第33回

11月号


 『透光の樹』

 樹には宿るはずの神が、映画の細部には宿らず。

 男と女の抱きたいという執念の映画である。しかしその執念が見る者に伝わって来ない。結婚して子供1人、ドキュメンタリー番組制作会社の社長、しかしガンで余命幾ばくも無い男と、離婚して子供1人、アルツハイマーの父の介護に明け暮れる女が25年ぶりに出会い、互いを求め合う。この要旨を納得させるには細部をこそ、きちんと描くべきである。大筋はそういう男女もいるであろうという想像の範囲である。しかしそれを見せるには、細部にこそこだわるべきであった。描写ではなく思わせぶりが先行している。刀鍛冶のドキュメンタリー、鶴来という地名、ランプの宿、カタクリの花、古民家、そして題名ともなっている古木、渓流釣り、読む時は想像力とともに読み進むので問題はないが、映す時は製作者の意図とともに見せないと、見る者は混乱する。ランプの宿、映せば美しいからではなく、金沢から鉄道とバスと徒歩でほぼ1日、時間の無い逢瀬でありながらなぜゆくのか、すべて見る者の想像力に委ねるのではなく、製作者が提示すべきである。説明しろという事ではない。2人は25年前、鶴来の古木で出会い、25年後にイニシャルを刻印する。又、別れた元亭主とはたまたまの渓流釣りで出会う。それらを、納得させる映像で見せてくれないので、合理性を見る我々が考える。そうこうしているうちに、映画の進行と、見るリズムが合わなくなってしまう。説明して欲しいというのではない。映画は所詮映画的真実という大ウソであるから、大ウソを成立させる小さなほんとうはきちんと描いて欲しい。別れた亭主と出会うなら、渓流釣りではなく、働いているスシ屋だろうし、そのほうが、映画と同じリズムをより共存できたと思う。おせっかいな文章と思う。しかし根岸吉太郎は私と同世代であるから。

 公開は10月30日(土)より。


●市井義久の近況● その33 11月

 この住所に事務所を構えてから、10月20日でちょうど4年。2つしかない窓から見える風景も随分と変った。4年間で無くなってしまったものはあまり気がつかないが、4年前は存在しなかったものが、今明らかに存在している。白金高輪のマンション3つ、そして十番のマンション2つ、いずれも7Fの事務所から見上げるばかりの高層である。なぜこんなことになってしまったのか。明らかに南北線の開通である。従来白金高輪にしろ十番にしろ、バスの便しかなかったのが地下鉄が開通したことで、私も事務所を構え、古い建物のかわりにマンションが、それもおしなべて高層が林立するようになった。六本木ヒルズもこの窓からは見えないが、高層である。土地の効率的活用と言えば聞えはよいが、要するに一極集中である。多くの人が寄り添って住人でいる。集まって働いている。そのしわ寄せが、私の山本の実家のような無人の家々である。


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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