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●市井義久の近況● その43 2005年9月 第30回湯布院映画祭 8月24日(水)から28日(日)まで第30回湯布院映画祭、4泊5日、私には28回目の湯布院映画祭であった。なぜ28回目なのか。それは発見の旅だからである。湯布院と映画と祭。それぞれに毎日発見がある。ならばいつまで行くのか。湯布院、映画、祭のどれか1つの要素が消滅した時であり、いやその前に、私が盲目にならずとも、私が何1つ発見することすらできなくなった時までである。すなわち肉体の死ではなく、心が死に絶えるその時までである。 28回目の湯布院映画祭、まずは湯布院という要素からの発見は、25日(木)玉の湯ニコルズ・バーのハウスワインの白(クロ・デュ・シャトー)、亀の井別荘湯の岳庵の白カボチャのスープ、枝豆、ブドウ、湯麺、榎屋の露天。26日(金)無量塔不生庵を取り巻く色、まるで天空の城ラピュタである。27日(土)和食工房もみじから見る由布岳、山水館ゆふいん麦酒館のスナギモ。28日(日)亀の井別荘湯の岳庵の丸鍋、ゆふいん健康温泉館の野菜のおすし、玉の湯露天の底の冷気。29日(月)玉の湯午前7時の珈琲の香。 映画は27日(土)の『プーサン』と『やわらかい生活』 前者は、1953年の作、私が生まれた時代とは、このような時代であったのか。キャベツばかりを食べ続け、狂気のふりをして時代をやり過ごすしかない、そんな時代に私は生まれたのだ。1970年ではキャベツばかりをかじっていたのは学生であったが、1953年は勤労者ではあっても、キャベツをかじらざるを得なかったのである。後者は、おもしろかった。しかし、豊川、松岡、田口、妻不木、大森5人がかりですら、1人の大森南朋に敗退したかと思うと、5人の中の孤独といっても、もう少し5人のキャラを立てられなかったかと思う。28日(日)『ヨコハマメリー』おもしろかった。私も何度も見かけたことがあるが、ヨネヤマママコのようなパントマイムの人かアマガツウシオのような暗黒舞踏の人とばかり思っていた。しかしラストは五大路子が、ホールを出る所でエンドマークのほうがよい。伝説の人は、今はいない。すべては幻というほうが良いと思う。 祭は今でも半信半疑だが、彼女が学生だった頃から知っている女性が、大分県観光協会会長?、又60歳を過ぎても依然アルプスの少女ハイジのような女性の草むしり姿。 28回目にして新しく発見したものが、わずか4泊5日でこれだけもある。これが今回に限ったことではなく、1977年の第3回目に初めて参加した時など仰天であった。映画祭の上映本数17本のうち見たのは8本、シンポジウムは9回のうち1回、パーティは5回のうち4回の参加である。 25日(木)は映画1本、パーティ1回に対し、ビール(ワイン)4回、風呂2回。26日(金)映画2本、パーティ1回に対し、ビール(ワイン)3回、風呂4回、27日(土)映画2本、シンポジウム1回、パーティ1回に対し、ビール(ワイン)5回、風呂2回、28日(日)映画2本、パーティ1回に対しビール3回、風呂2回、29日(月)は、ビール(ワイン)2回、風呂3回。ビール(ワイン)を飲む店もそれぞれ異なるが、風呂も最近では立ち寄り湯があるので、それぞれに異なる。4泊5日朝6時から午前1時まで、祭という集団催眠でもなければ、これだけのスケジュールをこなすのは不可能であろう。それで〆て187,065円。風呂はもちろん1人で入るが、ビール(ワイン)は決して1人ではない。湯布院だから1日数回の風呂はあたりまえとしても、1日に4回も5回もビール(ワイン)を飲みたい人がこの祭には存在しているということである。 2回目から10回目は、すべての映画を見、すべてのシンポジウムに参加し、全てのパーティに参加していた。しかし11回目から20回目になると、それが半分くらいになり、21回目から30回になると、私にとっての主体が映画ではなく湯布院と祭に移行した。どこで何を発見するかは人それぞれである。年間365日色々なものを組み合せて、人生を紡いでゆく、その過程で湯布院映画祭は恰好の場と思うが、あとはそこで何を発見するかである。1回目から30年間も連綿と客として、あるいはスタッフとして参加している人もいる。 私は湯布院映画祭に意義を見出したことが、28回目の理由であり、来年映画祭は31回、私は29回、会期は8月23日(水)から27日(日)、私も今年と同じように湯布院を映画を祭を発見しにそこへと出かけるであろう。 →2004年 湯布院映画祭レポートへ |
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シネマ ファシスト 第43回 9月号 『フライ,ダディ,フライ』と『いつか読書する日』 7月30日、むし暑い夏の盛りに丸の内東映で『フライ,ダディ,フライ』を見た。女と2人で観たのに、観終った後、一言も話さなかった。話すと涙がこぼれそうだった。銀座8丁目まで来てしまったので、目についた店でイカスミのスパゲッテイを注文した。時間も昼の2時を過ぎていた。その店で椅子に座って、『フライ,ダディ,フライ』はおもしろいと言ったとたん涙が流れ出てしまった。泣けるような内容ではない。従来の東映やくざ映画のパターンである。観ている間おもしろくはあっても、泣いていた訳ではない。なのになぜ観終ったとたん無言でふたをしなければならない程に涙があふれてきたのか。 