KimsCinematicKitchen
テキスト&フォト&イラスト by キム・パプコ

第30回6月号  湿度60の向こう側


 朝の地下鉄で、必ず一度は部屋干しの匂いが漂ってくる今日この頃(泣)、部屋干し用洗剤を車内で売り歩きたい衝動に駆られてます。せめて心持ちだけでもカラッと除湿を心がけたいところ。なので、夏に向かいたい思いをこめて、フランソワ・オゾンの『スイミング・プール』なんか除湿剤がわりに観たわけです。

 ミステリー作家のサラ(シャーロット・ランプリング)は新作執筆のため、出版社社長(チャールズ・ダンス)が所有する南仏の別荘へ一人やって来ます。社長とは長い付き合いなのに、今や若手作家を売り出すために、彼女の作品なんか二の次。クサって悪態ついていると、別荘での執筆を勧められたのです。避暑地のプール付き別荘に足を踏み入れるや、彼女にも少しずつ晴れやかな表情が戻ってくるのですが、まもなく社長の娘ジュリー(リュディヴィーヌ・サニエ)が現れ空気は一変。サラの作家としての好奇心も頭をもたげてくるのでした…。

 南仏の別荘でお仕事なんて贅沢!眠気覚ましにプールでひと泳ぎ、ぶらりと近所のカフェでブランチを済ませ、ギャルソンと他愛もないおしゃべり。昼下がりは木陰のデッキチェアで、しばしまどろむ…。よいですねー、こんなひと夏の過ごし方できるなら、今すぐ私だってミステリー作家になりたい。ていうか、そんな調子じゃ書き上がるわけないか(笑)。

 イギリスでは女性ミステリー作家というと偏屈で変わり者というイメージらしいですが、シャーロットはなかでもアガサ・クリスティ(記憶喪失に陥った謎の失踪事件が有名)を参考にしたとか。その上、出だしから女っ気のカケラもないモスグリーンのハーフコート着て、それがまた妙にリアリティある佇まい。そのダサさ加減を見るにつけ(役作りに違いないんだけど)、シャーロット・ランプリングといえども、確かに仕方ないわよね、年令(58才)から言ったら…なんて納得してしまった。ところがやがて、着る服の風合いが明るさを増し、襟もとが徐々に開いたり、微妙に変化していく女心が垣間見えてくるのですね。

 この映画、紛れもなくシャーロット主演でありながら、けして手放しで礼賛してないのです。ヨーグルトめちゃ食いシーンなど、『愛の嵐』のチョコレート貪り食いを彷彿とさせ、一気に消化機能が衰えること間違いなし。そりゃあ、若さてんこ盛りのリュディヴィーヌ・サニエに陰で「なによ、あんなオバサン」なんて言われますよ。そんなところも、別の意味でドキドキもの。謎が謎を生むラストまで、真っ向からのぶつかり合いが心地よいのでした。ボーダー柄ビキニと匂いたつようなブラウスの着こなしを交互に見ながら、フィットネス水着、愛用してる場合じゃないな…と思う夏直前でした。

『スイミング・プール』→http://www.gaga.ne.jp/swimmingpool/
部屋干しトップ→http://www.lion.co.jp/new/cm/hbt15b_q.htm
●Kim's近況●

巷で、英語のペーパーバック“多読のすすめ”というのが流行ってるらしいです。基本は、辞書を引かずに、分からない箇所は読み飛ばし、つまらなかったらすぐ諦める、というイイ加減な精神。いちいち単語を調べたり、和訳してしまうような、几帳面な英語の先生体質の人には向いていないんだとか。英語力に関係なく、児童書のような挿し絵本から始めて、段階的に何冊かずつ読んでいきます。このルールに従えば、最終的には難解なペーパーバックも読破可能になるらしい。最近、読書に集中できないのを通勤時間のせいと諦めてたけど、初心に戻って実験しよーかと思ってるとこです。考えたら、日本語の本もそうやって読めるようになったんだものね。自然の摂理。和書もこの方法で読み直したくなったりして。

*「快読100万語!ペーパーバックへの道」
→http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480087044/249-4114120-5141923
*推奨図書も意外とそそられます。
・Penguin Readers (Level 2)
→http://www.penguinreaders.com/asp/results.asp?LevelCode=2



Kim's Cinematic Kitchen バックナンバー
1月号 2月号 3月号
4月号「春一番」 5月号「5月です」 6月号「少林サッカー」
7月号「髪を切る人」 8月号「夏が来た!」 9月号「シネコン大好き」
10月号「秋の夕日に・・・♪」 11月号「厨房にて」 12月号「冬もいよいよ」
2003年1月号
「羊といえば・・・」
2月号
「猟奇的な季節!?」
3月号
「ピアノのおけいこ」
4月号
「できれば僕をつかまえて」
5月号
「いつかあなたも六本人」
6月号
「雨の日に六月の蛇を見たか?」
7月号
「CANDYアイ・ラブ・ユー」
8月号
「8月の風に吹かれたい!」
9月号
「762平方キロメートルのギャラリー」
10月号
「秋の山形〜女囚たちの映画ざんまい」
11・12月号
「遅れ馳せながら秋の便り」
2004年1月号
「愛しかない それが世界を動かしている」
2月号
「走る馬を見たくて」
3月号
「犬が吠える村にて」
4月号
「象をさわってみたら」
5月号
「異邦人のススメ」



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