第69

11月号


シネマ ファシスト 第69回 2007年11月号
『サッド ヴァケイション』


 映画らしい映画である。木々が勝手に枝葉をのばして、その枝葉が逆に幹を支えるように、この映画も親子、家族、肉親という映画の主題から勝手に枝葉がのびて、主題を形成している。光石研の現場見学から居酒屋そして斉藤陽一郎の自宅での長いシーン。その前の密航の手引きのシーンから枝葉の部分はすでにのびはじめている。『ユリイカ』に及ばずとも、2時間16分という尺が許されたことでのスタートと思うが、この2つで親子と肉親という伏線を張るのは面白い試みとしても、石田えりと浅野忠信の出会いから入った方が、話は限定されるが、より衝撃的であったろう。板谷由夏の妊娠にしろ、とよた真帆の妊婦にしろこの映画は血が強調されているが、主題は間宮運送店である。血の繋がらないあぶれ者同士が、血族のように1つ屋根の下で暮らす。昔やくざ映画で描かれていた組の世界である。夫婦がすなわち、何の血も繋がらない者同士が出会って、家族を構成するように、この映画は血の繋がらない者同士が、どうやって個を脱して群として生きてゆくかの映画である。だから登場人物の視線は交り合ってはいない。視線が交わったのは、石田えりと浅野忠信の出会い。多くの人が皆一様に空を見上げたり、外を見ているシーンはあっても、血族、血にまつわるお話なのに、およそ正面から対峙しているようには見えない。物語の主たる舞台の間宮運送店は、あぶれ者、はぐれ者が、一つ屋根の下で暮らす組に準じた疑似家族であるから、ゆんわりと、ふんわりと納まっている。ふんわりというのがこの映画の納まり方だとすると、高良健吾は、やはりはじき飛ばされざるを得ない。17歳だからではなく、万引きでも強姦でもなく、中村嘉津雄を父とし石田えりを母とする普通の子息に過ぎないからである。他の登場人物は、面と向き合えば、まともに向き合えば、軋轢を生じかねない人ばかりである。そこで言葉も通じない、血も繋がらない浅野忠信と畔上真次の共同生活のようにやんわりとした同居生活を選択する。おそらくこれが、今これからの血族である。

●市井義久の近況● その69 2007年11月 

 新潟へ出かけた。今年4回目。今回は新米の発送作業である。7年前に父が亡くなってから稲作は隣の農家にお願いし、秋になって収穫の時季を迎えると、玄米300kgを精米し、10kgずつ20ヶ所に送っている。
 私と義理の弟と妹、60歳近い3人が300kgの米を精米し10kgの米を20箱、箱詰めして宅急便で発送している。慣れない作業であり、3人とも腰痛持ちときては、長男である私はまだしも、2人には感謝、感謝である。まして今回は土日の2日間、妹と義理の弟は7時頃に新潟に着いて、10時作業開始というのに、私が着いたのは午後の2時。10時に着くべく朝の4時には起きてみたが、まさかと思い7時まで寝ていた。
 以前ならば3日か2日かかる作業を、今回はお米を発送する時入れる袋をビニールから紙に変えたので、精米した米をさます必要がなくなり1日で終った。翌日は午前中に、桂の関温泉ゆ〜むへ。午前中からの温泉、そしてビール、死ぬ時も温泉にしよう。人も少なく、作業後の温泉は格別であった。
 なぜ父の死後7年間もこんなことをしているのか。金もかかる。肉体もきつい。おまけに長男である私は率先してやらない。一応実家の新米を食べると、ちょっと1年を生きた気がする。送る20人もちょっとは喜んでくれる。作業後の温泉は格別である。そんな理由だろうか。それにしても7年も付き合ってくれる義理の弟と妹に感謝したい。あとは私が子供の頃から見慣れている豊かな気持ちが満ちてくる秋の田園風景は、やはりなくしたくないのでお米を作ってもらっている。


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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