KimsCinematicKitchen
テキスト&フォト&イラスト by キム・パプコ

第40回7月号  走れ!シマウマのように。

 「韓国で500万人が涙した」という宣伝コピーには惑わされなくとも、予告篇で走るチョウォンの姿を見たらもう、アナタも虜。そう、なんといっても映画『マラソン』の魅力は、チョウォン(チョ・スンウ)の走る姿のすがすがしさに尽きます。

 主人公のチョウォンは自閉症で、身体は20才の健康な男子でも5才児の知能しかありません。母親は、普通の子供と変わりないことをやらせたいと考えたあげく、たどり着いたのがマラソン。そして、息子より一日だけ長く生きることを願う母は(だって、彼は一人では生きていけないから)、チョウォンに日々厳しい訓練を課していくのです。

 大体、“走る”ってことは何かの手段であって、それが目的だなんて考えられない、という私などは、TVでマラソン中継観てても「なんであんな辛そうなことを」と思うほどです。ところが、チョウォンの走りっぷりはイイ!風の香り、草が手に触れる感触、大好きなシマウマと草原を並んで走ってるかのように、とにかく味わうものすべてを楽しんでいるよう。物語は実話です。モデルとなった少年ペ・ヒョンジンの母、パク・ミギョンが書いた「走れ、ヒョンジン!」は、蓮池薫氏の翻訳で今月、発売されたばかり。文章はちょっと固いけれど、母ミギョンの日々の緊迫感が伝わってくるような文体です。

 「自閉症」について詳しくは知りませんでしたが、他人の感情が読めない、人とのコミュニケーションがとれない、限られたことにしか興味を示さない、等々、社会生活を送るには想像を絶する困難があるようです。写真を撮るとき、「スマイ〜ル」といわれても、うまく笑顔を作ることができないチョウォン。弟に何度会っても敬語で挨拶してしまったり、観ていてふと笑ってしまうようなシーンにも障害の深刻さが映し出されているんですね。そんな息子を我が身を投げ打って鍛え上げていく母と、それに答えて走り続けるチョウォン。おー、なんと美しい母と子の愛。間違いなく泣けます!と思うわけですが…話はそんな簡単じゃなかった。母親がチョウォンのマラソンに没頭する間に、置き去りにされた彼らの家は…。避けて通れない現実的問題も、キレイごとでなく描かれてます。

 しかしチョウォンを演じるチョ・スンウは、ほとんど演技を意識させないのが凄い。なんと彼を俳優と気づかない観客すらいてビックリでした。これまでの出演作では、イム・グォンテク監督作『春香伝』の初々しさも印象深く、同監督の『下流人生』では破天荒な“チンピラ”ぶり、そして「HEDWIG」ではミュージカルに挑戦!ということからも、その芸域の幅がわかろうというもの。もはや四天王なんて目じゃないですね(笑)。

『マラソン』→http://www.marathon-movie.com/
「走れ、ヒョンジン!」
→http://www.randomhouse-kodansha.co.jp/books/details.php?id=88


●Kim’s近況●

六本木某所にて、“ゴーグル、マスク、およびゴム手袋、要持参”という講習会に参加。なんだか怪しい集いみたいですが、参加したのは「手作り石けん講座」。初心者歓迎というからタカくくってたら、目の前にビーカー、メスシリンダー、ガラス瓶、温度計、攪拌器が勢ぞろいし、ほとんど化学実験の授業のような進行で、ひたすら量っては混ぜ混ぜするうち、とろ〜り美味しいクレープでも焼けそうな生地が。それを箱の中に注いだら、マルセイユ石鹸の出来上がり!(正確には、同じ成分の石鹸が完成。)と思ったら…使用前に2〜3ヶ月の熟成期間が必要ですって?ガ〜ン。そろそろウチの石けんなくなりそうだし、と思って参加したのに!手作りはそう甘くなかった(笑)。



Kim's Cinematic Kitchen バックナンバー
2002年1月号 2月号 3月号
4月号「春一番」 5月号「5月です」 6月号「少林サッカー」
7月号「髪を切る人」 8月号「夏が来た!」 9月号「シネコン大好き」
10月号「秋の夕日に・・・♪」 11月号「厨房にて」 12月号「冬もいよいよ」
2003年1月号
「羊といえば・・・」
2月号
「猟奇的な季節!?」
3月号
「ピアノのおけいこ」
4月号
「できれば僕をつかまえて」
5月号
「いつかあなたも六本人」
6月号
「雨の日に六月の蛇を見たか?」
7月号
「CANDYアイ・ラブ・ユー」
8月号
「8月の風に吹かれたい!」
9月号
「762平方キロメートルのギャラリー」
10月号
「秋の山形〜女囚たちの映画ざんまい」
11・12月号
「遅れ馳せながら秋の便り」
2004年1月号
「愛しかない それが世界を動かしている」
2月号
「走る馬を見たくて」
3月号
「犬が吠える村にて」
4月号
「象をさわってみたら」
5月号
「異邦人のススメ」
6月号
「湿度60の向こう側」
7月号
「関東の中心でロリータは叫ぶ」
8月号
「1m39cmの目線から」
すでに10月号
「トロント国際映画祭に行ってみました」
11月号
「後悔しない!土曜の夜の過ごし方
2005年1月号
「初笑い!超特大サイズ大売り出し」
2005年2/3月号
「ゴー!ゴー!ジャパニーズカウボーイ」
2005年4月号
「珈琲と煙草さえあれば」
2005年5月号
「靴下たちの見る夢は?」
2005年6月号
「恋は電車に乗って
キタ━━(゚∀゚)━━ッ!!



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