表する大会となった。沖縄に対する憧れから、ハーフデビューするならこの大会と、1年前から決めていた。単身でのりこみ、今まさにそれが叶おうとしている。
南国特有の陽気さからか、仮装ランナーも目立つ。私の前には、やけに体が貧弱なピカチューがいた。
でも…、やはり地元のもの。音楽から元気をもらう点では、喜納昌吉とチャンプルーズ「ブラッド・ライン」に決まりかな。
スタートまで2分を切る。
締め具合が気になり、さらにテープを強く締める。
腱力にターボがかかる、というところでは2曲目「ブレーメン」の間奏、あれに勝るものなし。京都人だもの、くるり「ワルツを踊れ」だろう。あらためてプレイを押し直す。
スタートと同時に曇った上空に向け、花火があがった。総勢7000人以上のランナーがゆっくり動き出し、ゲートをくぐる。
結局その時流れていたのは、SAKEROCKだった…。

走りながらあの頭から水をかぶるポーズがしたくて、冷水をおもいっきり顔面にかけると、メガネをしたままだった…。
突然のスコールによって、ウォークマンはつぶれヘッドホーンはただの耳栓となった…。 その雨によりテーピングは外れ、ペタペタと膝うらから尻尾が生えた状態に…。
雨を含んだパンツは重みにより、いくら上げてもずれてきた…。
スタートしてから60分たたないうちに、マラソンに抱いていた淡い理想は早くも崩壊してしまう。

2時間20分。
目標としていた2時間を切ることはできなかった。
ゴール会場を後にして、完走者だけに贈られるメダルを胸に、ひとり宿へ歩いていた。ゴールの手前ではまだ制限時間と戦うランナーたちが、形相を変え最後の力をふりしぼっている。「あと少し…。」心の中で彼らにエールを送る。
その一群の中、存在感ある大きなアタマと体が細すぎるあのピカチューをみつけた。アンバランスな風体のため、すぐそれとわかった。両手でアタマをおさえながら、ヨレヨレに蛇行していた。
「強雨に打たれこの蒸し暑い中、本当にごくろうさん。」中身がアスリートタレント森脇健児だったら面白いのに…と思った。本当に入っていて欲しいと思った。

 レーコより:かつらぎさん、あけましておめでとうございます。湯葉を食べる人は京都の電車で目撃?京都らしいってことやろか。次は何ですかね。湯豆腐???
私は米原駅で、立ち食いうどん屋からうつわごと電車に乗り込み、湯気の立つうどんを食べてるおっちゃんを見たことがあります。座り食いうどんやん。しばらくしたらうどん屋のおばちゃんが電車に乗ってきて「(うつわ)かえしや!」と叱りつけてました。「返すがな、返すがな」とあわてるおっちゃん。そうです、米原駅は始発駅なので電車が止まってる時間が長いので、うどんも食べれる。18きっぷを乗り継いで東京から帰省する途中だったので、このやり取り見て関西を感じました「戻ってきた〜」て。あれですね、電車の中で普通のうどん食べてるの見ると「つゆが〜!(こぼれる)」ていうのが相当気になります。

マラソンすごい!学生時代を思い出すと余計にそう思うのであります。今年もチャレンジ?私も何かチャレンジせんとな〜こう、身体を動かすことで。写真、関東の方見てね〜こういうメニューがあるんですよ、ほんまに。

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※「シネマックスモナムール」(全12回)は、2001年に葛城さんに連載していただいた、熱く濃ゆ〜い、日本映画コラムです。読みたい方は下記バナ−をクリックして、ご覧ください。


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