第51

5月号


シネマ ファシスト 第51回 2006年5月号
『恋する日曜日』


 17歳の高校2年生が幼なじみの男の子に好きというまでの24時間。舞台は信州上田、明日から夏休み、しかし水橋貴己は明日から東京へ転校、最後の日に幼稚園の時の母の葬式でぎゅっと手を握ってくれた幼なじみに好きと言うまでの24時間。今時の高校生4人、2年の女子生徒が2人(AとB、Aは水橋貴己)。2年の男子生徒が1人(C、幼なじみ)。3年の男子生徒が1人(D、クラブの先輩)。AはCと幼なじみで最後に好きと言いたい。BとDは別れたばかりでBは縒りを戻したがっている。CはBと付き合いたがっていてDはAと付き合いたがっている。この四角の、キスはあるが、愛もあるが、性もない他愛のない24時間。ビデオ撮りのヌケの悪い映画ではあるが、画面に少女と少年の気持ちが乗っている。明日から夏休み、Aはもうここにはいない。その明日からの不在を前提としたAとBとCとDの今日の行動が、学校と家と街という狭い日常的な空間の中で躍動する。気持ちが踊る。

 ケイタイ電話が出てくるので、今時の話ではあるが、上田という地方都市を舞台としているせいか、街と人間が全体的にひっそりとしている。主人公(A)の所属するクラブは弓道部であり、Aは、的のように50年後すら見据えている。しかし映画は、たたずまいは悠然としつつも、人生の端緒についたばかりのゆれる若者を確実に画面に定着している。
 私も4月15日、その上田で桜を見ていた。

映画は7月下旬よりシネマート六本木にて公開。

●市井義久の近況● その51 2006年5月

 上田の話が出たついでに地方都市の話を2つ。
 草津温泉。種々の温泉ベストテンで常に1位、お湯の噴出量日本一。湯畑という不思議な畑のある街。しかし草津温泉という駅が存在しないせいか、それがどこにあるのか、よくわからなかった。ひょんなことからその草津温泉へ1泊バス旅行で行くことになった。浜松町バスターミナル8時出発。土曜日の早朝というのに、こんなに多くの人が居ることにまず驚く。バス1台38名、男同士で行く人はいないが、実に色々な組み合わせの人たちがいる。車中で渡された地図でようやく草津温泉の位置も判明した。1泊2日のバス旅行なので何度も止まっては降り、又バスに乗り出発する。それを何度も繰り返したが、集合時間に遅れる人は誰もいない。それどころかほぼ5分前には全員揃っている。道中添乗員だけでなくバスガイドも一緒で、ガイドさんが、全国には約2,000の温泉があり、多くは北海道、東北、中部に集中しているとガイドしていた。北海道に197の温泉があるそうである。私はどうだろう。北海道は湯の川温泉と朝里川温泉。宮城県は峩々温泉。山形県は銀山温泉。福島県は甲子温泉。新潟県は鷹の巣温泉、雲母温泉、瀬波温泉、越後湯沢温泉、赤湯温泉。群馬県は法師温泉、水上温泉、猿ヶ京温泉、草津温泉。長野県は湯田中温泉。神奈川県は箱根温泉。静岡県は伊豆山温泉、熱海温泉、伊東温泉、観音温泉、蓮台寺温泉、大仁温泉。大分県は湯布院温泉、湯平温泉、別府温泉。わずか2%にも満たない。夜草津温泉に入って気がついたが、体の傷が痛くてピリピリする。訊けば強度の酸性湯で金属を溶かすこともあるという。観音温泉は強度のアルカリ温泉だ。摩訶不思議なものである。
 1泊2日で7ヶ所を見学したが全て知らなかった所である。車の運転をしないので、鉄道回りはわかるのだが、道路回りはほとんど訪ねることがない。箕郷梅林、水沢観音、おもちゃと人形の博物館、浅間酒造、草津温泉、軽井沢プリンスショッピングプラザ、小諸いちご園。軽井沢プリンスショッピングプラザ、日本最大のアウトレットモールか。日曜朝10時、3月というのにすごい人出である。こんな山の中にこれだけの雇用を創出したのもすごいが、よくまあこれだけの買い物客が来るものである。
 最近の観光バスは飛行機のようにイヤホンで音楽も聴けるよう何チャンネルかの番組もついている。色々な組み合わせの人が乗っていたが、1人の男子中学生が、東京駅が近づいたので、ユーミンの唄が「卒業写真」を残して終ってしまったのをくやしがっていた。私も同感であった。

 新潟県岩船郡関川村山本の私の生家に、パリ凱旋門のカラーポジがあった。又家のカレンダーの4月は決って高遠あるいは角館の桜であった。したがって生まれて初めて訪れた外国はパリ、5年間も通った。そしてようやく今年高遠の桜も見ることが出来た。
 高くて遠い街とはいったいどこにあるのだろう。人口わずか2万人の街に桜の季節には20万人もの人が訪れるという街、高遠を目指す。カレンダーにはいつも青空をバックに満開の晴天の桜であった。東京の桜がすべて散った4月15日高遠を目指す。桜は2週間、土日は4日間、4月の信州は雨も多いだろう。しかし何の情報も確認することなく、信州上田城址公園の桜を目指し、次に3,000本の桜が咲くという上越、高田城址公園の桜を目指す。近づくにつれ、情報は上田は曇、五分咲き、高田と高遠は雨、高田は花ではなく枝と幹を見る旅、高遠は一分から二分咲きということであった。世はカレンダーのようにはゆかない。ましてそのカレンダーには1人の人間すら写っていないのである。しかし現実は…。上田は満開の枝垂桜。夜8時の高田城址公園は雨も降らず3,300本もの満開の夜桜が狂ったように咲き競っていた。人々もその基で多くは狂ったようであった。上野公園の3倍もの桜が人を狂気へと駆り立る。
 16日高遠、晴天、南側斜面は満開、ここも1,500本の桜と人が狂態を演じる。さして広くもない城が桜と人と人と人。白いソメイヨシノより色の濃いコヒガンザクラで全山燃える。高遠城址公園の人と桜と、公園を目指す人々とで街は立錐の余地もなし。
 さて次は角館を目指すか。


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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