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シネマ ファシスト 第44回 10月号 『NANA』 9月23日(金)から25日(日)の3連休、23日夜8時ヴァージンTOHOシネマズ六本木ヒルズへ『NANA』を観に行った。164席満席。したがって私は、最前列中央。映画を試写も含めて立見はしても最前列で初めて見た。右隣はアメリカンスクールの10代の女の子5人、英語日本語交じりの会話。左は20才の女の子2人、ハダシで椅子の上で足を組んでいた。その他大半が女の子であり、55歳の私は観客最高齢である。映画を見てその理由が判明した。女の子のための青春映画である。青春映画であるから男の子も登場するが、キャラクターが弱く彼らは遠景へと押しやられている。松田龍平とてそのキャラクターを、自らの台詞で説明するしかない。それと比較し、ナナとハチは、ナナの雪中での別れといい、ハチのファミレスでの別れといい、さすが『アベック モン マリ』『とらばいゆ』の大谷健太郎だとばかりに、描写を共感させてゆく。意地で別れ意地で結び合い、まとわりついたり離れたり、女性は、あっ、スクリーンの中に私がいるの連続であろう。それは女性が主役の映画だからではなく、主役のキャラクター設定から、衣・食・住、環境に至るまで緻密な設計の結果である。時代も場所も現代のように見えて現代ではない。東京のように見えて東京ではない。曖昧な所を存分に残し、要所だけを見る人の共感で埋めてゆく。私は右のアメリカンスクールの女の子たちのようにはしゃいで見ることも、左の20才の女の子のように泣きながら見ることもできなかったが、してやられ感いっぱいで映画を見終わった。 映画が、同時代の観客の意識でつくられている。製作者側の思惟ではなく、曖昧な部分を最大限に残し、出会いと別れのターニングポイントを、ありきたりでいて最大公約数的なシチュエーションを設定して、印象付けている、見事な、見所の多い映画である。 |
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●市井義久の近況● その44 2005年10月 人生には、はずみというものがつきものだ。9月10日(土)はずみで日帰りバス旅行へ行ってきた。西友のお店に勤めていた8年間は、年1回の1泊バス旅行。しかし猿ヶ京温泉へ行った以外は全く覚えていない。パリへ行った時、鉄道では行けそうもないので、モンサンミッシェルへの日帰りバス旅行。リンゴ酒がおいしかった。沖縄へ行った時、ここも鉄道がないので、全島を回ろうと、2泊3日のバス旅行。バスガイドの博識と、ひめゆりの塔近くのガマの霊気にはおどろいた。バス旅行はそれ以来である。 新宿センタービル前午前7時集合。7時半出発。ほぼ満席。同行の1人を除けば全員面識なし。河口湖ハーブ館、香水の家。珠屋という真珠屋さん。駒ヶ根市さくら亭にて昼食、光前寺、光り苔、マルスウイスキー信州工場。熊沢農園リンゴ狩り、新宿着夜7時半、12時間のバス旅行であった。理由もないのにはずみでついて行った。これが楽しい旅になった。このバス旅行は、1名は招待なので、家族、母子、おばさん同士が大半である。同行者は1人につき10,800円、しかし単独者はほとんどいない。おばさんのグループが多い。昼食は、牛と豚と馬のしゃぶしゃぶ食べ放題と、デザートはリンゴ食べ放題。そこへ私がひょんなことから紛れ込んだ。紛れ込んだのだから何処へ行くかも知らず、行く先々の予備知識も無く、まさに私にとっては、ミステリートレイン(バス)である。特に光前寺、なんと光り苔で有名な寺だという。光り苔といえば、武田泰淳か熊井啓。知床にしかないと思い、はるばる羅臼まで見に行ったこともある。しかしここでは簡便な土地に、どうということもなく存在している。そのおどろき、この寺の樹齢何百年の杉木立の中に吹く風は、森林浴という言葉通りである。リンゴ園では、青空とリンゴの赤い実を見ながら昼寝をしていた。さしあたって目の前に食料があると、人は幸福になる。私の目の前の18才の若い娘は母親と異なり、リンゴも取らず、食べず、ひたすらメールに興じている。彼女らはメール族、私のような昼寝族にとっては、新しい人種である。 ユーミンの中央フリーウェイの旅、12時間途中下車は6ヵ所6時間。半分はバスの中。車窓から見る富士を中心とする山々は、非日常的な視野をもたらす。母が老人性健忘症でグループホームへ入所しているため、旅といえば、年4回から6回、新潟の実家への行き帰りか今年で28回にもなる湯布院がほとんどだったが、こんなひょんなことからの行為が、日常の視座をちょっとずらしてくれた。 | ||
市井義久(映画宣伝プロデューサー) 1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。 キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。 1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。 2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。 ●2001年 宣伝 パブリシティ作品 3月24日『火垂』 (配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿) 6月16日『天国からきた男たち』 (配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他) 7月7日『姉のいた夏、いない夏』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他) 8月4日『風と共に去りぬ』 (配給:ヘラルド映画 興行:シネ・リーブル池袋) 11月3日『赤い橋の下のぬるい水』 (配給:日活 興行:渋谷東急3 他) 12月1日『クライム アンド パニッシュメント』 (配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋) ●2002年 1月26日『プリティ・プリンセス』 (配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他) 5月25日『冷戦』 6月15日『重装警察』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森) 6月22日『es』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷) 7月6日『シックス・エンジェルズ』 8月10日『ゼビウス』 8月17日『ガイスターズ』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋) 11月2日『国姓爺合戦』 (配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他) ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。 |
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