第53

7月号


シネマ ファシスト 第53回 2006年7月号
『ハリヨの夏』


 70年代、私は体の中に燃えさかるマグマのようなものの捨て所として、映画を見ていた。映画ともう一つだけ挙げれば、詩だけがそのエネルギーと対価であった。柄本明と風吹ジュンにとっても、70年代、そのようなものとして学生運動と詩と歌があったのであろう。しかし世の中は変わらなかった。俺たちだけが、歳を取って変わってしまった。その子供の世代がこの映画の主人公である。於保佐代子らの世代には戦後50年、そのマグマは無い。しかしかつてのように学生運動、映画、詩に走らずとも、自立し、しっかりと生きてゆく立ち場所がある。両生類から哺乳類までの悠久の命を受け継ぎ、過去の詩作のノートは返却し、泳ぎ方は自分でマスターし、その過程で、あたりまえのように出産し、高校生から母へと命をそして自分の生を紡いでゆく現代(90年代)の若者がここにはいる。かつては母を求め父を求め、その母は歌い、その父は母と別れ、他の女と再び父となるや、ハリヨを自分自身を映す合わせ鏡のように見て、出産、子育てへと邁進してゆく。人間の男はハリヨのようではない。原始女性が太陽であったかどうかは不明だが、2006年、かつて参政権すらなかった女性が、別種の負を背負いながらも、生活の場を拡大させている。

 ラスト、キスもしてくれなければ、抱いてもくれなかった高良健吾へ「(泳ぎ方を)自分で覚えたで」という言葉は、これからは個が個として関係してゆこうと相手へと発信しているように思う。

 公開は10月。


●市井義久の近況● その53 2006年7月

 かつて会社は異なるが、同じ作品で一緒に働いていた人から携帯で今村昌平が死んだと聞かされ、あわててネットで確認した。

 2000年11月富山県の氷見で『赤い橋の下のぬるい水』の撮影をしていた時、製作宣伝で1ヶ月近く側にいた。時々は車椅子であったが、しっかりとした足取りであった。鬼の今平と言われていたそうだが、そんな面影はなく、穏やかであった。その時から「新宿桜幻想」という次回作を語り、男は勃つうちが花と、その時73歳にして勃ちそうであった。

 だから永久に死なないと思っていた。その後2001年の公開に向けた取材時には、女性のインタビュアーには懇切丁寧に答え、男性は煙に巻いたり、インタビューの最中に女優を呼び出したりと、男は勃つうちが花という、『赤い橋の下のぬるい水』の北村和夫の台詞を実践しているようであった。今村昌平の死は私には突然であった。日活の撮影所での撮影や編集、ダビングの時、相撲だと早く帰り、イチゴをあんなに美味しそうに食べていたのに、私には突然であった。

 6月5日通夜。亡くなった人はしょうがない。しかし鈴木清順、三國連太郎、中原早苗他、私がスクリーンで見続けてきたことで、私を同時代と錯覚させる人々が、現在は目の前にいても明日は不明であるのが、恐い。


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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