第49

3月号


シネマ ファシスト 第49回 2006年3月号
『THE有頂天ホテル』


 映画の宣伝の仕事をしているので『ALWAYS三丁目の夕日』『THE有頂天ホテル』が当たっているというので両方見に行った。『〜三丁目の夕日』は11月5日から、『〜有頂天ホテル』は1月14日より依然続映中である。

 『〜三丁目の夕日』、1958年が舞台であるから(いや昭和33年と言ったほうがよいか)、街の風景などはCGで再現するしかないとしても。その中で生きるすべての人も又、CGのようであった。私は8才、いくつかのことは覚えているが、戦後13年、未だ酷薄の時代であった。しかしこの映画の中の人々はすべて、原作がそうなのか、若者たちが夢見る昭和がそうなのか、おとぎ話、ファンタジーである。登場人物すべてに、違和感を感じた。
  『〜有頂天ホテル』も人物設定のステロタイプ化という点では『〜三丁目の夕日』と大差はない。しかし、この映画が成功しているのは、ロバート・アルトマンが得意としているグランドホテル形式の映画を見せるのに、アヒルと白塗りという出色を考え付いた点である。物語が停滞したり、つじつまが合わなくなった時、どちらかを出すとよい、そうすれば映画が緊急避難できる。又、全体構成を1人の男の転生と着地、すなわち香取慎吾のバンダナとお守りとギターが巡り巡って、彼の手元に戻った時、彼もまたふたたび納まるべき所、着地すべき所にもどる、という全体の構成を着想したことである。その2つを考えついたことが細部の弱さを補強する。わかり切っているのに、ついつい笑ってしまう。

 小動物及び、一番のトップが不在を続けそれを糊塗する部下という2つは作劇法としては目新しいものではない。しかし前後の流れを勘案した挿入のタイムリーが、やはり笑いを誘う。三谷幸喜は、舞台という生身の世界の人であり、映画のような影の世界とは異なるので、その人物構成が弱くとも、それは仕方がない。彼の評価すべきところは、香取慎吾が元に戻るまでの見せ薬としてアヒルと白塗りを着想したところである。

 『〜三丁目の夕日』は皆んな泣いていた。

 『〜有頂天ホテル』は皆んな笑っていた。違和感を感じはしたが、私もその中の1人である。


●市井義久の近況● その49 2006年3月

 阿佐ヶ谷、成増、東長崎、高田馬場、池袋、京橋、六本木、麹町、追浜、高田馬場、麻布十番と勤務地を転々としてきた。夜遅い職業なので、必然的に昼、夕食を会社の側で食べる。阿佐ヶ谷、京橋、麻布十番はほんとうに助かった。阿佐ヶ谷、おいしいキッチンがあった。京橋、おいしい中華屋とおいしい魚屋があった。しかし、そのいずれも今は無い。家族経営で2人か3人で営業している店が一番なくなりやすい。死んだり、後継者がいなかったり、ビルの建て替えで、立ち退きを迫られると、大体が閉店してしまう。そして6年前からこの麻布十番、閉店した店は、今のところは無い。カレー屋、中華屋、天ぷら屋、キッチン、魚屋、ソバ屋、昼は6軒を回る。夜はとんかつ屋、スパゲッティ屋、中華屋、キッチンの4軒を回る。値段が多少高いこと(いずれも狭い店だから仕方がないのだろうが)を除けば、これだけの選択肢があるのはありがたい。家では朝、パンとコーヒーぐらいで、昼、夜、100%外食を15年、麻布十番のように、 メシ屋で、ジャンル的にないものはないというのはありがたい。ふぐ屋、すっぽん屋、鉄板焼屋、お好み焼き屋など普段は行かなくとも店の存在がありがたい。定食屋をと思うが、学生もいない。若いサラリーマンもいない十番では成立しない。食事だけでも心配しなくともよいのはありがたい。
 昼5分で出てくる店と20分もかかる店があるのも良い。もはや転勤があることもないので、 一生昼と夜は外食が続くので、たとえ事務所を動かす時でも、その街のメシ屋事情がポイントとなる。


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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