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シネマ ファシスト 第46回 12月号 『空中庭園』 1時間54分、数日間の物語である。見終わったときの印象と異なり、実はこの映画の中では何も起こってはいない。40才代の父と母、高校生の娘、中学生の息子、母の祖母、父の愛人2人、これらが主な登場人物である。舞台が現代であれば、高校生や中学生がラブホテルへと通い、高校生のラブホテルでの姿が雑誌のグラビアに登場し、愛人の1人が家庭へとやってくるなど、ありきたりの世相である。しかし、この家庭では何かまがまがしいものがうごめいている。4人家族なのに、あえてカギは1つ、朝食の用意をし家族を送り出してから庭の草木に毎朝水をやり、ソバ屋のパートで家計のやりくりをし、夕食を整える。そんな母を皆が愛している。なのにこの家庭は戦々恐々としている。『空中庭園』というタイトルからして、バビロンを連想させ、ファーストシーンはあろうことか、ランプシェードの空中庭園の描写から始まる。そしてしばし、主人公が住むマンションが逆転したり、空中に吊り上げられたり、血に染まったりする。主人公たちの生活圏もまるでキリコの絵のように生活感が無い。住宅群、ビル群、観覧車、そして極め付けはラブホテル、窓がないだけではなく、台所もなく、およそ生活する所ではない。祖母も「死ねば」と言われたり、幻想の祖母殺しも描かれたりはするがそれ程に特筆すべき家庭ではない。なのに描写はひたすら生活感を奪うことに突出してゆく。 何の過不足なく暮らしている家庭であっても、愛されてはいても、いびつな家庭をあえて形成しようとする母の負荷が、平坦に見えるほかの家族をも切迫させ、圧迫している。家族は隠し事をしてはならないと、娘は野猿というラブホテルでの性の結果だとか、初体験の相手は誰だとか、カギが1つだとか、そのような負荷が、一見平穏な家庭を特にその主催者である母を蝕んでゆく。それは母を演じる小泉今日子が、元アイドルでもある小泉今日子が、つくり笑いで維持する食卓に明確に表れている。他の1人で居る時間に母はあのように笑わない。バスの中を見よ。それが1人1人のディティールによって解放されてゆく、特に母に降る雨。血の雨が、要の母を解放する。5月18日はその母の祖母でもない愛人でもない家族4人の母の誕生日。 |
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●市井義久の近況● その46 2005年12月 麻布十番に事務所を構えてから5年3ヶ月、南北線が開通するまでは麻布十番は何の縁もなかった。白金高輪に来年の5月でちょうど12年も住んでいるのに十番は来ることもなかった。なのにここ5年間、平日はさすが無理だが、土曜も仕事の事が多いが、日曜は決まって十番のソバ屋でビール1本、オシンコと御前ソバ他、2,260円の組み合せで布屋太兵衛に通っている。十番には有名なソバ屋が3軒あるが、永坂更科 更科本店は議員とかそのスジの人が多く店内も暗い。更科堀井はソバは一番おいしいと思うが、事務所からはちょっと遠いので永坂更科 布屋太兵衛へ行く。この3点セット、最高の贅沢だと思う。実はソバ屋は老若男女最も人の集まり易い食べ物屋である。神田や室町や浅草はともかく。今や麻布十番は地下鉄開通と六本木ヒルズのおかげで観光スポット、色々な人が集まって来る、その3点セットで1時間、まだ明るい外と店内を見ながら、ソバ屋に集まる人々を肴にビールを飲む。恋人、不倫、家族、皆おもしろい。 そしてもうすぐ年越しソバである。 | ||
市井義久(映画宣伝プロデューサー) 1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。 キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。 1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。 2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。 ●2001年 宣伝 パブリシティ作品 3月24日『火垂』 (配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿) 6月16日『天国からきた男たち』 (配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他) 7月7日『姉のいた夏、いない夏』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他) 8月4日『風と共に去りぬ』 (配給:ヘラルド映画 興行:シネ・リーブル池袋) 11月3日『赤い橋の下のぬるい水』 (配給:日活 興行:渋谷東急3 他) 12月1日『クライム アンド パニッシュメント』 (配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋) ●2002年 1月26日『プリティ・プリンセス』 (配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他) 5月25日『冷戦』 6月15日『重装警察』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森) 6月22日『es』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷) 7月6日『シックス・エンジェルズ』 8月10日『ゼビウス』 8月17日『ガイスターズ』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋) 11月2日『国姓爺合戦』 (配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他) ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。 |
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