第40

6月号


 『不滅の男 エンケン対日本武道館』

 10月に公開する映画を1本宣伝してほしいと要請され『不滅の男 エンケン対日本武道館』という映画をイマジカで見た。エンケンとは遠藤賢司、70年代アンダーグラウンドフォークのカリスマシンガーである。その頃私が聞いていた唄は、タイガース、井上陽水、森田童子、斉藤哲夫、ジャックスそして遠藤賢司である。彼の「カレーライス」という唄は、2005年の世相に投げ出してみると、単なる小市民の叙情でしかないかもしれないが、68年の東大安田講堂、新宿フォークゲリラ、新宿騒乱事件、浅間山荘の流れの中に置くと、小椋佳の「白い一日」のような、日常の切ない希求の唄である。

 昔、吉祥寺のまんだら堂という狭苦しいステージで歌っていた歌手が、この映画では、68年のビートルズのように日本武道館で、大音響のローリングストーンズばりの山のようなアンプの中で、無観客で歌っている。衣裳とてヘビメタである。今ならマツケン、忌野清志郎か、ギンギンである。まして1人なのにギター、ハーモニカ、ドラムスまでもたたいている。この映画は劇映画ではなく、日本武道館での無観客コンサートドキュメンタリーであるが、35年という時の流れが、遠藤賢司を実在ではなく虚構へとおし流している。監督、脚本、編集、音楽、主演、1人5役の八面六臂が、あれからの35年を劇映画のように綴る。映画は彼の自宅と思しきこたつのある部屋で、又ススキ野原の街灯のともるバス停で、唄を歌い続けるだけである。1時間20分一言も発しない。ただ歌い続けている。過去のようなミラーボールを背に、あるいは未来のような巨大な投光器に向って、ゆれるカメラの前で、歌い続けることが、まんだら堂から31年、彼のしられざる人生のように見えて、やはりドキュメンタリーであった。
 10月中旬テアトル新宿にて公開。


●市井義久の近況● その40 2005年6月

 母がアルツハイマーになり、父が死に、母が介護のグループホームへ入所してから2年になる。そこでここ5年くらいは、年4回、お正月、GW、夏休み、秋の連休と田舎へ帰省している。新幹線が新潟へと近づくと、その線路の両側に、無数の一戸建ての住宅が並んでいる。それぞれの家の洗濯物が異なるように、それぞれの家で、それぞれの人々が、それぞれの生活を営んでいる。家は一様であるが、住む人々は多様である。また新潟を通り過ぎた後にも、在来線の両脇に無数の一戸建ての住宅が建っている。そこでの生活も多様であろう。しかしその住宅のすべてに極端な話だが私はいない。あたりまえである。存在を想像することすらできない。だから私はここでこのような生活をしているのだ。5月のGWは、越後湯沢では残雪の基、桜が見頃であり、長岡では田植えも始まり、新潟では八重桜となる。しかもあらゆる車窓で新緑は萌え出ていて、色鮮やかでやさしい。しかしそれらに囲まれて住む人々のようでは私はない。私もこれから関川村山本という無人の実家へ帰ると何日間かはその新緑に囲まれて過ごすが、車窓から見える無数の住宅に住む人々のようではない。『天使のはらわた 赤い教室』、『人魚伝説』を見、長谷川和彦に会って「いつまでもファンじゃないだろう」と言われてからは、私の道へと歩き出した。そしてここまで来た。過去と未来の間にしか現在は存在しないが、その3つの、私にとって代表的な過去をきっかけに私は生きている。仕事は思い通りではないが、私がおもしろいと思う映画を、私を発見するように、1人でも多くの人に見せようと思い続けて、こうなってしまった。
 無数の家が在り、無数の人々が生活し、しかも同じ環境に育まれている。しかし過去も未来も思考が個である限り、皆誰もそうではなくこうなるしかない、他者との差異を生きる。だからしばし車窓より、同じ新緑を目にすることで、言葉くらいはせめて、目に青葉、山ほととぎすと今は異口同音に語ろう。


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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