KimsCinematicKitchen
テキスト&フォト&イラスト by キム・パプコ

第38回5月号  靴下たちの見る夢は?


 「日本から46時間、広さは日本の半分、人口が東京の3分の1、気温は夏でも約22℃」さて、どこの国でしょう?スローライフな映画『ウィスキー』が作られたのは、南米のブラジルとアルゼンチンにはさまれるように位置する国、ウルグアイ。南米と言うと “リオのカーニバル”しか浮かばない私は、映画を見ても「どこが南米?」って感じでしたが、どんより暗い景色とカウリスマキ映画みたいな空虚な雰囲気に結構ハマりました。

 かなり年季の入った靴下工場の経営者ハコボは、自分自身も老年にさしかかり相当くたびれ気味。ある日、ブラジルに靴下工場を持つ弟のエルマンが久々に訪ねてくると知り、従業員のマルタに、自分と夫婦のフリをしてほしいと頼みます。マルタはその申し出をあっさり引き受け、兄弟の再会が果たされるのですが…。

 ハコボの靴下工場は「昭和初期?」と思わせるほど、見るからに旧式で殺風景な工場で、従業員は地味〜な女子社員が3〜4人程度。ガランとした室内に編み上がった靴下が逆さに並ぶ図は、あまりに物寂しげで不条理な世界に見えてしまいます。どうやらハコボの仕事は、しかめ面をしながら、それらの靴下を点検することのようです。以前、九州にある縫製工場を見学しに行ったことがあるんですけど、そのときはズラッと勢ぞろいしたぴかぴかのミシンと「今日の目標:XXX着!」なんて電光掲示板が掲げられた光景に、ここで毎日ひと針ひと針頑張ってる人たちがいるんだ!と妙にコウフンしたものです。それとは大違いで、まったくといっていいほど覇気が感じられないハコボの工場ですが、そのレトロな造りと手作り感に、別の意味で一度は見学または見習いバイトでもしてみたいかも、なんて思いました。

 主人公のハコボは無表情で寡黙。真面目を通り越して、面白味がないくらいなのに、いい年して実の弟にウソの結婚を貫き通す(見栄を張りたいのか?)というのが、大体、意味不明。マルタも負けずに美人でもなく色気とも無縁の中年女ですが、指示に忠実に従うため、ブラウスを着たり口紅を入れたり、と奥さんらしく変化していく過程で、必然的に段々チャーミングに見えてきちゃうんですね(マルタ役のミレージャ・パスクアルは東京映画祭で主演女優賞受賞)。そして、二人と対照的に陽気な弟のエルマンが互いの緊張感をときほぐして、映画の救いにもなっています。他人だけど夫婦、兄弟だけど他人行儀、さらに、やっぱり他人は他人(?)、という3者3様の関係は、終始ちっともテンポよく語られることなどないのに、ウルグアイのまったりした空気感とともに最後には妙に余韻が残るのでした。それでも、旅行したいとは思わないですけど(笑)。

『ウィスキー』→http://www.bitters.co.jp/whisky/
ウルグアイ→http://www.arukikata.co.jp/country/UY_travel.html

●Kim’s近況●

GWに、上野動物園でのスケッチ会というのに行ってきました。大体、外でスケッチなんて初体験なので最初はかなり恥ずかしかったですが、始めたらすぐ周囲はどうでもよくなりました。しかし、動くモノ描くのって難しい!ゾウやサイがあんなに動き回るなんて!すばしっこいサルは、描いても描いてもペラペラ漫画みたいになるし、キリンは上へ下へと首がニョキニョキ。結局、ちゃんと完成したのはペンギンと北極グマの絵だけ(動かなかったから…)。でも、久々に面白かったので友達に話したら、なんと早速一人で出かけてきたとか。意外と手軽にアウトドア気分が味わえ、動物たちに癒されたようです。よかったら天気のよい日にお試しを。

上野動物園→http://www.tokyo-zoo.net/zoo/ueno/



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10月号「秋の夕日に・・・♪」 11月号「厨房にて」 12月号「冬もいよいよ」
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「猟奇的な季節!?」
3月号
「ピアノのおけいこ」
4月号
「できれば僕をつかまえて」
5月号
「いつかあなたも六本人」
6月号
「雨の日に六月の蛇を見たか?」
7月号
「CANDYアイ・ラブ・ユー」
8月号
「8月の風に吹かれたい!」
9月号
「762平方キロメートルのギャラリー」
10月号
「秋の山形〜女囚たちの映画ざんまい」
11・12月号
「遅れ馳せながら秋の便り」
2004年1月号
「愛しかない それが世界を動かしている」
2月号
「走る馬を見たくて」
3月号
「犬が吠える村にて」
4月号
「象をさわってみたら」
5月号
「異邦人のススメ」
6月号
「湿度60の向こう側」
7月号
「関東の中心でロリータは叫ぶ」
8月号
「1m39cmの目線から」
すでに10月号
「トロント国際映画祭に行ってみました」
11月号
「後悔しない!土曜の夜の過ごし方
2005年1月号
「初笑い!超特大サイズ大売り出し」
2005年2/3月号
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2005年4月号
「珈琲と煙草さえあれば」



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