第38

4月号


 『東京タワー』

 東京タワーとはただの電波塔である。しかし、人々の眼差しや解釈によって、それ以上の意味を付与されている。この映画も東京タワーというタイトルがついているように、同じく、解釈と説明で成り立っている。私も東京タワーの見える街に住み、東京タワーの見える事務所(といっても非常口からだが)で働いているが、この映画の人々も、東京タワーを中心とした半径数キロの地域で生きている。ラストは東京タワーではなく、同じく塔エッフェル塔で終る。

 東京タワーは電波塔であり、東京のランドマークであるので日々電波や光を発散、発光しつづけている。しかし映画は東京タワーと銘打ちながら、寺島しのぶ演じる主婦を除けば、明確に規定される人物像はいない。黒木瞳、彼女の恋人の大学生、彼女の夫、寺島しのぶの恋人の大学生、彼女の夫と母。共にみずから存在を主張することは無い。セレクトショップのオーナーなり、大学生なりが、固有名詞ではなく一般名詞の範囲でしか活動しない。したがって見る側は、より感情を移入したり、見る人自身をスクリーンに置いたりして、見続ける。つまり、東京タワーが、みずから発信しつつも解釈される存在であるのとは対称的に映画『東京タワー』はとぎれることのない解釈を要求される。ただの電波塔を自身にとって何物かであるかのように位置づけるように、この映画は、何物かであるように解釈することで、成り立っている。


●市井義久の近況● その38 2005年4月

 2月15日夜10時から11時半まで、夜の公園に1人で居た。人を待っていた。電話するということだったので、ケイタイ電話の時代、ファミレスとかスタバとかマックとか、暖かい場所で待てばよいのに、夜の公園に1人で居た。350mlのビールを6カン飲んだ。まったく酔わない。1時間半の間、間近の東京タワーを見上げていた。ダルメシアンが全速力で疾駆して行った。私と同じくらいの老人が、夜のオフィスで働いていた。仕事帰りの男性や女性が時々首をすぼめて通り過ぎてゆく。昼テンプラ屋で私の近くに座っていた40歳の美容整形外科医と28歳のその愛人の会話を思い出していた。客は私とそのカップルのみ、その解放感なのか、一目で愛人同士とわかる“温かい会話”をしていた。なぜ昼の1時半に夜のような会話をしているのか。平日の麻布十番の昼1時半だからか。今この公園には通り過ぎる人はいても、いくつかあるベンチとブランコなどの遊具に座る人は、私1人である。1時間半たっても私1人であった。空はさえていた。東京タワーのオレンジ色も、あたりの闇とは対称的に際立っていた。東京タワーが間近であるにもかかわらず、あたりは深閑としていた。まるで森のようであった。ビールも水のようであり、暖を取ることはできない。深夜の山中のようである。東京タワーの間近という地域が持つイメージとは裏腹に、人通りも無く、実在する東京タワーを見ているのではなく、森の木々の間から、天上の手のとどかぬ星をながめているようである。夜は依然として手のとどかない底のほうでふけていった。夜の底から実在の東京タワーを見続けていた。


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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