岡田准一の指導を得ての堤真一の目的達成までの映画である。一見復讐劇の体裁を取っている、指導する者が年少で、又倒すべき相手も指導者と同じ高校生であるところが新しいと言えば新味である。平凡なサラリーマンが、高校ボクシングの全国制覇の相手を倒すには、それなりの算段がいる。しかし他者に頼るのではなく自分で、まして他者を倒すのではなく、それを成し遂げることが自己目的化してゆくには、それなりのトレーニングと経過が必要である。それを見せた映画である。端緒の動機が希薄なところは、モノクロで補われている。トレーニングする経過を結果へと積み上げ、完遂を予測させるところは、映像のテクニックで充分に見せてくれる。その積み重ねが、想像を絶するトレーニングを完遂するというばかばかしい話を次第に納得して見てゆくようになる。しかしなぜ観終った後に涙を流さなければならないのか。 堤真一は私ではないのか。駅を夜10時に出発する定期バスに、判で押したように、うだつも上がらず、すぐに他をたより、他人のせいにする、この映画の主人公である中年のサラリーマンこそ私ではないのか。もちろん、私も、中年太りの腹を持て余し、スポーツなどは全くしないサラリーマンであり、ひょっとして連夜、バスの中から見守り声援する5人のサラリーマンですらないのかもしれない。その未来に対する絶望を、私の末路を、私の未来へ対しての自己絶望を堤真一のトレーニングが示唆したのではないか。すなわち涙は私の未来への絶望の涙である。 片や『いつか読書する日』は、目的は異なるが主人公が走るということを除けば、私がたまたま同じ日に観たということを除けば、『フライ,ダディ,フライ』との共通項はない。しかし『いつか読書する日』を観ている間も観た後も涙こそは流れなかったが、『フライ,ダディ,フライ』と同じように強烈に印象に残っている。 田中裕子、いつか読もうと思って買いためた本が、4.5帖の3面の天井までいっぱいに納まっている。私のワンルームの8帖の部屋にも天井まで、寝る1帖を残して本がいっぱいにつまっている。もはや最近では、収納しきれなくなってしまったので本は買わなくなったが、『いつか読書する日』では私との共通項を見た。しかし今の人生を彼女も私も同様に捨てている訳ではない。この映画で最も印象に残るのは、未来をも見据えた視線をくっきりと保持し、ずっとしたかったことをしてとは、岸部との最初で最後の性ではなく、ずっとしたかったことを日々実行している、田中裕子のしたたかな視線である。『いつか読書する日』は、すなわち、今、読書する日である。田中裕子の確実な日常が、それを表明している。2本の作品は、一見、未来に目標を設定しているかのように見せて、主人公が確実に映画の現在を生きている。それが強く印象に残った理由である。 | ||
市井義久(映画宣伝プロデューサー) 1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。 キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。 1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。 2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。 ●2001年 宣伝 パブリシティ作品 3月24日『火垂』 (配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿) 6月16日『天国からきた男たち』 (配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他) 7月7日『姉のいた夏、いない夏』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他) 8月4日『風と共に去りぬ』 (配給:ヘラルド映画 興行:シネ・リーブル池袋) 11月3日『赤い橋の下のぬるい水』 (配給:日活 興行:渋谷東急3 他) 12月1日『クライム アンド パニッシュメント』 (配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋) ●2002年 1月26日『プリティ・プリンセス』 (配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他) 5月25日『冷戦』 6月15日『重装警察』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森) 6月22日『es』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷) 7月6日『シックス・エンジェルズ』 8月10日『ゼビウス』 8月17日『ガイスターズ』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋) 11月2日『国姓爺合戦』 (配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他) ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。 |
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