第39

5月号


 『サマリア』

 『サマリア』は援助交際の話だと聞いて、わざわざ2月の夕張で見た。まして監督はゆがんだ愛を描く『悪い男』のキム・ギドク。援助交際、もちろん買い手は私であり、「白線流し」の酒井美紀のような女子高校生が来たら拒む理由は無い。今まで機会がなかっただけである。又、援助交際をする女子高校生の父親も私である。私には女の子がいなかっただけである。私の友人にも、街で声をかけられた者はいる。それは決まって優しげな顔をしている普通の背広姿のおじさんである。ちなみに彼は、市井は絶対声をかけられない、なぜなら声をかけると縛られそうな予感がすると言っていた。又、娘が援助交際をしているので、なんとかならないかと相談をもちかけてきた友人もいる。私が映画の宣伝という、多少若い人と接点がある仕事をしているからである。もし彼の娘が実際そうだったら、彼の中学生の頃からの理由のないコンプレックスが、そうさせたのではないかと思った。現実における虚と実、映画の虚と実、その4つがないまぜになったような映画である。

 現実であるからすべてが真、映画であるからすべて虚ということがあり得ないように、その4つは肉迫し巴のようである。私は女子高校生には成り得なくても、買い手の男、及び女子高校生の父親には現実において成り得た存在である。そう思って95分を見た。現実における援助交際は私にとっては虚である。しかし映画の中の父の行動は私にとっては実である。前者は特別な場合を除き、私の想像力の範囲外であるが、後者は私の想像力の範囲である。現実における援助交際の父親は、私にとって限りなく近いが、映画の中の客は私とは限りなく遠い。キム・キドクの作品で『悪い男』、『春夏秋冬、そして春』は映画として私の抽象、気持ちを刺激するにとどまっていたが、『サマリア』は、私の存在、在り様に訴えかけてくる極めて刺激的な、おもしろい映画である。


●市井義久の近況● その39 2005年5月

 2月26日(土)4時起床、6時30分のJAL1001で札幌へ、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2005で上映される『亡霊極道』を見るためだけに夕張へ、映画祭は今年で16回目、北海道は何度も来ているが、初めてのゆうばり映画祭。1本の映画のためだけなので夕張滞在は1泊2日、1時間40分の映画のためだけである。『亡霊極道』作り手の意志の空転、それだけである。
 新千歳空港7時30分、夕張10時、飛行機の中でカンビール2カン、千歳から夕張までの車内で1カン、ホテルシューパロで生ビールを2杯、昼食は山盛りのカレーソバを食べながらビール2本、キム・キドク『サマリア』を見て、生ビール1杯、『亡霊極道』を見てスシを食べながらビール1本、そしてホテルシューパロで最も北海道らしいにしん、いくら、じゃがいもを食べながら生ビール1杯、計10杯(本orカン)、サッポロとキリン、ホテルシューパロの生ビールが最もおいしかった。
 なぜ、この映画祭へ今まで来たことがなかったのか、とは言っても私は、カンヌとベネチアと湯布院とヨコハマしか行ったことはないが、まずこれから東京で見られるであろう作品が、1/3くらいあること。そしてそれ以外の作品は、情報量が少なすぎて、どれがおもしろいのか、よくわからない。又、会場がいくつかに分散していて、無料バスもあるが、歩くには寒い、あたりまえだが、野外パーティも無料はうれしいが、やはりハダを刺す寒さである。これもあたりまえ。湯布院と同じように大部屋ザコ寝コースへ宿泊した、客は圧倒的に若者が多く、夜中も上映しているので、2時、4時、6時と3回くらい若者の出入りで起こされてしまった。これもあたりまえ。私は11時に寝て9時に起きたので3回も起こされてしまった。26日夕張晴天。あたりまえでないのは映画は思い出ではなく現在進行形である。夕張の大看板の中にいると映画は思い出のように感じる。これが来なかった理由だろうか。
 27日夕張晴天、晴天が2日も続くなんて、同じ北国でも新潟ではありえない。郷愁のミュージアムで、『亡霊極道』監督品川亮さんと話しながらビール4本。昨日のすし屋さんでテンプラ定食を食べながらビール2本。レースイの湯という温泉でみそらーめんを食べながら生ビール2杯、新千歳空港の食堂で生ビール1杯、千歳発夜9時35分、今日も9杯のビールであった。ホテルシューパロのラウンジのサッポロ生ビールが1番うまかった。ビールな日々冬北海道。


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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