第82

12月号

シネマ ファシスト 第82回 2008年12月号
『その木戸を通って』


 市川崑の公開順の遺作がこの映画で本当によかった。光、ローソクの光が浅野ゆう子に当る時。陽光が、あるいは雨が竹林に注ぐ時、それだけで画面から物語が匂い立って来る。
 時代劇である。取り立てての事は起こらぬ時代劇である。1人の女が突然現れ、子供をつくり、再び、現れた時の木戸から去ってゆく話である。しかし画面に映画のように光が射す時、ライトが当る時、とてつもない物語が、夜明けの太陽のように、突然顔を出す予感がする。しかしついに出て行った女の消息は知れず、その女の正体も分からず、女の残した娘は嫁に行き、又手伝いの女も嫁に行き、再び老夫婦と3人での平穏な日々に戻る。それだけの話である。しかしこの映画の映画的表現は、たとえ画面に風が吹かない時でも、雨の降らない時でも、雷鳴の轟かない時でも、見る者に絶えず、何かとてつもない事が起こる予感をさせる。物語そのものではなく、カメラが映し撮る映像が、物語を紡ぎ出している。

●市井義久の近況● その82 2008年12月 

 間もなく今年も終る。本当に今年は私にとって転機だった。1月から7月まで仕事が無く、8月は30年間行き続けた湯布院映画祭にも欠席し、葬式ばかり6回も出席した。これでは間もなく舵を切ろうとしている船の来年の落ち着きが全く見えない。
 そんな今年だからこそ、映画だけはここ何年かぶりにおもしろかった。それは時代が転換期である証拠である。時代が勃興する時、
あるいは凋落する時、映画はおもしろい。日活ロマンポルノ、アメリカンニューシネマ、
韓国では『ペパーミント・キャンディ』の頃、その意味で今年は私も日本も、過渡期であった。首相が2人続けて職を投げ出したり、空前の不況というのだから間違いないであろう。
 さて来年を語ると鬼が笑うと言うが、確かなことは、依然生きるのだけはやめないでおこうという思いである。11月22日から24日まで、仕事的にも金銭的にも相当無理をして草津へ行って来た。22日の午後5時から24日の朝10時まで、食事と睡眠と入浴を数回繰り返しただけである。それだけで“湯快”である。こんなことは草津ならずとも、日々どこでも体験できる。日常もそれだけの至福に満ちているのだから、ともかくも生きてゆこう、来年確かなことは、今のところこれだけである。


市井義久(映画宣伝プロデューサー)

1950年新潟県に生まれる。 1973年成蹊大学卒業、同年株式会社西友入社。 8年間店舗にて販売員として勤務。1981年株式会社シネセゾン出向。 『火まつり』製作宣伝。
キネカ大森番組担当「人魚伝説よ もう一度」「カムバックスーン泰」 などの企画実現。買付担当として『狂気の愛』『溝の中の月』など買付け。 宣伝担当として『バタアシ金魚』『ドグラ・マグラ』。
1989年西友映画事業部へ『橋のない川』製作事務。 『乳房』『クレープ』製作宣伝。「さっぽろ映像セミナー」企画運営。 真辺克彦と出会う。1995年西友退社。1996年「映画芸術」副編集長。 1997年株式会社メディアボックス宣伝担当『愛する』『ガラスの脳』他。

2000年有限会社ライスタウンカンパニー設立。同社代表。

●2001年 宣伝 パブリシティ作品

3月24日『火垂』
(配給:サンセントシネマワークス 興行:テアトル新宿)
6月16日『天国からきた男たち』
(配給:日活 興行:渋谷シネパレス 他)
7月7日『姉のいた夏、いない夏』
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:有楽町スバル座 他)
8月4日『風と共に去りぬ』
(配給:ヘラルド映画  興行:シネ・リーブル池袋)
11月3日『赤い橋の下のぬるい水』
(配給:日活 興行:渋谷東急3 他)
12月1日『クライム アンド パニッシュメント』
(配給:アミューズピクチャーズ 興行:シネ・リーブル池袋)


●2002年

1月26日『プリティ・プリンセス』
(配給:ブエナビスタ 興行:日比谷みゆき座 他)
5月25日『冷戦』
6月15日『重装警察』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:キネカ大森)
6月22日『es』 
(配給:ギャガコミュニケーションズ 興行:シネセゾン渋谷)
7月6日『シックス・エンジェルズ』
8月10日『ゼビウス』
8月17日『ガイスターズ』
(配給:グルーヴコーポレーション 興行:テアトル池袋)
11月2日『国姓爺合戦』
(配給:日活 興行:シネ・リーブル池袋 他)

ヨコハマ映画祭審査員。日本映画プロフェッショナル大賞審査員。

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