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シネマ ファシスト 第68回 2007年10月号 『天然コケッコー』 この映画は誰にである過去のある一瞬の黄金をスクリーンに止めた。舞台は現代、しかしそれぞれの家々がお正月に、おせち料理を作っていた頃のお話である。映画の中の役者が、皆素人に見えるような、未分化な時代のお話である。そのお話を誰でもが共有できるように見える映画である。映画の中でも主人公が「もうすぐ消えてなくなるかも…。」と話しているが、誰でもが一度は体験したであろう黄金の日々を描いている映画である。稲穂や夏の陽光が黄金色に染まり、中原俊一『櫻の園』のように、桜の花びらが校舎の中に散り入って終る。 出会い、好きになり、いつかは別れがと思いつつ2年のはずが3年になり、いつかは大人になるように別れが、その別れを、男が断髪を怖れぬことで一度は回避して、3年後に延びた。さしあたって喜ぶべき結末である。 島根県浜田市、山があり谷があり海があり田があり、孵化器のように生まれた者を、孵化し、来る人を癒し、住む人を完熟させる。主人公もいつかはここを、幼い子の母代わりをやめて出て行かざるを得ない身ではあっても、今しばらくは、母への愛が強すぎる父と、断髪した同級生と生きてゆく喜びに満ちた映画である。誰にでもある過去の奇跡のような偶然の黄金が一瞬スクリーンに焼き付けられて終った。 いつかは終る、いつかは消える、いつかは苦に転ずる。それを知る人が見る映画であり、映画の中の老人たちのように、いつかは大人も老人となり、14歳すら時を止めない限り大人へと転ずる。その一瞬の喜びに満ちた映画である。「ポーの一族」『櫻の園』のように。 | ||
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●市井義久の近況● その68 2007年10月 故郷(ふるさと)は父も母もいなければ自然と足は遠のく。 私の田舎は米坂線越後大島という駅から歩いて25分。9月の3連休にその隣の駅の越後下関という駅に降り立った。しかしついに無人の実家には足を踏み入れなかった。田舎は車が足代わりで車がなければ、ほとんどの移動はタクシーというもったいない事となる。もちろんそれも理由の1つだが、わざわざ用事もないのに無人の実家に寄る気はなかった。まして8月のお盆に寄ったばかりであり10月もまたお米の発送の為に寄らなければならないだろう、となると気が引けた。又同じく、年4回、お正月、ゴールデンウィーク、お盆、秋の連休と老人性痴呆症の母とも会ってはいるが、今回はその母のいるグループホームにさえ寄らなかった。 面倒くさいと言えばそれまでだが、わざわざ東京から近くまで出かけていって、その2つに寄らなかったのは、18歳で田舎を離れて以来初めてである。時間がなかった訳ではない。やはり実家は幼い頃の父であり、母である。大人になり、まして無人ともなれば、それは隣の家よりは貴重ではあっても、物でしかないような気がする。私と父と母の思いはもう過去でしかない。故郷の山と川と言うが、新潟県岩船郡関川村山本は56年前とそれ程変わってはいないが、父と母が、その実家で暮らしていた頃とは、家の持つあたたかさと、故郷との同一感がやや異なるように思う。 | ||
市井義久(映画宣伝プロデューサー) 1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。 キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。 1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。 2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。 ●2001年 宣伝 パブリシティ作品 3月24日『火垂』 (配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿) 6月16日『天国からきた男たち』 (配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他) 7月7日『姉のいた夏、いない夏』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他) 8月4日『風と共に去りぬ』 (配給:ヘラルド映画 興行:シネ・リーブル池袋) 11月3日『赤い橋の下のぬるい水』 (配給:日活 興行:渋谷東急3 他) 12月1日『クライム アンド パニッシュメント』 (配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋) ●2002年 1月26日『プリティ・プリンセス』 (配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他) 5月25日『冷戦』 6月15日『重装警察』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森) 6月22日『es』 (配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷) 7月6日『シックス・エンジェルズ』 8月10日『ゼビウス』 8月17日『ガイスターズ』 (配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋) 11月2日『国姓爺合戦』 (配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他) ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。 |
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