第64

6月号


シネマ ファシスト 第64回 2007年6月号
『絶対の愛』


 男と女は、車の轍のように互いに並行する航跡を描く。過去の出会い、整形、煩悶、そしてふたたびの出会いを、男も女も時間差で軌を一にして行う。顔と肉体を変えることが、精神をも変えてしまうことだとも気付かず、男と女は並行する軌跡を時間差で描く。男の死は事故とは言え、女にとってはこの上なく過酷である。もう2度と並行する軌跡を描くことができなくなり、女はバランスを失調する。男の死は、先に6ヶ月も煩悶した男の女への復讐なのであろうか。女は、ふたたび顔を変えることで、新たな出会いを求め、男の偶発的な死を忘れようとはするが、一度軌道を失った女はもはや進行不能の人生のように見える。

 男も女もある一定の期間は、その男とその女によってしか生きられない。だからこそ、絶対の愛と名付けられた男と女の時間差の航路である。航路、男も女も対称(対象)を失った時は、船に乗って(航跡を描いて)エロティックな水没する彫刻の森ならぬ海へと向い写真を撮る。しかし写真の男女は交わり重なることがあっても、男と女が描く轍は並行なままで、永久に交わることも、重なることもない。2本の平行する線が、一定の期間ではなく、永遠ならば交わると証明できた人もいない。

 キム・ギドク又しても傑作である。映画に登場する人も風景も日本の現代のようである。意識はもちろん、目に見える顔として日本の現在である。



●市井義久の近況● その64 2007年6月 

 3月に草津へ行った時、バスの運転手が「やがてこの辺はダムの底に沈みます。自然の他には何も無いという良さがある川原湯温泉も。」と言っていたので、ゴールデンウィーク2週間前でもまだ予約が取れたので、その川原湯温泉へと新宿発、朝10時のバスで出かけた。その時の運転手が、バスガイド風に、向こうに見えますのが川原湯温泉ですと言わなければ、決して訪れなかった自然である。私に、あたかも行けと命じているかのようであった。豪雨の中をぬけて川原湯温泉入口、2時ようやく雨も上る。みよしや着、3年後にはダムの底に沈む天空の露天へ。里は八重桜、山中は満開のオオヤマザクラ。ウグイスの声を聞きながら、吾妻川と巨木を見ながらの断崖絶壁の湯。一瞬居場所もわからなくなり山中の露天で思うことも無い。春には新しい緑が芽吹き冬になればかつて新しかった緑を落として春を待つ。天空の露天の頭上の八重桜のつぼみは未だ固く、山の春は始まったばかり。翌朝4時に起きてふたたび露天へ、樽と檜、交互に入っているうちに闇も溶ける。イオウ分が強いのに草津のような刺激は無く、メタけい酸の働きでハダがツルツルになってくる。吾妻線、3輌の始発が行く。ある作家の言によると、温泉はお湯、他は無い。それをこのみよしやで実感する。樽に入り薫風に吹かれ、檜に入り山風に吹かれ、それを繰り返しているうちにすっかり夜も明けてきた。

 川原湯温泉も3年後にはさらに400m上方の高台に移転するそうである。歴史は色々な要素が絡まり合って形成される。土地もその要素の1つであるが、場所が変われば源泉も変わる。ならばこの川原湯温泉は3年後、新川原湯温泉として別な歴史を歩みだすこととなる。


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

市井さんの邦画作品宣伝リストへ
バックナンバー
2002年1月 2月 3月
4月 5月 6月
7月 8月 9月
10月 11月 12月

2003年1月 2月 3月
4月 5月 6月
7月 8月 9月
10月 2004年1月 2月
3月 4月 5月
シネマファシスト
第29/30回
シネマファシスト
第31回
6月 7/8月 9月
シネマファシスト第32回
10月号
シネマファシスト第33回
11月号
シネマファシスト第34回
12月号
シネマファシスト第37回
3月号
2005年1月 2月 3月
シネマファシスト第38回
4月号
シネマファシスト第39回
5月号
シネマファシスト第40回
6月号
シネマファシスト第41回
7月号
シネマファシスト第42回
8月号
シネマファシスト第43回
9月号
シネマファシスト第44回
10月号
シネマファシスト第45回
11月号
シネマファシスト第46回
12月号
シネマファシスト第47&48回 1&2月号 シネマファシスト第49回
3月号
シネマファシスト第50回
4月号
シネマファシスト第51回
5月号
シネマファシスト第52回
6月号
シネマファシスト第53回
7月号
シネマファシスト第54回
8月号
シネマファシスト第55回
9月号
シネマファシスト第56回
10月号
シネマファシスト第57回
11月号
シネマファシスト第58回
12月号
シネマファシスト第59回
2007年1月号
シネマファシスト第60回
2007年2月号
シネマファシスト第61回
2007年3月号
シネマファシスト第62回
2007年4月号
シネマファシスト第63回
2007年5月号



TOP&LINKS | 甘い生活苦 | Kim's Cinematic Kitchen | シネマ ファシスト | wann tongue | 読本 十人十色 | 映画館ウロウロ話 | 映画館イロイロ話 | GO!GO!映画館 | CAFE | BBS | ABOUT ME