第67

9月号


シネマ ファシスト 第67回 2007年9月号
『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』


 これでは連合赤軍は浮かばれない。単に閉鎖的でマゾヒスティックでヒステリックな暴力集団ではないか。多くの連合赤軍を知らない人が見たら単なるカルト集団にしか見えない。思想のない人が思想映画を撮ってしまったことの欠陥であろうか。これでは官製の『連合赤軍』である。

 彼らには理想があり、創るべき国があり、愛する人が存在し、主張すべき主義があった。しかしそれらを一切描かないで、ステロタイプの台詞とアクションと同一の構図を繰り返し、これでもかと見る者が嫌悪感を抱くような演出を企てる。確かにこれも連合赤軍の一面であろう。しかし彼らの愛と希望を描かなければ、この映画は『連合赤軍』ではなくアクション映画になってしまう。高橋版、原田版があり、2007年の若松版、未だ見ぬ長谷川版。同時代の私には、これ以降日本から革命家は消えたのだから、この映画は、未だ革命を夢見る若者への愛と希望の映画であって欲しかった。挫折はあっても、挫折のみを描いた若松版は一方だけに偏った描き方だと思う。

 同世代の私はこの映画を8月の湯布院映画祭で見た。5日間の会期、16本の映画、15回の種々の会、そしてゲスト。そんなものには目もくれず、1泊してこの映画だけを見に来た60歳の老人が居た。その人ら私の同世代にこれで良いのかと言いたい。どうせ若い人にはわからない映画だから、連合赤軍をアクション映画にして良いのかと問いたい。

 「勇気がなかった」のではない。この映画は全ての行為は愛と想いの上に立脚しているという視点が欠落しているのだ。少なくともそうであらねばならないという理念が欠落している。だから愛と想いの獲得と欠落を描くことなく欠落後のみに終始している。それでは連合赤軍は浮かばれない。岡本も天空の星を目指し落下したが、落下のみの映画は連合赤軍ではない。頼良も映画の中で声を発することなく消えて行った。


●市井義久の近況● その67 2007年9月 

 私には30回目の湯布院であった。機内では「八月の濡れた砂」と「夏の終わりのハーモニー」を聞いていた。映画祭は32回。秋にも1回だけ訪れたことはある。8月24日金曜日、朝4時に起きて羽田8時5分のANA、10年前の機内では「フレンズ」を聞いていた。11時湯布院着、そのまま玉の湯へ。ニコルズ・バーで時を光を森を風を人を見る。日が陰る緑が濃くなる。さっと風が行く、木々がゆれる、あっあの人はまだ生きていた、新しい人だ、あの人はいない。冷えた白ワイン1本を4時間かけて飲む。ここでは自由だ。何もしなくともよい。法の範囲で何をしてもよい。他の日々は時間ごとにすることは決まっている。しかしここでは何をしてもよい。何をしなくともよい。それが30回目の私の夏の湯布院。

 30年前1977年第3回湯布院映画祭を入口として、27歳の時に初めて湯布院を訪れた。湯布院で、映画祭が開催されていることは雑誌で知っていた、そのころの私の友人の女性の上司が亀の井別荘の中谷健太郎さんを知っていたので以前から地名だけは認知していた。しかしそれまではいかんせんお金が無かった。その時は全ての映画を見、全てのシンポジウムに参加し、全てのパーティに出席していた。会期は最初のころは4日間、その後は5日間皆勤状態であった。しかし今回は、全てに参加できる全日フリー券があるというのに、映画は3本、シンポジウム0回、パーティ2回。参加してもよい、参加しなくともよい。そういうものだと思う。おまけに今年は映画祭が終わってから2日間も湯布院に滞在している。映画祭だけじゃもったいない。映画祭を入口として今日は玉の湯にいる。皆それぞれである。映画祭で知り合って結婚したやつもいる。映画祭で知り合って映画界に就職した人もいる。あきると身を玉の湯の露天に沈める。この一瞬だけはもう何も望むものはない。上ると湯布院天然水を飲んだりはするが、露天に身体をひたす一瞬だけは、もう何もいらない。竹尾、亀の井別荘、天上桟敷、湯の岳庵、下ん湯、泉そば、無量塔 天空のソバ屋、と回る。山と湖と木々と空と温泉と稲田、見飽きることのない景色である。

 しかし湯布院も私も30年前のそれではない。湯布院は由布市に、30年前に絶景と思わず声を出した夢想園の露天は女性用に変わっていた。今回も30年前から来ていると湯布院も変わったでしょうと聞かれるが、私にとっては映画祭は変わったが湯布院は駅前の大好きだったラーメン屋が2軒なくなってしまったぐらいで、大きな変化はない。昔からの知り合いは70歳を過ぎてもまだ現役である。玉の湯のブロシュ、葉書、包装紙、亀の井別荘の包装紙30年前のまんまである。変わらないためには誰かがさりげなく頑張っている。それだけのことである。

 26日もまたあきもせずニコルズ・バーで時を見る。一刻一刻と時が変わってゆく。光があふれる、雲が起る、緑が濃くなる、人が動き出す。セミがより一層強く鳴く。ハグロトンボがさらさらと舞う。もう3時間も過ぎてしまった。夜の玉子かけごはんがおいしかった。27日すき焼き。2年前、台風で飛行機が映画のように全便欠航し、その夜4人の前に大量に出たすき焼きは今思い出してももったいない。台風は誰の責任でもない。なのに、これだけのお詫びの肉とは。台風に深謝。28日映画祭が終わっても湯布院、離れがたくあっという間の5日間。未だあっの余韻。こうやって生きている。こうやって生きてゆく。羽田夜8時着どしゃ降りの、夏の最後の雨。機内の歌のように東京では夏は終わっていた。私の夏は……。


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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